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18.転移魔法陣

 第六階層は魔物の巣窟となっていた。

 魔獣以外にもゴブリンやゴーレムといった人型の魔物がそこら中に潜んでおり、通りかかる侵入者を待ち構えている。


 アルクは無駄な戦闘を可能な限り避けるために、遺跡間は走って移動していた。また、戦闘になった場合も、長引かせないようにスキルの出し惜しみは一切せず、立ちはだかる敵をすべて一撃のもとに倒していった。

 襲いくる魔物の群れの中には、第五階層の主である巨狼にも引けを取らない強さの個体すらおり、検問所の兵士やほかの冒険者がアルクを心配するのも大げさではなかったのだと改めて納得するほどの過酷さだった。




 (さっきの冒険者パーティーも、決して弱くはなかったはずだ)


 アルクはこれまでに得た知識や経験に基づき、自分が持つ〈身体強化(極小)〉に当てはめて、〈身体強化〉スキルを種類ごとに評価していた。それにより、同じ〈身体強化〉スキルの使い手の実力を、ある程度まで推測できるようになっていた。


 たとえば、比較対象が〈身体強化(小)〉だった場合、〈身体強化(極小)〉で同じだけの膂力を得ようとしたときには、十から十五程度のスキルを重ねる必要がある。

 つまり、単純に〈身体強化(極小)〉の力を”一”と仮定すれば、〈身体強化(小)〉の力は”十”から”十五”となるわけだ。

 ただし、本来ならこれに加えて、〈身体強化(極小)〉と〈身体強化(小)〉のスキルの効果範囲の違い、ほかにも、スキルの出力差や技量などといった個人能力の差も考慮しなければならないわけだが、単にスキルの違いを知るだけでも、おおよその見当ぐらいはつけられるのだ。


 (リーダーの男は、身のこなし的に〈身体強化(大)〉を使っていたのは確実だ。その使い手が率いるパーティーが第六階層で敗れるか……)


 迷宮にもよるが、十階層辺りまでであれば、〈身体強化(大)〉レベルのスキル持ちがパーティーにいなくても進めるところは多いのだ。それがたった六階層で全滅するなどと誰が予想できるだろうか。

 つまり、この迷宮に限っては、これまでの常識は通用しないと考えたほうがいいのだとアルクは感じていた。


 (いずれにしても、このまま進んでまともに相手をしていくのは面倒だな。どこかに抜け道があるはずなんだけれど……)



 ◇



 アルクは階層内を渡り歩き、点在する遺跡の中を探し回っていった。そうして十か所以上を見て回り、ちょうど休憩しようと遺跡の壁に手をかけたとき、触れた壁面に違和感を覚えた。


 「……当たりだな」


 スキルで強化した腕で力を加えると、手を当てた箇所から壁全体にヒビが入り、後ろの空間へ向かって一気に雪崩落ちていった。

 壁の先は階段になっており、遺跡の地下へと続いているようだった。


 迷わず階段を下りて地下の小部屋に入ったアルクは、部屋の中心で怪しげな光りを放つ魔法陣の前へと進んでいく。

 それは検問所の兵士が言っていた転移の術式が刻まれた魔法陣である。


 だが、その光はどこか儚げで今にも消えてしまいそうにも見える。

 アルクは魔法陣に向けて右手をかざすと、途方もないような量の魔力を惜しげもなく注ぎ込んでいく。


 (あーなるほど、これは罠じゃなくて移動用の魔法陣だな。もっとも、侵入者対策は万全にしているみたいだが……)


 次第に魔法陣の光量が増して、朧気だった輪郭が露わになっていくものの、それでもまだかなりの時間と魔力が必要なのは容易に予想できた。




 それから更に時間が経ち、魔法陣から溢れた魔力が小部屋の床を満たすくらいにまで溜まったときである。

 ようやく本来あるべき輝きを取り戻した魔法陣が、不意にその機能を発揮してまばゆい光を発し始めた。

 立ち上る光の中へと呑まれたアルクは、足元からの閃光を片手で防ぎながらも、即座に魔力を練り上げてスキルで身を固めていく。


 (さあて、鬼が出るか蛇が出るか)




 やがて、魔法陣から発せられていた光が収まったとき、第六階層からアルクの姿は消えていた。

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