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14.検問所での一幕

 迷宮の探索許可証を受け取ったアルクは食事も早々にすませると、急ぎリヒト迷宮へと向かっていた。


 (この町には長居しないほうがいいだろうな)


 きっかけは、先程冒険者ギルドで会った職員の男だ。

 一見すると人がよさそうな雰囲気をしているが、その爽やかな笑みの裏に何かを隠していることをアルクは感じ取っていた。

 そして、その会話の中にあった領主との繋がりを思わせる部分に、どうにも引っかかりを覚えずにはいられなかった。


 (あれは確実に目をつけられてしまったな。厄介事に巻き込まれるのだけはごめんだけど、迷宮について事前に情報を得られたと考えれば……まあ、悪くはなかったのか)


 そんなことを考えながら、町から南西方面へと続く草原をひた走っていると、前方にある小山の中腹辺りに、ぽっかりと開いた大きな黒い穴が見えてきた。



 ◇



 リヒト迷宮入り口前。


 草原から見えた大穴の入り口は柵によって囲まれており、周りには数人の衛兵が立っている。その脇に建てられた検問所らしき建物の前には、順番を待つ多くの冒険者が列をなしていた。

 周囲には仮設で用意されたと思われる掘っ立て小屋がいくつも並んでおり、そこで素材や道具の売り買いをする人々の姿が見て取れた。

 アルクも迷宮に入るため、ほかの冒険者に倣って列の最後尾へついた。




 列が進むのは意外と早く、あっという間にアルクの番が回ってきた。

 検問所の中に入ると、若い兵士に左側の小部屋に入るように指示される。そこで探索許可証を提示するように促され、渋顔の兵士に許可証を差し出した。


 「……ふーん、Cランクねぇ」


 兵士はそう呟きながら、値踏みするようにアルクの全身をまじまじと見てくる。


 「見たことない顔だが、パーティメンバーはもう迷宮の中にいるのか?」

 「いや、オレ一人だ」

 「あ、なんだ? あんた一人だって?」


 アルクの返事を聞いた兵士は深くため息をついて近くの椅子に腰かけると、帰れと言わんばかりに手を振った。


 「あーもういい、結構だ。話にならん。準備を整えてから出直してきな!」

 「それはどういうことかな? Cランクでちゃんと許可証もある。それともまだ何か必要なのかね?」

 「いいや、違う。そうじゃない。あんたらみたいな昇格したばかりの中位冒険者は迷宮を舐め過ぎなんだよ!」


 兵士は勢いよく立ち上がると、ギロリと目を見開いてアルクをにらみつけてきた。

 まるで冷気が吹き抜けるがごとく、部屋の空気が一瞬にして凍りつく。

 それは一流の猛者のみが出せる特有の殺気であった。


 「俺はな、これでも昔は一線で戦っていた元冒険者だ。気持ちはわからなくもないが、あんたの目を見る限り、迷宮の上層で満足するようなタマじゃないだろ?」


 底冷えするような声で兵士は言う。


 「だったらダメだ。一人で行くってんなら、今の俺を倒せるぐらいの実力を――」


 そこまで言いかけて兵士は言葉を詰まらせた。

 目の前の青年から迸る、すさまじいまでの力の奔流を感じたからである。

 アルクが放出した魔力の暴威は、兵士の殺気をあっさりと消し飛ばすと、まるで激流のように周辺一帯を飲み込んでいった。


 「いっ……一体、何事ですか!?」


 すると、部屋の近くで見張りをしていた若い兵士が慌てて部屋に駆け込んできた。

 あとからほかの兵士もゾロゾロとやってきて、未だ部屋の中に残っている魔力の余波の中心にいるアルクへと剣を向けてくる。


 「ま、待て! 俺がこのお方を挑発したのが原因なんだ。全員剣を収めてくれっ!」


 検査担当の兵士は、必死にほかの兵士たちを説得してなんとか事態を治めると、アルクに対して腰を折って深く頭を下げた。


 「本当にすまないっ! 試すような真似をして悪かった!!」

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