13.冒険者ギルド ラーヴェン支部
ラーヴェンの冒険者ギルドは、ペルト支部よりも小さく内装も簡素なものだった。
端的にいえば、冒険者が利用できるスペースが狭いのだ。酒場などは併設されておらず、主に職員の事務スペースが大半を占めており、入るとすぐに受付がある。
室内にはほかの冒険者はおらず、待つことなく応対を受けることができた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
対応したのは気立てのよさそうな中年の男性職員だ。
柔和な笑みを浮かべているものの、何気ない動作にも一切の隙がなく、相当な実力者であることを窺い知ることができる。
アルクもまたにこやかにほほ笑みながら男性職員と相対した。
「ラーヴェンで新しく迷宮が見つかったと聞いてね。そこの探索許可をもらいにきたんだ」
「リヒト迷宮ですね。失礼ですが、冒険者章をお持ちですか?」
「ああ、これだったかな」
冒険者章を差し出すと、受け取る男性職員の目がギラリと光ったような気がした。
「……Cランクのアルクさまですね。確かに確認させていただきました。それでは迷宮探索の許可証を発行させていただきます」
「審査とかはしなくていいんだね」
「ええ、私の確認だけで十分ですから。何より、領主さまから冒険者ギルドに全権を託されておりますので、ご心配には及びません」
「なるほど」
自然に会話を交わしつつも、アルクは男性職員から目を離せずにいた。
アルクの勘が目の前の男が危険だと告げているのだ。
内心の疑念を気取られないように、それとなく別の話題を切り出す。
「一つ疑問があるんだけど、いいかな?」
「ええ、なんでしょうか?」
「ここに来るまでにラーヴェンの町を見てきて、かなりの賑わいを見せていると感じたんだが、町はこれだけ大きいのに、それに比べてギルドの建物がずいぶん小さいと思ってね。仮にもここは迷宮都市と呼ばれているんだろ?」
「ああ、そのことですね」
書類を作成していた男性職員は苦笑いを浮かべながらも、理解を示すように一度うなずいて見せた。
「各迷宮の前には、それぞれギルドの出張所兼素材の買取施設があります。そのためか、ここは事務所としての役割が多くなってしまい、あまり冒険者の方々は立ち寄られないようなんです」
「そういうことか」
「まあ、リヒト迷宮の周辺施設に関してはあまり大きくはなりそうにありませんが」
「リヒト迷宮はいい素材が手に入らないのか?」
「そういうわけではありませんが、迷宮の性質が厄介なのです」
「性質?」
そう尋ねながら、アルクはこれまでに調べてきた情報を頭の中で整理していく。
迷宮とは、地上と切り離された別の空間であり、それぞれの迷宮ごとに異なる法則が存在する。
内部は階層で分かれており、各階層には”階層の主”がいることがある。
最下層には共通して”迷宮の主”がおり、その近くには”迷宮の核”なるものがあるという。
アルクが探し求めているのは、その迷宮の核であった。
(ここでいう性質とは、何かしらの法則のことだな)
そこまで推定したアルクは、男性職員に質問し直す。
「迷宮の構造……いや、移動手段に問題があるのかね?」
「……ほう、お見事。いえ失礼。おっしゃる通り、階層に転移するための”印”に特殊な性質があるんです。印を使うと到達した階層の次の階層、つまり、一度も行ったことのない未攻略の階層まで強制転移させられるのです」
“印”とは、迷宮に入った者が到達した階層につけられる目印のようなものである。制限はあるものの、一度印をつけた階層と入口間を自由に行き来できるようになるという、迷宮の有名な法則の一つである。
それがリヒト迷宮では、印を使った時点で、まだ到達していない未知の階層まで強制的に飛ばされるのだという。
「それは厄介な性質だな」
「ええ。ゆえに別名を”大喰らい”と呼ばれています」




