表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/51

12.迷宮都市ラーヴェン

 「あの、どうかされましたか?」


 ステータスカードを見つめたまま動かなくなったアルクに、受付嬢が心配そうに声をかけてくる。


 「ん……ああいや、なんでもない」


 素っ気なく答えたアルクは話題を変えるべく、別の要件を切り出した。


 「それはそうと、ラーヴェンに行く馬車はどこで出ているのかな?」

 「ラーヴェン行きの馬車でしたら町の南から出ています。そういえば、あの近辺で新しく迷宮が見つかったんでしたっけ」

 「ああ。Cランクになれば大規模な迷宮にも入れるから、ちょうどいい機会だと思ってね」

 「アルクさんならきっと未発見の階層まで辿り着けますよ。ご健闘をお祈りしています」

 「ありがとう」




 冒険者ギルドから出たアルクは、町の武器屋で安物の鉄の剣と、服屋で旅人用の動きやすくて丈夫な革鎧を買った。

 鉄の剣は冒険者として侮られないようにするための飾りである。普段から素手で戦っているアルクは使うつもりがないため、値段だけ見て購入したものだ。


 南門の近くに行くと馬車に乗るための列ができていたため、目当ての馬車はすぐに見つかった。

 御者が言うにはラーヴェンは同じ領内にあるため、一日程度で着くとのことだった。

 アルクが乗って少しすると、最後の乗客を乗せて馬車が出発した。



 ◇



 道中で魔物に襲われることもなく馬車は順調に進み、翌日の昼過ぎにラーヴェンに到着した。

 門をくぐるとにぎやかな繁華街が広がっており、田舎町しか知らないアルクを大いに驚かせた。中でも愉快な音楽を奏でて不思議なパフォーマンスを繰り広げる大道芸人たちの姿は、まだ年頃のアルクの心を強く惹きつけるものだった。

 そんな誘惑に耐えながら馬車に揺られていると、道端で大声をあげる男たちの姿が目に入ってきた。


 「おい、クソガキ! モタモタしてねぇで、とっとと歩けや!!」


 がなり立てる強面男に屈する様子もなく、獣耳の小さな少年が負けじと声を張りあげて食い下がる。


 「こんのヤロウ、いい加減にしろよっ! それにクソガキじゃない、オイラの名前はカイだ! とっとと覚えやがれ!!」


 なんとも程度の低い会話ではあるが、彼らの身なりから察するに、少年が奴隷で男のほうが奴隷商といったところだろう。

 アルクがその様子を眺めていると、ほかの乗客たちがひそひそと話し始めた。


 「うるさいなあ。これだから民度の低い町は嫌なんだ」

 「何よ、あの汚い子供は? 雇い主もちゃんと教育したらどうなのかしら?」

 「まったくだ。人目のつくところにあんな汚物を持ち込んで欲しくはないね」


 口々に発せられる言葉は、ほとんどが獣人の少年さえも侮辱する内容だった。

 少年が反抗的な態度を取る前に、奴隷商が少年の髪を掴んで、無理やり歩かせていた光景は乗客たちも見ていたはずだった。

 にもかかわらず、どうして少年が非難を受けなくてはならないのか。

 スキルだけでなく、種族間にも差別があることはアルクも知識としては知っていた。だが、実際に目にすると、なんと苛ただしいものか。


 自然と握りしめていたこぶしに痛みを感じて、アルクは冷静さを取り戻す。


 (……今はダメなんだ。ごめんね)




 そうこうする間に馬車は停留所に到着した。

 アルクは御者から町の主要な施設の場所を教えてもらうと、迷宮の探索許可を受けに冒険者ギルドへと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ