異世界に家出して冒険しています(4)
冒険者のたまり場の定番、酒場での一場面です
冒険者たちのたまり場と言える。ルイーダの酒場で、ユウマとゴリアテがいた。
ゴリアテは鋼のゴーレムであり、ユウマは未成年である。
当然のようにこの異世界では未成年の飲酒を禁止するような法律はないのだが、ユウマはもともと酒を受け付けない体質ということもあり、あまり酒は飲めない。
酒場で何も注文しないわけにはいかないと、いっぱいだけ頼んだ酒も、ほとんど口をつけていない状況である。
「疲れたな。」ユウマのぼやき声が漏れて来た。
「ガァー、ガァー」ユウマとアーシャ以外には雑音としか聞こえない、ゴリアテの声が聞こえてくる。
「だらけるなって?、でも一仕事を終えたのだから、仕方がないだろ。」ユウマが答える。
アレから土砂に呑まれたゴブリンたちには何体か、いまだに息のある者も残っていたから、とどめを刺し。
さらに巣穴に戻って、残ったゴブリンを狩っていった。
幸い、ほとんどのゴブリンは、ユウマ達を追いかけ、命を落としたらしく
ほとんど残っていなかったが。
それでも10体以上は倒した。
そして巣穴には人間の女性が7人ほど、捕らえられていたのを発見し。救出した。
どうやら、森の奥にある小さな集落の女性たちだったらしい。
集落の襲撃を受けて、連れ去られたようだ。
ゴブリンを仕留めた証拠として、ゴブリンの片耳を切り取り、それをギルドに提出したのは今日になってのこと。
ほとんどのゴブリンは土砂に呑まれて、耳の回収は出来なかったが。
それでも30体以上のゴブリンの耳は提出している。
これで依頼を果たしたとの証拠は充分だろう。
依頼料金とゴブリンを倒した事による懸賞金がもらえるはずだ。
そのためのギルドとの交渉は、いまアーシャが行っている。
ユウマは他にやる事は無いと酒を一飲みしてから
「飲めたものではないな」と罵る。
こっちの世界の酒はマズイ。
若牡丹や白鷹とか、故郷の酒が懐かしくなる。
「ほら、だらけないの」アーシャの声が聞こえて来た。
振り返ってみると、予想通りの姿がある。
外見の年齢はユウマと大差はないが、実のところ、ユウマが幼いころから付き合いがあり、そのころから姿はまるで変っていない。片親から受け継いだ。何百年もの長き生を歩むエルフの血筋が為せることであり。
間違いなく年齢はユウマより上で、そして幼いころからユウマの面倒をみてくれた姉替わりのようなところのある女性だ。
ユウマは、彼女の事をアーシャと呼んでいる。これは本名ではなく愛称である。
彼女の本名は聞いた事はあるが、彼女が名乗る事も滅多にはない。
「アーシャ、それで交渉は上手くいったのか?」
「ええ、ゴブリンを退治したことは認めてくれたわ。ただね。」アーシャは肩をすくめた。
「うん?」
「ゴブリン退治の報奨金の方がね。かなり値切られたわ」アーシャが忌々しそうに言った。
「やはり耳を提出しなかったからか。」
「提出した耳の数の分の報奨金はもらえることになったけど。土砂に埋もれて回収できなかった分は、支払えないとなかなか認めなかったのよ。」
「ケチだな。」ユウマが吐息をもらす。
「でも最後にはこっちの主張も認めさせて、提出した耳の数の倍まで認めてやるって事になったわ。それ以上は無理だった。」アーシャは答える
「まあ、仕方がないか」ユウマは息をついた。
倒したゴブリンの数は100を優に超えているが、報奨金は提出した耳の数で決まる事になっているから
回収できなかった分は認められない事が多い
それは最初から分かっていたことだ。
倍まで認めさせただけでも、アーシャの交渉を認めるしかなかった。
「クエストの報酬と報奨金でしばらくは暮らしていけるわ。それで我慢しましょう」アーシャはそんなことを言いながら、席に座った。
「そうだな。」ユウマは頷く。
もともとユウマは報酬にそう執着しているわけではない。
こっちで暮らすのに必要だから稼いでいるだけだ。
「そういえば、あの助けた女の人たちはどうなった?」ユウマはふいに話題を変えた。
「あ、そうね。」アーシャは顔を少し曇らせた。
「どうした?」
「いえ、何でもないわ」アーシャはユウマににっこりと笑った。
「あの女性たちは衰弱が酷かった二人も助かりそうよ。あとの五人も順調に回復しているらしいわ」
「そうか、それはよかった。」ユウマも頷く。
「ええ、そうね。」
「早く家族のもとに戻してやらないとな。家族だって会いたがっているだろうし。」ユウマの言葉にアーシャが表情をこわばらせた。
「ああ、それはそうと、ユウマ」アーシャがふいに問いかける。
「何だ。」
「報酬をもらったらどうするの?」
「そうだな。特に考えていないけど。」ユウマが考え込む
「ゴリアテはどうなの?」アーシャがゴリアテに視線を向ける。
「・・・・・。」
「えっと、王都の方に行けないかって言っているのね。でも、それは待ちなさい。」アーシャが答えると、ゴリアテからは何の反応もないが
どうにも不服そうな雰囲気は感じられる。
鋼の体だけに分かりにくいが、付き合っているうちに仕草で何気なく気持ちがわかるようになった。
「わかるでしょう。王都はいま危険なのよ。」アーシャが答えた。
「ゴリアテの気持ちはわかるけどな。」ユウマも頷く。
「・・・・。」ゴリアテは面白くなさそうだ。
アーシャとユウマは視線を交わした。
その時に思わぬ声が聞こえた。
「ゴブリンどもを始末したというのは、お前らか」そんな横柄な声だった。
「はい?」ユウマたちの視線がそちらに向いた。
さて、次はどうつなげますか?