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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第90話[終] 誰か私をお宅に住まわせてください3

   *   *   *


 カラーズ一行はハロルドワークのロビーに集まっていた。妖魔討伐クエストを終わり、その報告を受け付けに提出し終わったところなのだ。


 『ロックさん、大至急岩窟園に来てください。キャスティさんから大事な話があるそうです。』


 エルから突然念話が届いた。


 『何ごとじゃ?』


 リダが勝手に応える。


 『ネイさんが大変なんです。』


 『分かった。すぐに行くよ。』


 何が有った?


 「緊急事態みたいだ。急いで帰るぞ。フォトラは此処で解散だ。」


 僕らは急いで家に戻ることにした。


   *   *   *


 帰宅の道中ずっと駆けていた。エルがしつこく早く帰って来いと催促したからだ。だから玄関に着くころには息が上がっていた。フェルミは余裕の様子だ。


 扉を開くとそこにシィが居た。


「ロックぅ。これを読んでぇ。」


 僕はシィが手渡した紙に書かれているものを読んだ。


『さようなら。もっと面白そうな事が出来たのでここを去ります。探さないでください。ネイより。

 追伸:ロックへ。新大陸発見おめでとう、そのままその大陸を制覇しちゃいなさい。これで大望は叶ったも同然ね、私から教えることはもう無いわ。これからは私の代わりにシィとロクシーと組んで上手くやりなさい。』


「な、なんだこれは!?」


「ネイさんがぁ、要らない本を売ってくるって出て行ったのぉ。箱を抱えてたわぁ。

 そして私がぁ書斎を掃除しに入ったらぁ、これが本棚に置いてあったのよぉ。」


 キャスティの一大事はこのことか!


 どうする!? まずはキャスティに会いに行くべきか。


 僕はルビィにその手紙を押し付ける様に渡して、転送部屋に走った。


   *   *   *


 フォトラを除くカラーズの面々は街門の外の近くの森に向かって走っていた。掃除屋の三人が放火魔のパロを殺そうとしていた現場だ。


 濃い色の雲が全天を覆っており、今にも雨が降り出しそうな風が吹いていた。


 ――キャスティの指示通りに僕は岩窟園に飛んだ。そこには大人のキャスティとエルが居た。キャスティは小さな水晶玉を僕に押し付け、直ちに昔のネイの相棒であるカーリーを追えと言った。それがネイを取り戻す最善策だと言って。


 カーリーが居るという街門近くに駆け付ける道中、キャスティがエルの念話を介してカーリーの位置と人相と服装、それに現在に至る状況を教えてくれた。それによると、カーリーがネイの元を訪れネイを脅迫したらしい。異変に気付いたシィがキャスティに報告、キャスティがグローリアちゃんにカーリーを付けさせているとのことだった。カーリー人相と服装は、掃除屋のメリークを連想させた。


 そして今に至る。


 いったいどんな脅しをかければ、ネイがあんな行動に出るのだと言うのだ!?


 だんだんカーリーに腹が立ってきた。


 キャスティが指示した場所である森の中の少し開けたところに、掃除屋の面々、アベンド、パリエラ、メリークが居た。


 僕はメリークがカーリーであることを確信した。


「お? 何だお前ら~。カチ込んで来たのか?」


 嬉しそうに手を振ってくるパリエラ。


「メリーク! いや、カーリー! ネイを返してもらうぞ! チェンジ!」


 僕は戦闘モードに変身した。


 僕に倣ってルビィ、デルファ、フェルミ、ゼロが変身する。


「おい! その名前をバラすなよ!」


 メリークがカーリーと呼ばれたことに怒っている。


 ネイを返せという事に関心が行っていない様子にますます怒りがこみあげて来た。


「まじか! メリークがボス!?」


 パリエラがメリークの方を見て驚いていた。アベンドは微動だにしていない。


「みんな、出来るだけ殺すなよ。アイツには聞きたいことがある。」


 僕はカラーズの面々に言った。


「ちょうどいい、お前の方から襲ってきたんだ。正当防衛だよな!?

 タダで帰れると思うなよ!」


 メリークが素手で構え、物凄い殺気が溢れ出た。アベンド、パリエラが抜刀する。リダが僕の横で構えている。


 次の瞬間、ゼロとフェルミの剣が僕の前で交差し、メリークの拳を受け止めていた。ゼロとフェルミが後方に吹き飛ばされ、目の前のメリークが腰を落として両拳を握って構えていた。


「ふふ。覚悟は良いか?」


 くそ! なんて奴だ! パロを殺そうとしていた時以上に凄まじい! あの時メリークは本気を出していなかったのか。こっちはまだ初撃も繰り出していないんだぞ。


 ブラッドサッカーを撃つ間があるのか分からない。僕はブラッドサッカーの柄を強く握りしめた。


 ここで殺されたら、二度とネイに会えなく――。


 その瞬間、落雷の轟音と共に世界が白くなった。




 大人のキャスティが僕の右手に立っていた。いや、五十センチメートル程宙に浮いている。そして僕の正面に居るメリークに向かって、右腕を伸ばして手を広げている。その双眸は深紅に染まっている。


「さてと。カーリーって言ったかしら、あなた不老ね?」


「動けない? 誰だお前?」


 カーリーが中腰の構えを解いたが、それ以上は動けない様だった。


 周囲に目を向けてみると、キャスティの後ろには、大木に雷が落ちている瞬間の大きな絵があり、その稲妻が強烈な白い光を放っていた。


 いや、絵ではない。


 時間が止まっているのだ。僕ら三人以外の、アベンドやルビィ達も、舞い落ちる木の葉も、全く動いていない。実態のないリダは動ける様だ。


 これは……、助かったのか?


「あなた達が言う神の一人よ。あなたが私の眷属に手を出すから、直接動かざるを得なかったのよ。」


「邪魔するな。」


 神と言ったキャスティを意に介さないカーリー。


「そうは行かないの。理由は二つ。一つは私の目的を達成するために働いてくれている眷属の保護。もう一つは私の神としての役割、不老能力者の監視の遂行よ。不老は私の摂理に合わないのよねぇ。

 だから、あなたには私の監視下に入ってもらうわ。」


「何を言ってる?」


 確かに、キャスティは何を言っているのだ? 不老者の監視?


「二つ目はもう叶ったから、一つ目をどうするかなのよね。

 あなた、ネイから手を引いてくれない?」


「私はナガラを殺さなきゃならないんだよ!!」


「何だかこじれてない? 急いている理由でもあるの?」


 キャスティの言葉に、メリークはちらりとアベンドの方を見た。


「ふふ~ん。私の言う事を聞けないって言うんだったら、あの子を殺すわね。」


 キャスティは左手でアベンドを指さした。


「やめろ!」


「あら、別に良いじゃない。あなたもロックを殺そうとしてでしょ?

 ……それはさておき、ナガラを殺したら、あなたその後どうするの? もしかして、その子が老いて死んだら自殺でもするの?」


「それは……。」


「やはり、そういう事……。

 じゃあ、こうしましょう。私がナガラを探してあげる。もちろんネイやロックに協力してもいながらなのだけれど。それにね、私もナガラを探す動機があるわよ。ナガラって不老なんでしょ?

 そしてナガラを探している間、あなたは私の眷属として神の庭園で暮らしなさいな。も、ち、ろ、ん、その子も一緒に眷属にしてあげる。なんと、あなたの寿命を二人で分ける様に計らってあげる特典付きよ。

 どう?」


「な、なぜそこまで……。」


「私にとって、それだけネイとロックが必要なの。分かった?」


「……。」


「じゃあ、同意してくれたと解釈してもいいかしら?」


「約束だぞ。」


 カーリーはキャスティを睨みながら言った。


「もちろん。

 ロック、さっき渡した水晶をカーリーに渡して頂戴。カーリーは、その水晶を持ってその子を抱いておいて頂戴。」


 カーリーは大人しくキャスティの言う通りに行動した。


「さてロック、二つ言う事が有るわ。

 一つ、なんで戦闘してるのよ、もう! しかも殺されかけてるし。私は此処に行けと言っただけじゃないの。

 二つ、お陰で今回かなり無茶しちゃったから、あいつが気づいちゃった可能性があるわ。だから先に謝っておくわ。ごめんなさいね。でもロックのせいでもあるんだからね!」


 なんだよ、その予定調和的な謝罪は……。しかし今、それを問う時間が勿体ない。まだ問題は解決されていないのだ。


「キャスティ、これでネイは戻って来れるんだな?」


「ええ、ネイはモーリーの森に居るから後は頼んだわ。じゃあ私は行くわね。」


 その瞬間、白い世界が無くなり周囲が闇に包まれた。




 目が慣れ、耳鳴りが止まると、そこにキャスティの姿は無かった。雨が急に降ってきたのを肌で感じたと同時に、周囲には落雷の後の青臭い刺激臭が漂っていた。


 右手に見える大木が真っ二つに裂け水蒸気を上げていた。樹皮や木片が周辺に散らかっている。


 メリークとアベンドの姿は何処にも見えず、抜刀した大鎌を構えたパリエラだけがそこに居た。アベンドが居たところには彼の長剣が落ちている。


 フェルミとゼロが僕の後ろで立ち上がり、デルファとルビィがメリークとアベンドが居なくなったことに驚いている。リダは再び動き出した周囲の様子を観察していた。


「え?! 奴らが消えたぞ!?」「アベンド? メリーク?」


 ルビィとパリエラが同時に言った。


「ロック! 何かやったのか?」「あれ~? 私、ヤバい感じ?」


 ルビィとパリエラがきょろきょろと周囲を見ている。


「もう終わった。無駄な争いは止めよう。チェンジ。」


 僕は変身を解いた。


「何が有ったのでござるか?」


 とデルファ。


「上手く説明は出来ないけど、キャスティと協力して魔法で解決したんだ。」


 そう言うことしか出来なかった。


「師匠が? ふむ、もう問題無いのでござるな?」


「パリエラが引いてくれればな。」


 パリエラも大人しく大きな鎌を畳んだ。


「お前、アベンド達に何をした? 殺したのか?」


 パリエラが聞いてきた。


「元気に生きている筈だ。もう君とは会えないだろうけどな。」


 あ、神の庭園って言ってたな。それって、死んだことになるのか?


「ふ~ん。私としては武器で決着を付けたかったんだけどな~。やっぱ、魔法だと詰まんねぇな~。

 しかしメリークがカーリーで影のボスだったとはね。あれ? これって抹殺指令を出すボスが居なくなったってことじゃねぇかよ。

 ……掃除屋も解散かぁ? あぁあ、これからどうすっかな~。」


 パリエラがふらふらと歩き始め、


「あ、そうそう、チビよぉ、また今度やろうな~。」


 と、藪に入る前に振り返り、手を振って去っていった。


「今回の件はこれで片付いたから、先に帰っておいてくれ。僕はもう一つ用事があるんだ。」


「オッケー。」


 ルビィの妙に明るい声を後に残し、僕は急いでモーリーの森に向かって駆け出した。僕から離れられないリダと、ゼロだけが付いて来た。


   *   *   *


 モーリーの森の奥、ずいぶん以前に焼け落ちた様な廃墟がそこにあった。雨は既に止んでおり、静寂が周囲を支配していた。辺りは仄かに薄暗く、樹上から落ちた水滴が下草の葉を叩く音が時折聞こえる。


 廃墟の近くの樹の根元に背中を預け、両腕で膝を抱え込んで丸くうずくまっている人影があった。その手には一枚の紙が固く握られており、その傍らには木箱が置いてある。


 僕はその人影、ネイにゆっくり近づいた。


「君は独りぼっちかい? よかったら家に来る?」


 その声を聴いて、力なく僕を見上げるネイ。


 憔悴しきったネイの顔には驚きと喜びと不安が同時に浮かび上がった。


「メリーク、いや、カーリーの件は片付いたよ。もう大丈夫だ。」


 それを聞いたネイは信じられないといった表情を浮かべた後、脱力した。その拍子に握っていた紙を手放す。その紙は、にわかに吹いた風に飛ばされていった。


 黒猫ゼロが素早くその紙に追いつき、左右の前足でそれ以上飛ばない様に地面に抑え付けていた。


 それは『誰か私をお宅に住まわせてください』と書かれていたあの紙だった。


   *   *   *


 昨日の騒動から一晩明けていつもの様に日は昇り、そしていつもの様にルビィとの朝練を終えた僕はネイの書斎に居た。先日カーリーに破壊された机を外に運び出し、別の部屋から使っていない机をルビィと一緒に運び込んでいるからだ。


 リダは運んでいる机の上につまらなさそうに座っている。ゼロも机の上に居る。


「よし! 朝飯前の仕事は終わりだな。飯だ飯!」


 机の位置を調整し終わったルビィが書斎から出て行くと、代わりにネイが書斎に入って来た。そして窓際に歩み寄り窓枠に背中を預けて立つ。


 書斎に入って来るときからずっと笑顔で僕の方を見続けているネイ。


 いつものネイとずいぶん印象が変わっている気がするが、何が変わったと言うのだろうか。


 そうか! ネイは口を開けっ放しにしている弛緩した笑顔でこっちをずっと見ているんだ。いつもは口を閉じて笑顔を作っていたから印象が違うわけだ。


 ……なんだか少しバカっぽいな。


 バカっぽいが、可愛らしさが増した気がする。


「何か良いことがあったのかい?」


「えへへへ~。」


 あれ? 壊れちゃったのか?


「本当に大丈夫か?」


「ええ、問題無いわ。むしろ体も心も軽いと思えるくらい絶好調よ。」


「それなら良いんだけど。」


「ねぇ聞いて! 私ね、すごい発見をしちゃったの。」


「何だい?」


「それは、私が誰かに人為的に作られた人間であることによる、私には人間の心が無いのだという確信を持っている点と、私があらゆる情報を記憶できることによる、すべての感情は蓄積した情報から引き出すべきものだという思考手段を矜持としていた点との二点に私は長年支配されていたのだけれど、ある感情が情報を源とした思考以外から湧き上がってきた事実を認識したことから、私にも心があるのではないかと言う疑問を確信に変えることができてしまったということよ!」


 え、え? ネイは何を言ってるんだ?


「だから私はその感情に素直になることに決めたのよ。本物の人間になるために。

 そういう訳だからね、ロック、覚悟してね。えへへ。」


 理解が追い付かない。


 そしてネイは、弛緩した笑いを浮かべながら僕に近づいてきていきなり抱き着いて来た。


「ネイ?」


「……なるほど。

 計算した行動じゃない場合は、こんなに落ち着くのね……。」


 机に座っているリダが頬を膨らませてこっちを睨んでいる。そしてぷいとそっぽを向いた途端、赤い霧に姿を変え、そしてさらさらと徐々に消えてしまった。


 それをぼんやりと眺めながら、僕はネイをしっかり抱きしめた。


「これからもよろしくね、ロック。」


「僕の女神の仰せのままに。」


 ネイの髪の毛の隙間から、ゼロが毛づくろいしているのが見える。さらにその奥に見える本棚に『誰か私をお宅に住まわせてください』と書いた紙が貼られた箱が置いてあった。


 くしゃくしゃになったその紙の『誰か』の部分は猫の肉球型の土汚れが付いており、読めなくなってしまっていた……。


バガス:「『だれすま』を最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。皆さんの反応は怖いけど、ドキドキしながらお待ちしております。誤字脱字の指摘も歓迎です。」

神奈:「へぇ、こんな事やってたんだ。先輩。」

バガス:「ちょ、勝手にディスプレイを覗くなよ。」

神奈:「どれどれ? あら? なんだか中途半端みたいなんですけど?」

バガス:「だ、だれすまのタイトル的には、物語は終わっただろ? そ、それに続きは別で書こうかなって妄想している。」

神奈:「ふ~ん。」


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