表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
87/90

第87話 帰還

   *   *   *


 ――ロックが岩窟園を発見して数日後のことである。


 そこは、幅と奥行きが約一メートル、高さが約二メートルの木造の小部屋だった。デルファがゲルビーツ船長の配下に頼んで作ってもらった木材を岩窟園に運び込み、二階の部屋の中で組み上げたのだ。そして先ほどデルファによって転送実験が行われた。


「成功でござるよ。では、まずはロック殿とネイ殿とゼロ殿が入って下され。ロクシー殿とフェルミ殿は小部屋の外でしばらく待ってて下され。」


 小部屋の中からデルファが言ったので、僕とネイはその小部屋に入った。その扉を閉めるとき、フェルミが部屋の外で炒り豆を頬張っているのが見えた。ロクシーは手を振っていた。


「ちょっと狭いわね。」


 扉を閉めるとすぐにネイが言った。


「転送する拠点同士で、同じ大きさの空間が必要なのでござるよ。これぐらいのサイズが構築しやすいでござろ? それに、あまり広いと魔力消費も大きくなるのでござる。」


「そういうことじゃないのよ。」


 ネイは僕の右腕を両手で抱きかかえて引き寄せた。リダがネイを真似する様に、しゃがんで左脚に絡みついている。


「ちょっと狭いわね。」


 また同じことを言うネイ。


 ん? 怖いのか?


「……。それでは転送するでござるよ。」


 その様子を見たデルファはそう言い、閉まった扉に手をあて目を閉じた。


「グローリアちゃんの聖刻に依りて呼び求める。来たれ転送の力、来たれ識別の力、来たれ空間固定の力。一つ、識別対象は接触なり。一つ、空間固定対象は識別の仕儀なり。一つ、転送対象は空間固定の仕儀なり。一つ、転送先は固定値チーディエンなり。識別、空間固定、転送発動!」


 デルファがそう言った途端、壁に無数の白い光の粒が現れ、下から上に流れ始めた。その粒がだんだん多くなり壁全体を覆いつくしていった。と同時に一瞬床が抜けたかの様な、宙に浮いたかの様な違和感を感じた。しばらくすると、今度は逆に自分の身体が重くなった感じがして、壁を覆いつくしていた光の粒がだんだんと数を減らし始めた。その粒は上から下に流れており、徐々にそのスピードを下げていった。


「前の世界では高い建物は鉄の箱に入って移動したのでござる。それみたいでござるな。」


「そんな妄想、知らないわよ。」


 転送が終わって安心したのか、ネイが吐き捨てた。


 その小部屋は岩窟園の部屋と広さは一緒だったが、木の質が若干異なっており、扉に『サルファの愛の巣』と汚い字で書かれた紙が貼られていた。


「着いたでござるよ。この紙には魔法が込められているのでござる。剥がしてはなりませんぞ。」


「キャスティが書いたんだろ?」


 僕はデルファに言った。


「そうでござるよ。

 今は小生が詠唱(スクリプティング)して転送しているのでござるが、誰にでも簡単に飛べる様に岩窟園の部屋にも符号魔法(プロセス)の仕掛けを加える必要があるのでござる。」


「それをデルファが出来るのか?」


「その部分は残念ながら、師匠でござるよ。小生には無理でござる。」


 デルファは扉を開けながら言った。扉を開けるとそこにはキャスティが居た。


「「ただいま。」」


 ネイと僕は異口同音にそう言った。ゼロは走って部屋を出て行った。おそらくダイニングルームのテーブルの上を真っ先に占拠しに行ったのだろう。


 キャスティはしばらくこっちを見て、


「おう。」


 と片手を上げて言った。


   *   *   *


 久しぶりにこの屋敷の住人が揃ってダイニングルームのテーブルを囲んでいた。ルビィとシィとキャスティの留守番組と、ネイと僕、ロクシー、デルファ、フェルミの船旅組だ。リダは席に着かず部屋の中をうろうろした後、僕の席の後ろに立っていた。ゼロはテーブルに乗っている。


 シィが紅茶を皆に配った後、席に着くのを待っていたネイが切り出した。


「さて、皆の元気な顔が見れて嬉しいわ。」


「それにしてもぉ、大変だったわねぇ。」


 メイド姿のシィが言った。


「俺も大変だったぜ。毎日の様に、そっちに送る食料の買い出しに付き合わされたしな。まぁ、ナンディとデートしたと思えば安いもんだけど。」


 そこはナンディじゃなくシィだろ、ルビィ。


「手は出してないデしょうね?」


 ロクシーがルビィに言った。


 あれ? あまりルビィに対する、いや男の人に対する嫌悪感を出してないな。向こうでもデルファとよく話してたから、男と喋るのに慣れてきたのかな?


「ナンディに手は出してないぞ、手は。」


 何とでも取れる発言を、ルビィが屈託のない笑顔で言った。


「オー。意味深なことを言わないで下さいルビィ。今度、鶏を渡しマスからそれで我慢してください。」


 ロクシーは嫌がる素振りで言った。


 ん? しかし、目が嫌がっていないな。良からぬことを考えている様な目だ。


「ロクシー殿、それはハイブローでござるな。前の世界でもそっち――」


 ネイが突然立ち上がったので、デルファは発言を止めた。


「ロック。あんたの仲間は変わり者ばっかりだけど、何とか黙らせてもらえるかしら?」


 引きつった笑顔で僕に振って来たネイ。


 何で僕に振ってくるんだ? それに、ロクシーはどちらかと言うとネイ側の仲間だと思うんだが?


「まぁ、いいじゃないか、久しぶりに会ったんだから積もる話もあるだろ。

 とはいえ今は状況整理と共有が優先だから、積もる話は後にしてくれないか? みんな。」


「はぁい。」「オッケー。」「分かりマシた。」「申し訳ないでござる。」「むぅ。」


 それぞれの口から同意の声が漏れた。フェルミは炒り豆を指で上に弾きながら食べている。キャスティはじっとこっちを見ていた。


 ネイは軽く顔を横に振りながら、椅子に座った。


「まったくもう。じゃあ、まずは……。」


 そしてその後、サルファを出てから此処に戻ってくる間の長い話を、ネイが饒舌に語ってみせたのである。


 もちろん、フェルミはゼロと遊び始めたし、ルビィは退屈そうに椅子を二本の足だけで支える形で後ろに傾けて揺らしていた。大人しく聞いていたのはシィとキャスティで、ロクシーとデルファと僕はネイの話を補いながら参加していた。


 サルファでのカラーズの活動の話は後日にすることになった。それはフォトラが居ないから仕方がない。


フェルミ:「師匠から聞いたばい。ロクシーって変態っちゃろ?」

ロクシー:「オー! 心外デス。ところでフェルミはどんな組み合わせに興味がありマスか?」

フェルミ:「何言いよっと? いっちょん分からん。」

ロクシー:「今度、ゆっくり教えてあげマスよ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 一票入れて頂けると嬉しいデス。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ