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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第86話 岩窟園2 ~ネイ~

   *   *   *


 ――ロック達が岩戸に出発して半日程経った時の事である。


 真昼間の蒸し暑いゾディ村で、デルファとロクシーがカフワの種の炒り方と煎じ方の試行錯誤を繰り返していた。私とアルテアは、碧矮族(オパス)の家の高く設けられている床に、脚をぶらぶらさせながら並んで座っていた。ゼロは私の横で腹を床に付けて寝転がっている。毛皮に包まれているからこの暑さは耐え難いのだろう。


 しかし、ロクシーがデルファと共同するとは驚きだわ。デルファが妄想で作り出したカフワの種の知識を、何としてでも嗜好品として取り扱える様にしたいとでも言うのだろうか。であれば、商売の鬼ね。


 あるいは寝ているデルファを看ている間に何か有ったのか。……それは無いか。


 デルファと言えば、時折吐き出す、あの訳の分からない知識に私はうんざりしている。私がこれまで長年培ってきた知識を、土台からひっくり返されるかもしれないと考えると居心地が悪くなってしまうのだ。所詮は妄想から生まれた知識だから心配は不要なのだろうけれども。ただ、今回のカフワの実の様に、まぐれ当たりが有ることを見せつけられると……、いや、考えても仕方が無い。やはりこれまで通り、極力デルファには関与しない様にしておくことにしよう。


 そんなことをぼんやり考えていると、断片的にロクシーがデルファに話しかけている声が聞こえて来た。


「……寝言で……、あれは何デスか?」


「それは、……前の世界での……、……でござる。」


「そのビーエル、……を知りたいのデスが。」


「……でござるよ。もともと、……でござるが、そのバリエーションは、……などもあるのでござる。」


「オー!!」


 突然両手を口に当て、大きな声を出して立ち上がるロクシー。そして自分が目立った挙動をしてしまったことに気づいて、こちらをチラリと見た。


 私が見ていない振りをしていると、ロクシーはデルファに続けて話しかけていた。


 まったく、あの毒女と妄想男はいったい何の話をしているんだか……。いいや、関与するのは止めておこう。内容を聞いてしまったら負けの様な気がする。


 アルテアもロクシー達をなんとなく見ている様だった。


「アルテア。ちょっと良いかしら?

 二隻の船なんだけど、まだ停泊を続けてもらえる? 少なくともあと十日間ぐらいは此処に留まって欲しいのだけれど。」


 私はアルテアに聞いた。


 デルファも目覚めたことだし、転送拠点をこの地に作りたいのだけれど、ゾディ村内には設置したくなかった。早くこの暑い地を離れたいから妥協しちゃいそうだけど、できれば碧矮族(オパス)達の目を避けたい。その場所を探し出すのにどうしても時間が掛かってしまうのだが。


「私は構いませんよ。ゲルビーツ船長は船員の給料を気にしている様ですが。」


「ブラック・スノーボール号の水夫ね?」


「ええ、アルバトロス号の水夫の給料は心配は無いのです。ネイさんが払ってくれるので。」


「アルバトロス号は待機しておいて、ブラック・パール号を先に出港させても良いわよ。バールバラ大陸まで経度で六十度ぐらいでしょ? 三十日ぐらいで到着するんじゃないかしら?」


「ネイさん達の食料調達手段が有ればすぐにでも出港できそうですね。」


「それなんだけど、私たちが同行するかどうかはまだ決め切れていないのよ。」


「え!? それって此処に留まるってことですか?」


「そうなるかも知れないわね。」


 転送の事は大っぴらには言えない。いずれはアルテアも私たちの仲間に引き込む必要があるけれど、まだその時期では無い。


「ねぇアルテア? あなた碧矮族(オパス)達が水夫になれる様に訓練することは出来るかしら?」


「木登りも泳ぎも得意そうですから、あとは指示通りに動いてくれれば何とか。」


「指示を出せる側の船員にする訓練も必要だと思うわ。」


碧矮族(オパス)達を訓練してどうするんですか?」


「今はちょっと言えないわ。その答えはもう少し待って貰えるかしら。」


「まぁ、ネイさんは私の雇い主ですからね。」


 そう言ってアルテアは首肯した。


「あ、そうそう、ブラック・スノーボール号の貨物の持ち主の情報を教えてもらっても良いかしら? ゲルビーツ船長が損しない様に手を打てるかもしれないし。」


「そうなんですか? その情報を提示しても良いか、念のため船長に聞いてきますね。」


 暇を持て余しているであろうアルテアは、そう言ってこの場を離れて行った。


 いい加減、この地での膠着状態を何とかしたいものだわ。


 一方でロクシーとデルファの作業と駄弁りはまだ続いていた。


「……男性恐怖症なのに、……が良いのでござるか?」


「見てるだけ……、特に……、内緒デス……。」


「……前の世界……、……ヤオイの友達……。」


「他にも……、……デス。」


「良いでござるよ。……にも、……でござるよ。」


「オレ様受け?!」


 再び大きな声を出してロクシー。頬に両手を当て、身をくねらせながら立ち上がっていた。商売の取り引きをしている時と同じぐらいに、目がイキイキとしている。こちらをチラリと見たロクシーを、私は睨みつけておいた。


「ただいま戻りました。」


 いつの間にそこに居たのだろう、岩戸を見に行くと言っていたエルとズベン、バランとフェルミが集落の広場の入り口に居た。


「ロックが見えないけど?」


「岩窟園に一人で残ってます。」


 エルが答える。


「岩窟園? どこよ、それは?」


「ちょっと待ってください。」


 エルが遠い目をして暫く黙っていた。


「ネイさんとアタシだけで話があります。ちょっとこっちに来てくれませんか?」


 エルが家に上がってきて、私を部屋の奥の方に導いた。そして小声で、


「ロックさんから伝言です。

 ネイさんとデルファさんとアタシとで岩窟園に来て欲しいそうです。フェルミさんと兄さんを護衛に付けて。」


 ふ~ん。またロックが面白いものを見つけたのかしら。引きが強い相棒と言うのは心強いわね。


「それで、なぜ二人っきりで話す必要があるの?」


「たった今ロックさんからそうする様に言われたんです。」


 たった今?


「ロックは岩窟園じゃ無いの?」


「アタシたち、念話で繋がっているんですよ。」


 笑顔で答えるエルに、なぜだか無性に腹が立った気がした。


「あら、それは便利ね。後でじっくり話がしたいとロックに伝えておいて頂戴。」


   *   *   *


 岩戸の表面に描かれている門が開いた。それを抜けると、細かい彫刻が施された柱が並んでいる空間に出た。その柱は天井と床に直接つながっているので、岩を掘って作られた空間だと言うことが予想できる。


 デルファはその細部を興味深そうに調べている。フェルミは炒り豆を投げて、ズベンの口に放り込んでいた。


 その空間の奥に、外からの逆光で浮かび上がっている人影が見えた。私たち一行はエルを先頭に、その座っている影、ロックに近づいた。


「ようこそ岩窟園へ。そしてこちらが此処の主、豊穣神の化身(アヴァターラ)ロック様です。」


 片手を胸に、もう一方の片手をロックの方へ指しながら紹介するエル。


「大袈裟だなエルは。」


 ロックは立ち上がりこちらに振り返った。その背景には雨が降っている草原が広がっていた。


 その姿に、私は少しドキッとしてしまった。何だか少し大人びた感じがするロック。


「そうですか?

 あ、アタシと兄さんが此処の管理者ですよ! ちゃんと主であるロックさんから許可を得てますから。

 それから、ここが岩窟園です。ネイさん達神様が住むのに相応しいでしょ?」


 わざわざ自分が此処の管理者であることを主張してくるエル。


 なるほど、悪くないわね。いつの間にか此処の所有者ってことにもなっているみたいだし。私たちが神様だって設定も、碧矮族(オパス)との仲介役のエルに定着している様だし。


「やるじゃないロック。」


「だろ? 自分の力じゃないのにこんな結果になるとは、本当にびっくりするよ。」


「あんた何を言っているの? それもあんたの力でしょ。まぁ、私の指導の間接的な成果であることは認めるけれども。」


「まぁ、ネイがそう言うんだったら、そうなんだろうな。

 あ、そうそう。ここに転送部屋を用意したらどうだろう。部屋も幾つもあるし、不足してた水も今貯めているところだよ。」


「水を貯めてる?」


「井戸が空だったからね。今、魔法で雨を降らせてるんだ。」


「え!? いつからそんな魔法が使える様になったの!?」


「だから、僕もびっくりしてるんじゃないか。」


 少し困った様に笑うロックだった。


 その辺も含めて、ロックから色々聞き出す必要がありそうね。そう、じっくりと。


ロック:「エル、彼らは何やってるんだ?」

エル:「兄さんの太鼓のリズムに合わせて、異国の踊りを舞ってくれているんです。」

ロック:「ロクシーとフェルミの動きが完全にシンクロしている。しかも上手い。そして後ろで大きく動いているデルファだ。なんだあの変な動き。両手をぶん回したり頭を振ったり、しかもフェルミの短剣を光らせて両手に持ってるぞ。」

エル:「デルファさんがロクシーさんの国の踊りをアレンジしたらしいです。フェルミさんはロクシーさんの動きを見てトレースしているだけだそうです。凄いですよね。」

ロック:「あぁ、皆、色々な意味で凄いな。」


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