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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第85話 岩窟園1

   *   *   *


 そこには起伏が穏やかな草原が広がっており、穏やかな風がその表面を時折撫でていた。気温がかなり涼しい。そして、所々にポツンと立っている樹木。ゾディ村周辺に生えている根が剥き出しになっている樹とは違う様だ。がっちり大地にしがみつきどこまでも成長する様な勢いとは違い、ここの樹はスラリとした印象があり樹高も高くない。草原を遠方まで目で追っていくと、それは突然無くなり代わりにその先に雲海が広がっていた。僕の背後を除いてどの方向を見てもその様子だ。


 僕の背後には崖が立ちはだかってた。それは二十メートルぐらいの高さで、幅は左右に二百メートルぐらい広がっている。その崖は両端に行くほど高さが無くなり、僕たちが立っている方に寄ってきている。


 崖の下部には、奥行きと高さが数メートルの廊下が左右に四十メートル程広がっていた。その廊下は二段になっており、まるで横長の二階建て建築物の様だった。三階より上と廊下の両端は崖に囲まれているのだ。僕たちが出て来た柱の空間は、一階の廊下の中央部に位置していた。そしてその柱の空間以外にも、廊下の奥の壁には幾つもの入り口や窓状の開口部があった。


「崖を掘って作った建物みたいですね。でも……、ここに住んでいる神様は誰も居ない……。」


 エルが寂し気に言った。その近くには警戒を緩めたズベンが居り、フェルミは炒り豆を食べながらぼんやりと歩いている。


 僕たち以外には周囲に人影は無かった。


「ここに神様が住んでいたのかい?」


 僕の問いに振り向くエル。


「ええ、そう伝えられています。はるか昔からずっと、ゾディ村の人々は代々此処への入り口である岩戸を守ってきました。いつか神様が戻ってくると信じて。そして今、ようやくその願いが叶った……。」


 そして突然何か思い出した様な表情を見せた後、神妙な面持ちで言った。


「……永らく開く術を忘れ去られた門が、帰還した神の手によって開かれました。

 この地は豊穣神の化身、ロック様のものです。ご自由に、そして(とこ)しえにお使いください!

 トゥムハーレサー!」


 突然エルの双眸が緑色に染まった。


「え? 何!?」


 僕の驚きをよそに、特に変わったことは起こらずエルの瞳は元に戻った。エルは笑顔だ。


『聞こえますか?』


 突然、頭の中に直接エルの声が聞こえた。


『ああ。聞こえる。』


『あれ? あまり驚かないんですね。』


『……何て言ったらいいか、まぁ、既視感ってやつかな。』


『そうなんだ。ちなみにこれが巫女の能力の一つで、神様に会った際のおまじないです。』


 親近感のある砕けた感じのエル。


『おまじない? もうちょっと詳しく教えてくれないか?』


『神様の思し召しのままに。』


『あ! ちょっと待って。そういう、思し召しのままにってのは止めてくれないか?』


『え~。ちょっと残念ですが、神様の思し――。おっと。』


『……』


 エルがこっちを向いて苦笑いをしている。フェルミとズベンは周りの様子を伺っていたが、リダだけがゆっくりと不機嫌そうにこっちに振り返った。


『おまじないと言うより献身の契約ですね。それによって念話ができる様になるのです。この念話ですが、アタシとロックさんとの間だけで通じます。相手に話すことを意識しなければ、その話は相手に届きません。つまり、対話以外の思考は相手には伝わらないってことです。そしてその効果時間は、どちらか一方が死ぬまです。そして効果距離は無限です。』


『二人だけの秘密じゃと?』


 突然、リダが割り込んできた。


「え?! え? え? 今の誰ですか!?」


 大層驚いているエル。念話ではなく普通に声に出して驚いたエルに、ズベンとフェルミが振り返った。リダの声がエルに届くとは驚きだ。


『念話で良いかな?』


 僕は言葉にせずに念話でエルに言った。


『……は、い。』


(わらわ)はリダ・イレクトじゃ。契約者であるロックの思考の中に生きておる。ロックに身も心も囚われておるのじゃ。』


 勝手にエルに語るリダ。


『そう……、なんですか。』


 上目づかいで、僕に向かって気の毒そうな表情を見せるエル。


『リダ、誤解させるなよ。

 エル、リダは僕の顕現化魔素体パーシスタンスオブジェクト、つまり使い魔だ。君には見えないだろうが僕の頭の中に居るんだ。』


 真実ではないが良いだろう。


『妾との間で秘密は無いことは確かじゃろ?』


『まぁ、それはそうだけど。

 いや、そんなことよりエル、このことは皆には内緒にしておいてくれ。バレたら不都合がある訳では無いけど、面倒なことになるのは嫌なんだ。』


『分かりました。誰にも言いませんよ。

 ……でも、まさか仕える神様が二重人格だったとは……。』


『それは違うぞ。』


「二人で見つめ合って、何しよっと?」


 炒り豆を食べながらじっとこっちを見ているフェルミ。


「フェルミ、ズベンと手分けしてこの周辺をなるべく遠くまで探索してきてくれ。そうだな、大体一時間ぐらいで戻て来てくれたらいい。」


「分かったばい。ズベン、あの木までどっちが早く着くか競争ばい。」


 少し暇を弄んでいた様子のフェルミが嬉々として走り出した。ズベンもフェルミの走るスピードに負けてない。寧ろ速く無いか?


 手分けしてって言ったんだけど、まあいいか。


「さてと、僕らはあっちを探索してみるか。」


 僕は崖の廊下を指さしてエルに言った。


「いいよ。」


「ところで、この念話は他の人にも使えるのかい?」


「いいえ。使えないわ。巫女一人につき神様一人だけなの。この地を開いたロックさんだから捧げるに値すると思ったのよ。」


『こら小娘、妾が先に身も心もロックに捧げておるのじゃ。横取りするでない。』


 リダが念話でエルに言った。リダはエルを見ている。

 

『捧げてるんだから、横取りもなにも無いでしょ?』


 リダが見えないエルは、僕を見て言った。


 もしやエルは、僕を二重人格者と思ってるから僕に向かって言ってるのか? 僕を真っ直ぐに見てくるエルの少し困った感じの表情は、なんだか憐れみをかけられている気がする。


「ぐぬぬ。ロック、こやつの血をブラッドサッカーで吸うのじゃ。」


 プンスカしているリダが僕だけに通じる言葉で言った。


『むちゃ言うなよ。』


 リダだけに伝えるため意識を集中して僕は言った。


 念話の方が簡単だな。リダとの対話と、自分だけの思考を分離するときはコツを掴むのが大変だったのだ。


 僕とエルそしてリダは崖の方へ歩き、廊下に上がる直前のところまで戻って来た。


「さあ、わが主よ、そしてこの地の主よ、私をこの建物の管理者に命じ下さい!」


 突然、大仰に右手を胸の前に持ってきてお辞儀しながら言うエル。


「大袈裟だな、普通の言い方で良いだろ?」


「あら、そう?

 だったらアタシ、ここの管理をしたいわ。手伝いのための人手も欲しいから、兄さんもついでに一緒で。」


 エルとズベンの関係は兄妹だが、シィとルビィの関係を思い出させた。


 そう言えばルビィは元気にしているだろうか。


「今更だけど、エルは急に気さくになったよな。」


「あら、これは代々伝わる神様に対する巫女の礼儀作法なのよ。かしこまるのではなく相手の心に沁みとおる様にしなければならないの。そういう教えなんだけど。

 ……駄目ですか?」


 両手の指を胸の前で互い違いに組んで、首を左側に傾げて聞いてくるエル。


 ……末恐ろしいな。


「……いや、そんな話し方でも問題ないと思う。」


 両手の指を組んだまま、笑顔で首を右側に傾けるエル。しばらくして、首を左側に傾ける。またしばらくして首を右側に傾ける。笑顔のままだ。


「どうした?」


 エルは声を出さずに『か・ん・り・しゃ』と言った。


 ん? ああ、建物の管理の件の返事を待ってるのか。


「もちろん、建物の管理もお願いするよ。」


「ありがとう!」


 リダが突然、僕の前で両手を広げて立った。


 しかしそれを通過してきたエルは僕の腰にがっしりと抱き着いていた。


 振り向いてこっちを見たリダはふくれっ面をしていた。


「この地には名前があるのかい?」


「巫女のスピカは『あちら側』としか言ってませんでした。」


 ゆっくりと僕から離れたエルが言った。リダが代わりに抱き着いて来た。


「なんか使いにくいな。」


「名前を付けたらどうです? 管理者としては、そうですね……、岩窟園ってのいかがですか?」


「取り敢えず、そうしとくか。

 ん!? そう言えばエルはどうやって岩戸を出入りするんだ?」


「ロックさんはずっと此処に住むのだから、開け閉めしてくれれば良んじゃないですか? 私が岩戸の向こうに居ても――」


『念話で呼び出せますから。』


 器用に後半を念話に切り替えるエル。


 しかし僕はずっと此処にいる訳では無いし……。


 リダが何かを期待する様な目でじっとこっちを見ている。抱き着いたままなので上目遣いだ。


『リダ、一つ教えて欲しいんだけど、何か策はあるか?』


 僕はリダだけに通じる思考で聞いた。


「契約者の命令なら仕方がない、その質問に答えてやろう。」


 リダは僕から離れ、得意げに胸を張って言った。


「妾が喰ったアダドの術式(メソッド)に『与鍵』があったじゃろ。それじゃ。」


 リダはエルの方をちらちらと見ている。自分の方が優れているとでも言いたげだ。しかし、リダが見えないエルはそれを無視している。


『なるほど。ありがとう、リダ。』


 僕が不在の間の管理も、何とかなりそうだ。


 そうして僕らは土埃がたまったり、隅に草が生えていたりする、かなり長年放置されていたであろう幾つもの部屋を探索することにした。


 外では、まるでネズミを狩る猫の様に、走って逃げるズベンをフェルミが追っていた。


エル:「ふふふ~ん。」

ロック:「エル、家妖精って知ってるか?」

エル:「知らないよ~。何ですか~それは~?」

ロック:「ん。ああ、今度会わせるよ。」


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