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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第73話 アイーアへの船旅5

   *   *   *


 ――ジンク港を出て五日後のことである。


 僕とデルファは船首甲板に居た。ゼロも舳先の手すりの上に陣取っている。客室に残っている女性陣に男性陣が追い出されたのだ。女性陣が出てくるまでは客室に入って来るなと言われている。


「何やっているんだろうな?」


「身体でも拭いているのでござろ? まぁ、詳しく聞かない方が良いでござるよ。女性のたしなみを色々細かく聞いてくる男には、女性はイラつくのでござる。」


「ふ~ん。そう言うものなんだ。詳しいなデルファ?」


「前の世界の記憶でござるよ。」


「イラつかれたのかい?」


「イラついたのでござる。」


「ん?」


「なんでござるか?」


「あ、いや。」


 僕は踏み込んではいけない領域に踏み込もうとしているのを直観した。これはまずい。


 勝手な思い込みだけど、この領域に踏み込めるのはルビィぐらいだろう。ルビィならきっと波風を立てずに土足で踏み込めるに違いない。そしてその他人の領域が大時化の大海原の様に荒れていたとしても、平然と生還できるのだ。


「話は変わるけど、デルファは顕現化魔素体パーシスタンスオブジェクトってどんな風に見えるんだい?」


「どんな風とは、どういう意味でござるか?」


「そのまんまなんだけど、例えば単なる光る点の様に見えるだとか、妖精の姿をしているとか、そもそも感じるだけで見えないとかさ。詠唱(スクリプティング)用の『窓』を開くだろ? そのとき使う顕現化魔素体パーシスタンスオブジェクト聖刻(ハンドル)がどういう風に見えるのかって言う質問さ。」


「小生は赤い点の様に見えるでござるな。引き寄せると、点から『窓』に配置するシンボルに変わるのでござる。」


「引き寄せる前は点として認識して、引き寄せればグローリアちゃんやエルピスを表すシンボル、つまりは詠唱(スクリプティング)で使う記号に見えるってことかい?」


「左様でござる。」


「人や動物の様には見えないのかい?」


「ふむ? シンボルは動物の様には見えないでござるよ。

 もしやロック殿はグローリアちゃんのことを言っているのでござるか? 現実世界に顕現化しているグローリアちゃんは、魔法使いだけではなく誰にでも普通のゴキブリの様に見えるでござる。今は師匠の元に居るので、見ることは出来ないのでござるが。ロック殿も見えたでござろ?」


「ああ。……見えるな。」


 困ったことに、僕には見えるのだ。そう、船の手すりに腰かけているリダの姿が……。リダはこっちを見て手を振っている。


 僕はずっと、目を開けたままで詠唱(スクリプティング)するための例の格子柄床の空間を呼び出す練習を繰り返したのだ。今では目を開けたまま、その空間を呼び出すことが出来る。当然、その空間を呼び出すとリダが現れたのだ。リダ曰く、あの空間に顕現化したからだとのこと。


 しかし『困った』と言うのは格子柄床の空間を呼び出すたびにリダが現れると言う事では無い。そうであれば何も困ることは無いのだ。僕が困っているのはつまり、その空間を引っ込めてもリダが消えないと言う事なのだ。


 うむ、本当に困った。


「どうしたロック? 妾をじろじろ見て。童女から目が離せないのか?」


 リダが僕に話しかけて来た。当然デルファには聞こえていない。


『いや、リダの存在自体が珍しいと言うか、困惑していると言うか……。』


 リダに言った。僕は思索とリダとの会話を分けることも練習してきたのだ。まだ完全に思考を漏らさない様にすることは出来ていない様だけど。


「困ることも有るまいに。」


『何時もリダに見られてると思うとな……。何も出来やしない。』


「なんじゃロック。悪さでもしようとしておるのか?」


『そんな訳じゃないけど、例えば僕が風呂に入るときにもそこに居るんだろ?』


「居るぞ。」


『それだよ。う~む。』


「気にせず慣れることじゃな。妾はロック以外の誰とも話すことが出来んのじゃから、ロックの痴態がバレることは無いぞ?」


『僕が痴態をさらすことを前提に話してないか? 僕が言いたいのはリダに見られるのが恥ずかしいってことだよ。私生活の隠匿も出来やしない。』


「裸を見られるのが恥ずかしいのか? では、対等になるためにロックが裸の時は妾も裸になるかの? それなら恥ずかしくあるまい? しかもその状況でロックが痴態をさらしても、妾は誰にもそれを言えん特典付きじゃ。くっくっくっ。」


 リダが意地悪そうに笑う。


『いや、結構です……。』


「……ロック殿? ロック殿?」


 デルファが僕に話してきた。


「んあ? デルファ?」


「ぼおっと海の方を見続けて、どうしたのでござるか?」


「あ、いや、ちょっと魔法の練習してたんだ。」


 僕のその言い訳に、リダが腹を抱えて笑っていた。


 いや、本当に困った。


   *   *   *


 女性陣が客室から出てきて男性陣と合流して暫く経った頃、マストの見張り台からアルテアが下りて来た。ゲルビーツ船長とアルテア、そして数人の水夫が真剣な顔で話合っていたが、その話は聞き取れなかった。ネイと僕らは前甲板からそれを眺めていた。


「何かあったのかしら? 数日前から頻繁に見張りと打ち合わせをしている様なんだけど。」


 ネイがその様子を見て行った。


「時々、水平線の向こう側に見える船が問題なのでござろうか? もしや、付けられているなどと……。」


 デルファが言った。


「すごいなデルファ、何処かの船がこの船を付けているって事に気づいてたのか?」


 僕はデルファに聞いた。


「たまたま気が付いただけでござるよ。同じ船かどうかは分からないでござるが、常にあちらの方角に居るのでござる。こちらに速度を合わせているのでござろう。」


 デルファは船の左舷の海を指さして言った。


「確かブラック・スノーボール号は東へ向かっているから、あっちは北だよな?」


 僕は誰かに聞いた航路の方角を思い出しながら言った。


「アイーアに行くにはいずれ北上する必要が有るんじゃないかしら? ちょっと聞いてくるわ。」


 ネイが僕らを置いて、ゲルビーツ船長らが集まっているところまで歩いて行った。


「少し、雲行きが怪しくなってきたでござるな。」


 デルファが空を眺めながら言った。そう言えば風が強く感じられる気がした。


 暫く後、アルテアを伴ってネイが戻って来た。


「まずい状況みたいよ。」


 困った様子で皆に告げたネイ。


「どうしたんデスか?」


 ロクシーが少し不安げにアルテアに尋ねた。


「ジンク港で私が絡まれてたのを覚えてますか? 海獅子海商と言うのですけど、彼らの船がずっとこのブラック・スノーボール号を付けているのです。嫌がらせの様に付けてくることはしばしばあったのですが、ジンク港を出て五日経った今でも付けて来るなんて、これまでに一度もありませんでした。しかも実は、先日のジンク港で出港前に最後通達の様なことを言ってきたのです。」


 ネイは既に話を聞いているのだろう、アルテアに質問を投げかけなかった。


「その内容はなんデスか?」


 代わりに問うロクシー。


「それは、今後一切、海獅子海商に組み入ることなくジンク港より東に行くことは許さない。これ以上東の海域に行く様であれば実力行使する、と言った内容です。」


「この船は既にずっと東に進んでいるでござろ?」


 とデルファ。


「これから先の東の海域に向かうためには、そろそろ北に回頭する必要があります。それを知っている彼らの船は、常に我々の船の北に位置して待ち構えているのです。しかも彼らの船は二隻で、武装強化した足の速い船なのです。そして見張りの情報によると、彼らが大砲の準備をしているのが見えたそうなのです。」


 メインマストの上部の見張り台の方を見上げるアルテア。


「この距離ならまだ砲弾が当たることは無いのですが、北上して接近すると砲撃される可能性があります。速度を落として相手の出方を見るという手もありますが……。もう一つ悪い知らせが有りまして……。」


 皆は黙ってアルテアの話の続きを待った。


「これから天候が大きく荒れそうなのです。」


 とアルテアが言ったとき、


「撃って来たぞ~!!」


 見張りの水夫がマストの上から甲板に向かって叫んだ。


「有効射程を無視して撃っていると思われます。まぁ当たることは無いと思いますが皆さんは客室の方へ避難しておいてください。」


 そういうとアルテアは船首甲板から離れて行った。


「そういう事よ。客室に避難しましょう。」


 僕らにできることは無いだろう。客室に引きこもることにした。


デルファ:「ロック殿は運が良いでござるか?」

ロック:「昔は運が悪いと思ってたけど、最近は良いと思ってるよ。」

デルファ:「小生もツイていれば良いのでござるが。」

ロクシー:「オー。デルファはいつも槍で突いてるデスよ。」


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