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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第69話 アイーアへの船旅1

   *   *   *


 サルファ商国からの城門以外の出入口、港。旅姿のネイとデルファ、ロクシー、フェルミと僕は第三埠頭の桟橋を歩いていた。もちろんゼロも付いて来ている。海から吹く潮風で僕らの服や髪がはためいていた。


「私たちが乗るのはあの船よ。」


 ネイが風になびく髪を押さえながら桟橋の先の船を指さして言った。その船は三本の垂直に伸びたマストと船主前方に伸びた一本のマストを持つずんぐりとした船だった。横から見ると船尾と船首が高いので、中央は大きくえぐれている様に見える。


 船の近くまで行くと、渡り板の横にいかにも船長といった風体の痩せた中年の男の人が居た。黒い鳥の羽で飾った帽子を手に持っている。色黒で口ひげを生やしており眼光が鋭いその男の人は、左目に眼帯をしており、その眼帯の上下には白い傷跡が伸びていた。そしてその隣には若い女性が居た。紺色で着丈が長く、前面が大きく開いたジャケットを幅の広いベルトで腰の辺りで留めていた。ヘッドスカーフを斜めに巻き、その結び目で束ねた髪が右肩に垂れている。


「おはよう、ゲルビーツ船長。」


 中年の男に話しかけるネイ。その男はやはり船長だった様だ。


「ようこそブラック・スノーボール号へ。棺桶と思ってくつろいでくれ。早速だが船首の部屋に入ったら俺が良いと言うまでは、外には出るなよ。邪魔だからな。

 細かい船上のルールはアルテアに聞いてくれ。こう見えても俺は忙しいんだ。」


 ゲルビーツ船長は隣の女性を親指で指さして言うと、荷物を積み込んでいる水夫に指示を出しながら僕らから離れて行った。


「航海士のアルテアです。よろしく。ここでは荷物の積み込みの邪魔なので、さっそくですが船室を案内しますね。」


「そうね。私たちの紹介はそこでするわ。」


 いよいよ乗船だ。これから長い船旅になる。


「帆船でござるかぁ。そう言えば、前の世界では帆が無い船があったでござるよ。」


 歩きながら興味深げに周りをキョロキョロするデルファ。目は髪で隠れているのだが。


「どうやって動かしてたんだ? 人力のオールかい?」


「風車があるでござろ? あの形のものを船尾の水中で回してたのでござる。それを回す動力はこちらでは魔法としか言いようが無いのでござる。」


「それで進むのかい?」


「風車は風で回るでござろ? 逆に風が無い時に風車を回せば風が起きるのでござるよ。鉄の風車を水中で回せば水流が起こり、押す力が発生するのでござる。いずれにせよ、こっちではそれを実現できないと思うのでござるよ。」


「できれば、こっちでも実現できそうなネタが欲しいな。僕としては。」


 苦笑いをしながら、デルファに言った。何せネイが嫌な顔をしているのだ。この話は繰り上げた方がよさそうだ。


「それもそうでござるな。考えておくでござるよ。」


 そうこうして僕らは船首の船室の扉をくぐった。その部屋の左手には二段ベッドが並んでいた。その数は三。つまり上段に三人と下段に三人が寝ることができる訳だ。ベッドとベッドの間は狭く、人が横向きで通れるぐらいの広さしかない。そしてベッド以外の調度品として、奥と右手の壁に張り付く形で長椅子がしつらえられていた。


「狭いでしょうけど、我慢してくださいね。」


 と、アルテアが言う。


「それは仕方ないわ。とりあえず、みんな適当に座って。」


 ネイがそういうと、皆は荷物を適当にベッドに放り込み、ロクシーとフェルミがベッドに座り、僕とデルファとネイが椅子に座った。ゼロはネイの隣に座っている。


「アルテア、紹介するわね。順にロクシー、フェルミ、デルファ、ロック、そしてネイよ。この黒猫はゼロ。」


 ネイが入り口近くで立っているアルテアに言った。


「改めまして、よろしくお願いします。では、船内の注意事項を説明しますね。

 今回の乗客は、ネイさん達だけです。ですからこの船室はご自由にお使いください。そして外洋に出るまでは甲板は忙しいので、外には出ないでくださいね。外洋に出たら指示がない限り、甲板はどこに行っても構いませんが他の扉から中には入らないでください。食事は朝と夕方の二回だけです。けっして美味しいものではありませんが辛抱してください。御用がありましたら、水夫に私を呼ぶ様に言ってください。何かご質問はありますか?」


「特にないわ。」


 ネイが代表して答えた。


「それでは、約三十日の旅を堪能下さい。」


   *   *   *


 アイーアはサルファの東方面に位置する。しばらくは陸地の近海の東向きの海流に乗って船を進めるとのことだ。南西の風を満帆に受け順調にすすむ船の前甲板に、僕らはたむろっていた。事前に持ち込んだ炒った豆を、フェルミはポリポリと食べている。


 左手を目の上に当て前方を見ているネイ。その手首には今まで見たことが無い、小さなサファイアをあしらった銀色のブレスレットがあった。


 僕以外の誰かから貰ったのか?


「ネイ、そのブレスレット……。」


「あら? 気になるの? 自分で買ったんじゃないわよ。」


 僕の反応をしばし待つネイ。だが、僕からの反応が無いので続けた。


「誰から貰ったか聞きたい?」


 意地悪く聞いてくるネイ。


「で、誰なんだい?」


 僕は反応を薄くすることを心掛けながら聞いた。


「つまんないわね、あんた。もうちょっと嫉妬しなさいよ。

 まぁ良いわ。キャスティから貰ったのよ。実はロクシーとお揃い。」


 ロクシーの方を見てみると、左手を顔の辺りまで持ち上げ、甲をこちらに向けながら横に大きく振っていた。


 確かにネイと同じデザインのブレスレットがあった。


魔法装備(アーティファクト)よ。あんたのそのグローブと同じ機能なんですって。冒険者じゃないから使うことはあまり無いのだけれど、屋敷に置いてある変わり身ゴーレムはばっちり正装させてるのよ。」


「すぐにドレス姿に変われるってことだな。」


「そういうこと。髪もばっちり結ってるし。」


 そう言えば、フォトラが変身したときも髪型が変わってたな。


「装備品の交換だけのはずなのに、髪型も変わるんだよな?」


「髪型は入れ替え対象じゃないけど、特別に変更する様に設定しているんですって。化粧も装備として認識される様にしてるとも、キャスティが言ってたわ。」


「なるほど。フェルミの戦化粧もそれか。」


「小生の提案でござるよ。女子の変身は特に、髪型も変わる様にすべきでござる。前の世界の物語でも変身すると髪型が変わることもあったのでござるよ。お気に召されたか?」


 デルファが言った。


「戦化粧は、でたん良いばい。」


 豆を指で空中にはじき上げ、落ちて来たそれを口でキャッチするフェルミ。


「しかし、退屈だな。ゼロはどこに行ったんだ?」


「船に居るネズミを狩りに行ったわ。ネズミを狩るなら、猫は好きなところに移動しても良いんですって。」


 そしてネイは顔を近づけそっと僕に、


「あんたも暇だったら、猫になって盗み聞きでもしてきたら?」


「本当に暇になったらそうするよ。それとも、様子を伺ってきた方が良いかい?」


「今のところは必要無いわね。」


「そっか。」


 出港した当日から、既に暇だ。


「暇でござれば、ロック殿も魔法を覚えるでござるか? 小生が手引きをしても良いでござるよ。」


「あら、良いじゃない。どうせ無理なんでしょうけど、時間潰しにちょうどいいんじゃない?」


 ネイが茶々を入れる。


「まぁ、僕には無理なんだろうけどね。」


「あんた! そこは『僕にだって出来るはずだ、見てろよ~』でしょ。」


 すこし諭す様に言うネイ。


「そんなもんかな?」


「そうよ、早く言いなさいよ。ほらほら。」


「よし、じゃあ……。」


 僕は、一旦咳ばらいを入れた。


「ボクニダッテデキルハズダー。ミテロヨー!!」


 棒読みで言ってやった。


「ロクシー、今の聞いた?」


 ニヤニヤしているネイ。


「ばっちりデス。第三者として聞いたデス。」


「あらら~。ロックが『出来るはずだ』って宣言したのを証言してくれる人が出てきちゃったわね。じゃあ、頑張ってね。私もちゃんと見てるから。」


「え?」


「出来なかったら、皆で後ろ指を差し続けてあげるから、覚悟して取り組むことね。」


「な!?」


「相変わらずロックはちょろいデス。そんなんだからネイの人間椅子の地位から抜けられないのデス。」


 ネイの尻に敷かれっぱなしって意味かよ!


「デルファ。なんだかロクシーも魔法を習いみたいよ、あなたと二人っきりで。」


 と、ロクシーをジト目で見るネイ。


「喜んで手引きするでござるよ、ロクシー殿。」


「……。」


 ロクシーは黙って前甲板から去っていった。


 フェルミが豆を二個連続で空中にはじき上げ、それらを口でキャッチしている。僕らの話には興味が無い様だった。


「しかし、暇だな。」


 どこまでも続く青い海と青い空を眺めて僕は呟いた。


ロック:「ロクシーも変身できるんだな。」

ロクシー:「そうデス。見てみますか? ……チェンジ。」

ロック:「へ~。動きやすそうな衣装だな。」

ロクシー:「ダンス用兼、格闘用デス。」

ロック:「ん? その左手に握っている紙は何だ?」

ロクシー:「オー! 何デスかね? …………。」

ロック:「何が書いてあったんだ?」

ロクシー:「キャスティ―からの請求書デス。」


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