第59話 ディムの訪問2
「それから、用件の二つ目ですが、これはお願いなんです。」
ディムは悪びれる様子も無く話を変えてきた。
「どんな内容なんだい?」
僕は聞いた。
「最近、サルファで不審火が発生しているって聞いてますか?」
聞いてるも何も、僕の家が火事で燃えてしまったけどな。
「あら、ロックは放火なんかしないわよ?」
ネイは、話をややこしくしようとしているのか?
「そんなこと一言も言ってないですよ?」
それに答えるディム。レムはなぜか笑いを我慢している様子だ。
なんだろうさっきから。普段はすましているけど、レムは笑い上戸なのか?
僕の視線で何かを察したのか、レムの様子を伺うディム。その寸前にレムは素に戻っていた。
「ずいぶん前から、不審火が散発的に発生しているらしいね。僕の家も火事にあったんだけど、それかな?」
僕は自分の身に起こったことを言った。
「ええ?! そうだったんですか。だったらその犯人を見つけてくださいよ。それがお願いごとです。」
「白々しい。」
ネイがボソッと言った。
その時シィがポットとティーカップを持って部屋に入ってきた。
「で、なぜ君がわざわざこの家にまで押しかけてきて、そんな事を僕に言ってくるんだい?」
シィがまずディムとレムに紅茶を給仕しはじめたのを眺めながら、僕は言った。
「小さい事かも知れませんが、サルファ国の問題ですよ。いいえ、小さい事ではないですね。まだ死者は出てませんが、その危険は多分にあります。それで解決できればと思って、頼れる人を訪ねた訳ですよ。」
なるほど。まぁ頼ってくれるとは嬉しい限りだけど……。
「なるほどね。それで? 報酬はあるのかしら?」
ネイが言った。
「ネイ、報酬を求めるのかい?」
僕はネイに聞いた。
「あら、当然じゃない。犯人を知ってたら通報するのは市民の義務かも知れないけれど、積極的に捜査するのは義務に含まれていないわ。それって警備隊の仕事でしょ?」
正論で返すネイ。
「あ、そうそうネイ。父からの預かり物です。」
ディムはネイの質問には答えず、封がされた封筒をネイに渡した。
「なによ、やっぱり絡んでるんじゃない。」
ネイはそれを受け取ると乱暴に開封し、中身の手紙に目を通した。
「ロック、協力してあげましょ。」
ネイは手紙をくしゃくしゃにして丸め、自分のポケットに押し込んだ。ネイが笑みを浮かべている。その笑みの意味はここに居る僕以外、多分誰も知らない。
何が書いてあったんだ? そしてまた、ネイは何を企んでいるんだ?
「ねぇ、ロック。家が焼けた時を思い出して頂戴。そして何か引っかかることが無かったかどうか教えてくれる?
私もちょっと思い出してみるわ。」
ネイは目をつぶって、顎の下に人差し指を当て考え始めた。
シィが全員に紅茶を配膳し終わって自分も席に着いた。
ふむ、あの時の違和感か……。
……自分の家に駆け付けたあと、人ごみを掻き分けて近づいた。
……能力者らしい人が空中から水を出して消火用のバケツに注いでいた。
……その人に水を貰おうとしたら、満面の笑顔で『喜んで』と言っていた。
……僕は、その水をかぶった。その水は海水の様にしょっぱかった。
……家に飛び来むと辺り一面火の海だった。
……梁が焼け落ちてきたが、僕とゼロは間一髪避けられた。
……箱を見つけ、反対側の壁にブラッドサッカーで穴を開けた。
……そこに飛び込み家から脱出するのとほぼ同時に、家が崩壊した。
……ネイのところに戻ると、ネイが僕のことをかなり心配していた。
といったところか。違和感と言えば、塩水とあの笑顔かな?
ネイの方を見てみると、ちょうど目が合った。ネイは僕をじっと見つめている。その目は、なんだろう、涙ぐんでいる? 顔も少し紅潮しているみたいだ。いったいどうしたんだ?
ネイは鼻をすすりながら目をぎゅっとつぶって、すぐに目を開けた。そして気を取り直したかの様に話し出した。
「それで? あんた何か思い当たることでもあった?」
「うん。関係あるかどうか分からないけどね。」
「関係あるかどうかは後で判断するからいいわ。続けて。」
「消火活動をしようとしてた人たちが居たろ?」
「ええ、バケツリレーで火を消そうとしてた人たちね。」
「その水は、能力者が出していた様なんだ。」
「ええ、その様ね。消防組が用意した水じゃ無かったわね。」
「僕はその水をかぶって家に飛び込もうとしたんだ。そして、その人に頭から被る水が欲しいと言ったとき、彼は喜んで水を差し出してくれたんだ。なのだけれど。それが何だか場違いな感じの喜び方だったんだよ。」
「なるほど。」
「そして水をかぶってみたら、塩水だったんだ。」
「それから?」
「う~ん。それだけなんだけどね。僕が感じた違和感は。何か関係があるかな?」
「ちょっと待ってね。」
再びネイは目をつぶって、顎の下に人差し指を当て考え始めた。
「どう思う? ディム?」
ネイが考えている間、僕はディムに話を振ってみた。
「塩水を出す能力者ですか。その塩水は海水なんですかね?」
「海水かどうかはともかく、その能力、何の役にも立ちそうにないな。」
話を聞いていたルビィが明るく言った。
「そうね。使い道は難しそうね。」
思考を終えたネイがルビィの話を継いだ。そしてディムに話しかける。
「ディム、最近、消防組にその能力者が加入したかどうか調べられるかしら?」
「ええ、確認してみますよ。」
「そいつを尾行すると良いわ。今頃活躍でもしているんじゃないかしら消防組で。同機は恐らく、承認欲求ね。つまりマッチポンプよ。」
「つまり、どういうことなんだ? ネイ。」
ルビィがネイに突っ込む。
「彼は自分を認めて欲しいと言う欲求が強いのね。そして使える能力が海水を取り出せることだったのよ。海水が活用できて、他人から認めてもらえることってそんなに無いでしょ? だから、消火だったらその能力が役に立って、さらに認められると彼は考えたのでしょうね。でも、自分が都合よく駆け付けて活躍できる火事なんてそうそう発生しないじゃない。だから、自分で火事を用意した、ということよ。でも、まだ証拠が無いからそれを固める必要があるの。今分かる状況ではこれが精一杯ね。彼が消防組に入ってなければ行方を探らないとならないわね。そしてさらに彼が犯人じゃなかったら、そのときまた考えましょう。」
なるほど。僕も間違った方に進んだら、こうなってたのかも知れない……。
「あんたは、もう大丈夫なんでしょ?」
僕がネイの方を見た時、ネイが僕にそっと言った。
「ネイのお陰さ。」
僕もそっと答えた。
「前の世界では、現場に出ずに書斎に引きこもって謎を解決するという物語があったでござるよ。ネイ殿はその主人公みたいでござるな。」
デルファが感心した様に言った。
「そんなの情報要らないわよ。」
ネイが辛辣にデルファに言った。
「そうでござるな。」
デルファがネイの態度を気にする様子もなく答えた。
ロック:「サルファ侯爵からの手紙には何て書いてあったんだい?」
ネイ:「ラブレターよ。」
ロック:「え!?」
ネイ:「あんたへのね。」
ロック:「え?! え!?」




