第58話 ディムの訪問1
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――ロックの部屋へ大人のキャスティが訪問してから、数日後のことである。
ダイニングルームには僕とネイ、ルビィとシィ、キャスティとデルファ、フェルミが居た。そして当然、テーブルの上にはゼロが陣取っている。それぞれ好き勝手に話をしていると、玄関から戸を叩く音が聞こえた。
「だれかしらぁ? 来客の予定がある人は居るぅ?」
誰もそんな予定が無いことを、シィに各々告げた。
「ちょっと見てくるわねぇ。ルビィも一緒に来てぇ。」
シィとルビィがダイニングルームを出て行った。暫くするとシィ達は、ディムとレムを連れてダイニングルームに入ってきた。
「ロック、ディムがお前に用があるんだってさ。」
ルビィが入ってくるなり言った。何でディムとレムがここの住所を知っているんだ?
「やぁ、ロック。ついつい来てしまったよ。ああ、レディのお三方は初対面ですね。ディムと言います。学生をしながら冒険者もやっております。お見知りおきを。」
ディムは部屋に入ってくるなり、ネイとキャスティ、そしてシィに言った。まったく、何が『ついつい』だよ。
……やっぱりネイは、ディムに話を合わせるのかな?
「みんな、こいつはサルファ国の王子、ディミトリオス=イナムよ。現国王、サルファ侯爵アルフレッド=イナムの三番目の息子。」
突然ネイが言った。
おい、王子に向かって『こいつ』とは! しかも全部ばらしちゃって!
皆の反応は……、シィ以外はそんなに驚いていない。変わった奴らばかりだから仕方ないのか?
「これは手痛いな、正体をばらしてしまうとは。ネーヒルト女男爵。」
レムがディムの後ろで笑いをこらえている。
「ネイで良いわよ。
それよりあなた、アルがどんな企みであなたをここに向かわせたのかをちゃんと話してもらうわよ?」
「ひどいなぁ。父は悪だくみはしてませんよ、多分。なぁレム?」
ディムは、レムの言質を取ろうと振り返った。レムは素の顔に戻って応える。
「ええ、ディムの言う通りね。」
軍学校での振る舞いで慣れてるのだろうか、レムのディムに対する話し方は普通の同級生に対するそれと変わりが無い様だ。
「アルがあなたをここに向かわせたことは否定しないのね。それで? なぜここに来たのよ?」
少し喧嘩腰のネイがディムに喰ってかかった。
「用件が二つありましてね。」
ディムはネイに答えるではなく、僕の方に顔を向けた。
「まぁ、立ち話も何だし、椅子に座ってよ二人とも。それから皆、ネイはバラしちゃったけど、ディムが王子ってことは外では内緒にしておいてくれよ。そうしないと、こっちがいろいろ面倒に巻き込まれるからな。」
すでに巻き込まれている気もするが……。
「分かったばい。」「オッケー。」「わかったでござる。」
それぞれ返事をする面々。そして、勧められた椅子に腰かけるディムとレム。
「紅茶でも入れるわねぇ。」
メイド服姿のシィが部屋を出て行った。シィ以外の皆も席に着く。
「彼女、召使いでは無いんですね。」
「あぁ、ここに住んでいる全員、対等な仲間だね。」
僕はディムに言った。
「お金が勿体ないから、メイドとか従僕を雇わないんだってさ。力仕事は大体、俺がシィから指示されてるんだぜ。」
威張ることでもないのだが、ルビィが自慢げに言った。レムが笑いを我慢している様子がうかがえた。
「なるほど。
……ところで、用件の一つですけどね。」
ディムが切り返した。
「何だい?」
僕はディムを促した。
「ネイが襲撃された件なんですけどね、どうやら魔法装備を蒐集している団体がある様なんですよ。西方の帝国に拠点がある様なんですが、詳細は闇の中です。」
「それで? なんであなたが嘴を突っ込んでるの?」
ネイがディムに詰め寄った。
「まぁまぁ、たまたま聞き及んだ情報なんですけどね。ロックとネイが絡んでいたと聞いて、これは他人事じゃないなと思った訳です。」
「他人事にしたくなかったんじゃないの? つまりあなた、当事者になりたいんじゃないの?
私たちに絡んできて当事者になろうって気なら、当然あなたにも利用価値があるんでしょうね。まずはそれを示しなさいよ。それで? ディム、あなたの網はどの辺まで張れているの?」
「網? 何のことですか?」
「とぼける気? まぁ良いわ。だったら、あなたの利用価値はあまりないって判断するわよ。」
「う~ん、それはさておき、問題はもう一つあって、誰がロックの魔法装備の情報を流したかってことですよ。」
ディムは話を続けた。
僕としては、ちゃんと隠し通していると思ったんだけどな……。
「あなたは魔法装備の情報をどうやって入手したのよ。そのルートが一番怪しいんじゃないの?」
ネイが言った。
「ですよね。そうなると、まいったな……。
あ、ところで僕、魔法装備なんて言ってないですよ? ネイの話によると、ロックは魔法装備を持ってるんですか? すごいですね。」
レムがディムの発言に驚いた様子で、ディムをじっと見ていた。
「こいつはまた、いけしゃあしゃあと……。」
ネイは呆れて独白した。僕も心の中でネイの激しく同意した。ディムが先に魔法装備って言っただろうに。




