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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第57話 キャスティとの取り引き2

   *   *   *


「こんばんわ、ロック。お久しぶりね。」


 ――ゼロがネイから人化の指輪を貰った数日後のことである。


 ミステリアスな雰囲気を醸し出している三白眼気味の美女が部屋の入り口に居た。キャスティだ。


 朝食を終えた後、小さなキャスティがこっそりと、今晩部屋に訪れることを僕に告げていたのだ。


 そして今は深夜。僕は大人のキャスティを部屋に招き入れた。


「こんばんわ。まぁ、入ってよ。」


「ふふ。お邪魔するわね。」


 相変わらず、何が可笑しいのか分からないが、大人のキャスティは常に笑みを浮かべていた。そして、かなりゆっくりと体全体を左右に揺らしていた。そう言えば前回の訪問の時もそうだったな。癖なのか?


「ところで何の用だい?」


「前回の逢瀬の約束、覚えているかしら?」


「『逢瀬』だなんて、知らない人が聞いたら誤解するじゃないか。」


「ふふふ。まぁ、良いじゃない。今晩のことも内緒にするのよ?」


「まぁいいや。もちろん覚えているさ。例のネイに貸してくれたフライパンも約束の内なんだろ? 改めてお礼を言うよ。ありがとう。

 それだけじゃ無さそうだけどね。ネイにも色々アドバイスしてるんだろ?」


「ロック、あなた意外と目があるわね。」


「あのフライパン魔法装備(アーティファクト)、キャスティが作ったんじゃないか?」


「ふふふ、どうしてそう思ったの?」


 キャスティが眼力の強い瞳でこちらを見つめている。


「これと言った証拠は無いんだけどね。まぁ、キャスティのセンスかなって思ったのさ。」


 ぶっ飛んだセンスだとかは言わないでおこう。


「あら、バレちゃった? なかなかイケてるでしょ? もしかしてロックもあの趣を理解できる口かしら? ふふふ。」


 いやいや、それは無理だろ。


「いや、そこまで僕は達観していないよ。」


「残念ね。でも良いわ。ルビィとデルファは良い線行ってるから。」


 そうなのか? そう言えば先日も三人で話をしてたな。


「それで? 今晩の用件は何なんだい?」


「お願いがあるのよ。」


「もちろん、僕にできることだったら何でもするさ。僕も相談があったんだよ。」


「あら、そうなんだ。じゃぁ、ロックの話は後で聞くわ。いいかしら?」


 キャスティは髪を耳にかけながら言った。


「ああ。」


「まず一つ目ね。浴室エリアに行く途中に空いている部屋が幾つかあるでしょ? 家令長やメイド長にあてがわれそうな部屋よ。その一つが欲しいのよ。」


「良いと思うけど、何に使うんだい?」


「転送部屋よ。」


「え!? 転送ってあれだろ? 遠くの街に一瞬で行ったりする。そんなことってできるのかい?」


「ふふふふ。私を誰だと思ってるの?」


「いや、正直、キャスティの正体は何も聞いていないと思うけど?」


「そう言えばそうね。ロックの家にご厄介になっている、ただの魔法使いだったわね。」


 いや、かなり変わり者の凄い魔法使いだろ?


「ははは。」


「ふふふ。」


 しばしの間。


「前回はネイに協力してあげてって言ったでしょ? それをロックは叶えてくれたお陰で、私の野望に必要なものが少しずつだけど取り戻せてきているのよ。」


「そうなんだ。」


 ネイに協力というか、振り回されているだけだけどな。


「その一つとして、転送術に必要な編纂(コーディング)のノウハウが手に入ったのよ。自分のメモ書きを取り戻したというのが正しいのだけれどね。ふふふ。」


「何だか分からないけど、それは良かった。」


 僕の意図しないところで、色々なことが進んでいるってことか。


「ええ。転送部屋を使えれば、さらにネイのお手伝いができるって算段よ。」


「へぇ、それでこの家に転送部屋ができれば、どこにでも行けるのかい?」


「それは無理よ。」


「へ?」


「遠隔地に転送するためには、同じ設備を転送先にも用意しなければならないのよ。」


「なるほどね。それで、この家以外の転送部屋はどこにあるんだい?」


「ふふふ。無いわよ。」


 無いのか。


「だから、二つ目のお願い。」


 だから、ここ以外の転送地点を用意しろってことだな。


「なるほどね。分かったよ。」


「あら、話が早いわね。」


「ここの転送地点の準備ができたら、他の転送地点候補まで行って転送部屋を構築し、ここに転送して戻ってくるって手順だろ?」


「うふふ。よくできました。その準備が出来たら、また声を掛けるわ。」


「ネイには転送部屋を作るって言っていいのかい?」


「良いわよ。その方がネイの悪だくみの幅が広がるでしょ? ふふふ。」


「ああ、そうだね。ネイだったらアイーアに転送地点を作って、ロクシーから輸送費を巻き上げたりしそうだな。」


「あら。わたしも、転送費用をいただこうかしら。ふふふ。それが良いわ。そうしましょう。」


 キャスティはとても良いことを思いついたかの様だった。


「転送を商売にしたら、かなり儲かるんじゃないか?」


「あら、それはダメ。目立っちゃうもの。あいつに勘づかれるのも嫌だし。」


 『あいつ』と言った一瞬、キャスティの笑みが消えたが、すぐに戻ってきた。


「ところで、ロックの相談は何かしら?」


「あぁ、この前ネイが襲われたって話はしたろ?」


「ええ。」


「なにか他にも、ネイを守る方法はないかな?」


「そうね~。他に手が無いか考えておくわ。」


「頼むよ、キャスティ。」


「分かったわ。

 それはそうと、ロック。」


「なんだい?」


「これは例え話なんだけど……。

 そうね、料理が良いわ。沢山の人が各人それぞれ食べたい物を私に要求してくるの。そして私は魔法で料理を作ってあげる。私は全員の要求を叶えてあげたいんだけど、いちいち各人の料理を作っちゃうと手間がかかって仕方がないの。そういった場合どうしたらいいと思う?」


「う~ん。手作り料理じゃなく、魔法で作るのかい?」


「そうよ。魔法で解決できるという意味に解釈してもらって良いわ。」


「なんでもありみたいな感じだね。」


「まぁ、そんな感じね。万能じゃないけど。」


 なるほどね。


 ふむ。毎回魔法を使うのが大変ってことか……。ということは、キャスティが符号魔法(プロセス)みたいな仕組みを魔法で作って、それを各人が利用して料理できる方法があれば良いってことじゃないかな?


「だったら、レシピと素材を入れれば料理できる符号魔法(プロセス)を仕組んだものを作れば良いんじゃないか? レシピ通りに料理する機能があるわけだから、あとは各人が勝手にレシピと素材を用意するって寸法さ。」


「う~ん。」


 キャスティが暫く考えこむ。


「あれ? 駄目だった?」


 キャスティは、聞き取れない程の小声でブツブツと言い始めた。


「……転送で……、……目標設定、……身代わりゴーレムを……、マーカーは装着して……、それで良いとして、……入れ替えして……、意識すると……。……それに……。」


「お~い。」


 これは、僕をほっといて思考の沼に入り込んでしまっているな。後ろを振り返ってみると、ゼロは寝床で気持ちよさそうに眠っていた。首には人化の指輪を吊るした紐が見える。


 そう言えば前回のキャスティの訪問の際も寝てたな。


「それで良いわ!」


 キャスティが唐突に言った。僕はキャスティの方に視線を戻した。


「あ、お帰り。」


「え? あ、ただいま。

 ロックからヒントを貰えたからいい案が浮かんだわよ。ありがとう。うふふ。」


「どういたしました。僕の何がヒントになったか知らないけど。」


「デルファとルビィと話してて、大枠のコンセプトが決まって来たんだけど、個人毎のアレンジをどう解決しようかと悩んでたのよねぇ。」


 デルファとルビィ? その組み合わせは悪い予感しかしないな。


「何の話だい?」


「うふふふ、変身よ。

 じゃぁ、今晩はもう部屋に戻るわね。」


 キャスティは振り返り僕の部屋の扉を開けて出て行こうとする。


「変身!? なんだそれ?」


 僕の質問に、キャスティがウィンクをしつつ扉を閉めながら言った。


「あら、変身は変身よ。青鷹(ブルーホーク)のロック。」


 なんだと! キャスティもデルファ側の人間だったか!


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