第56話 人化 ~ネイ~
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ダイニングルームで午後の穏やかな時間を過ごしながら各人が好き勝手にしていた。私は本を読みながらその時間を楽しんでいた。
――ネイが拉致された数日後のことである。
私の拉致は皆の知るところとなったが、その騒動は大分落ち着いてきていた。
「青鷹のロック、赤牛のルビィ、黒狼のゼロ、橙狐のフォトラ、緑蛇のデルファ、黄猫のフェルミ、どうだ格好いいだろ?」
「師匠、格好良いでござろう?」
ルビィがキャスティに話している声が聞こえた。デルファも会話に参加している。ルビィの話にキャスティの目が興味深げにキラキラ輝いていた。ルビィの目も輝いている。恐らくデルファもだろう。まるでその輝きだけが髪の毛を透かして見えて来るようだ。
どうやら三人は、カラーズのメンバにシンボルを割り当ててるみたいね。ロックはその会話に参加する訳ではなかったが、彼らをじっとみて話を聞いていた。
「うむうむ。」
腕を組み、何度もうなずくキャスティ。
「それで、師匠にお願いがあるのでござるよ。」
デルファが師と仰ぐキャスティに向かって言った。
「ほう?」
キャスティは、聞く耳を持っている様子でデルファの話の続きを促した。デルファがちらりとロックを見た。
「少し込み入った話になるので、小生の部屋に来てほしいでござる。」
「わかった。」
デルファは、キャスティとルビィを伴ってダイニングを出て行った。
「ねぇロック、何だかルビィ達はキャスティも巻き込んでるわよ?」
私はロックに言った。
「そうみたいだね。
元々はデルファが言い出したんだけどさ。妄想話だったから放っておいたんだ。それにルビィがノリノリでさ。カラーズ団員に個々の色や動物を割り当てはじめたんだ。まぁ、何かが変わる訳でも無いはずだから好きにしたら良いって言ってるんだけど。
デルファの妄想とルビィの暴走に、キャスティのあのセンスが相乗しなければ良いのだけどね。」
あら、それはそれで面白いんじゃないかしら? 当人の思惑とは違うのでしょうけど。
「あ、そうそう。話は変わるけど、キャスティにお願いしていた物が出来上がったのよ。ちょっと試してみたいんだけど良いかしら?」
今日はお披露目をしたい物があるのだ。
「ああ、良いけど何だい?」
「ゼロ、ちょっといい?」
フェルミと話し込んでいる、いや、交信し合っている様子のゼロに向かってネイが言った。
「にゃ」
テーブルの上をすたすたと私の方に向かって来るゼロ。話し相手が居なくなったフェルミもこちらに近づいてきた。
「これはね、ルーシッドの骨董屋で手に入れた魔法装備よ。それで、そのままでは使いづらいから、キャスティに改造してもらったの。」
「やっぱりキャスティはそんなことができるんだ! 流石は編纂魔法使いだな。」
ロックが驚いている。
「改造出来るのは、キャスティが古代魔法使いだからという方が正しいわね。」
「ウチより小っちゃいのに、凄いっちゃね。」
魔法の事は良く知らないであろうフェルミも驚いている様だ。
いや、むしろ自分より背が低いと言いたかったのかしら?
「で、その効果は何なんだい? また家を壊す様なものじゃないだろうね?」
ロックがブラッドサッカーで玄関を吹き飛ばした話を蒸し返してきた。
「あんた、私がいつもあんなことををするとでも思っているの? ブラッドサッカーが契約者に応じて威力が変わるなんて知らなかったのよ。以前の実験ではあんな破壊力は無かったのだから不可抗力だし、半分はあんたのせいでしょ。
って、今はそんなことはどうでも良いのよ。」
私はそう言いつつ、紐を通した指輪をポケットから出した。そしてゼロを手招きして手元に寄せ、その紐をテーブルの上に居るゼロの首に括り付けた。
「さてと。
ゼロ、人間の姿になる様に念じてみて。」
「にゃ」
突然ゼロの姿は消え、そこには黒い革鎧を着て二本の剣を帯びた少年が居た。襲撃してきた時の大人のカナテをそのまま少年にした様な顔立ちだ。そして、その装備は少年のゼロにはぶかぶかだった。
「うわっ! ゼロ!?」「師匠!!」「ほほう。」
ロックとフェルミが驚いている。ゼロは驚いてない様だ。
さすがね。
「この防具だと、俺には少し大きいな。」
ふむふむ。今着ている装備は、私がカナテを猫に変えた時の装備って訳ね。とすると、今ちょうどいいサイズの防具に着替えて猫に戻ったら、次に人間になったときはちょうどいいサイズの防具になるのでしょうね。
さらに、もしカナテにかけたポリモーフセルフを完全に解除することができたら、その時は、大人のゼロが子供サイズの防具を着てる状態になるのかしら?。その時には注意しておかないと……。
でもなぜ少年の姿なのかしら? 後でキャスティに聞いてみよう。
そんなことを考えてたら、いつの間にかロックがじっとこっちを見ていた。
「なぁに?」
「あのさ。ネイって時々抜けてるよな。人間に戻すんなら、まずテーブルから降りてから念じる様に言うべきだったんじゃないか?」
おっと。それを考えるのを忘れてた。返す言葉が無い。
ゼロは軽くテーブルの上で数回ジャンプして、ひらりとテーブルから一回転して飛び降りた。
「悪くは無いな。」
反論の余地のないロックの指摘を無視することにして、私はゼロに視線を変えた。
「ゼロ、あいにくそれは一時的なものよ。一日一回、五分間だけしか効果が続かないの。完全に元に戻る方法はこれからも探すから、今はそれで勘弁して頂戴。
あと、装備も身の丈に合わせてみましょうね。」
ゼロはじっと私の方を見た。
「感謝するぞ、ネイ。」
「え、ええ。」
ちょっと意外な反応だったので、言葉が詰まってしまった。
「師匠!! 一分だけで良いけん、外でしよ!」
フェルミが短剣を抜いて目を輝かせてゼロに迫る。
「あぁ、俺もこの体でどの位いけるか確かめてみたい。」
「やった! ロック、思考ブーストして良いん?」
「あぁ、二人とも怪我をしない程度にな。」
フェルミはその答えを聞いたのか聞いていないのか分からないタイミングで、ダイニングルームを飛び出して行った。それをゆっくりと追うゼロ。
ゼロが出て行った後には、私とロックだけがダイニングルームに取り残された。
「二人だけになっちゃったな。」
「あら、五分も経たずにフェルミ達は戻ってくるわよ。ん?」
ロックに悪戯っぽく笑って手招きしている自分に気づいた。
ダイニングルームの静けさとは対照的に、外では速くそして激しく剣と剣がぶつかり合う音が鳴っていた。
フェルミ:「師匠、行くばい。 ブースト!」
ゼロ:「いきなり全力か……。ふむ。」
フェルミ:「りゃ! うりゃ! なんで! うにゃ! なんで! 当たらん!」
ゼロ:「うむ。この体は大分軽いな……。」
フェルミ:「にゃーッ! 当たらん!!」




