第53話 カラーズ集結
* * *
クエスト斡旋所ハロルドワークのロビーに、僕とルビィ、デルファ、フェルミそしてゼロが居た。皆でフォトラがクエストから戻ってくるのを待っている。彼女は、新人冒険者を伴って比較的簡単な妖魔の討伐クエストに向かっているのだ。
「ところで、冒険団の名前決めたのか?」
待っている時間が暇なのだろう、ルビィが聞いてきた。
「もちろんさ。」
「それで?」
「カラーズ、ってどうかな。」
色々な団員が居て、その特色を活かしたいという意味で付けた名前だった。
「色か! デルファが前の世界の話をしてたときも言ってたもんな。個人に色を割り当てるって。だろう? デルファ。」
「その様なグループも居たでござるよ。前の世界には。」
「んじゃ。俺は赤な。」
ルビィが自分の赤い髪の毛をいじりながら、嬉しそうに言った。
「いや、冒険団の名前はそうしたけど、別に個人に色を割り当てる気は無いぞ?」
僕は先走るルビィを制した。
「お前にはその気が無いだけだろ? じゃぁ、俺らで勝手に割り振るぞ。」
勝手な解釈をするルビィ。僕に近寄ってきて、心配するなと言いたげに僕の肩に手を置いた。なんでそうなる?
「ロック殿は気にしなくても良いでござるよ。ルビィ殿と勝手に割り当てておくでござるよ。」
ルビィと意気投合しているデルファ。
「まぁ、勝手にしてくれ。」
「よし。じゃあ団長のロックは何色にするかな~。」
ルビィが僕の色をどうするかをデルファに投げかけた。
「メジャーな色は青、緑、黒あたりでござるな。」
「黒はゼロだろ。」
「では、クールなイメージの青にしておくでござるか。」
「じゃあロックは青だ。なんとなくだけどな。フェルミは黄色で良いよな?」
「別に何色でも良いばい。」
トウモロコシをかじりながら、あまり興味無さそうに答えるフェルミ。
色決めは止まりそうにないな。
「フェルミは黄色っと。デルファは残りの緑で良いよな?」
「了解でござるよ。」
「おっと、フォトラを忘れてたぜ。デルファ、何色がある?」
「オレンジかピンクか白ぐらいでござろうか。」
「ピンクって感じでも無いな。オレンジにしておくか。」
「これで全員でござるか? ロック殿が青、ルビィ殿が赤、ゼロ殿が黒、フェルミ殿が黄、フォトラ殿がオレンジ、そして小生が緑でござるな。」
結局ルビィとデルファで団員の色を割り振ってしまった。
「あ! そうだ! 俺、牛が良い! 牡牛。ナンディのこと考えてたら思いついたんだ。色の他にもシンボルとか割り当てるんだったろ?」
ナンディのこと考えてたのか。計り知れないなルビィ。
「まだ続けるつもりか?」
ルビィをデルファの話が止まりそうになかったので、僕はルビィに突っ込んでみた。
「まだ、フォトラも戻ってこなさそうだし、いいだろ? お前は気にしなくていいんだ。だから、な?」
嬉々としているルビィ。また僕の肩に手をのせて来た。何が『な?』なんだか。デルファも明らかに楽しんでいる。
「まぁ、勝手にしろよ。何かが変わる訳でも無いしな。」
「あぁ、勝手にするぜ。で、お前は鷹と鷲どっちが良い?」
「なんだ突然だな。どっちかって言うと鷹の方かな。」
僕はルビィの問いに、つい答えてしまった。ニヤリと笑うルビィ。
「なんだかんだ言って、お前も案外乗り気じゃないか?」
「知らないよ。」
「猫のシンボルは、どっちにするかで迷うところでござるな。」
「あぁ、ゼロもフェルミもそのまんまだしな~。ゼロは黒猫だけど、なんかイメージ違うよな。一匹狼って感じもするし、狼で良いんじゃないか?」
「そうでござるな。ではフェルミ殿が猫でござるな。ところで、フォトラ殿のイメージはどんな感じでござるか?」
「そうだな~。弓使いだし、抜け目ないって感じかな。狐が良いかも知れないな。デルファは何にするんだ?」
「小生は蛇が良いでござる。蛇は再生の象徴でござるからな。前の世界からの転生者の小生に合うと思うでござる。」
「蛇か、良いなそれ。これで全員だな。青鷹のロック、赤牛のルビィ、黒狼のゼロ、橙狐のフォトラ、緑蛇のデルファ、黄猫のフェルミ、全員そろってカラーズ。だな。」
僕は何も言わずにルビィをじっと見た。
「あぁ、ロックは気にするな。勝手に言っているだけだからな。」
「そうでござるよ。小生らが勝手に言っているだけでござる。」
ルビィは手をヒラヒラをしながら、デルファは頷きながら僕に言った。
「楽しそうね?」
「おっす! 橙狐のフォトラ。」
いつの間にか僕の背後に居たフォトラにルビィが言った。
「何それ?」
突然橙狐のフォトラと呼ばれて困惑している様子のフォトラ。
「俺が勝手に言ってるだけだから気にしなくていいぜ。」
なんの説明にもなっていないことを言うルビィ。僕が振り返ると、フォトラと二人の冒険者が立っていた。一人は女性だ。革鎧に剣を装備している。もう一人は要所を金属で補強している鎧に長剣を装備している男性だった。
後者には見覚えがあった。ネイに連れていかれたパーティで紹介された、サルファ侯爵の息子じゃ無かったか!?
「はじめまして! ディムって言います。」
ディムは僕の手を勝手にとり、握手をしてきた。
『はじめまして』と来たか。先に発言して、僕に顔見知りだと言わせない様にしているな。
「あ、あぁ。初めまして。ロックです。」
ディムの思い通りに、僕は初対面を演じさせられた。
「そして、こっちがレムです。」
ディムに紹介されたレムが軽く会釈をする。ひかえ目に傍らにいるレムは、ディムのお目付け役といったところなのだろう。
「二人は最近冒険者になったらしいの。ロックが戻ってくるまで、一緒にクエストに行ってたのよ。」
フォトラが二人を簡単に紹介してくれた。
「フォトラにはお世話になりました。ロックが冒険団を再編するまでってことは聞いています。その間、クエストを手伝ってもらってました。
もしよかったら、僕も時々ロックの派遣隊の一員として同行させてくださいね。家の都合で遠征クエストには行けないですけど、近場のクエストがあれば同行したいです。いいですよね?」
さすがはサルファの王子だ。丁寧な言葉遣いの内に、有無を言わせない圧がちらほら垣間見える。僕がディムの正体を知っているからそう思ってるだけなのかもしれないが。
軍学校に通ってるとか言ってたよな。だから遠征には行けないという訳か。
「あぁ、その時はよろしくたのむよ。」
「ロックが団長をする冒険団は、カラーズって言うんだぜ。そして俺が赤牛のルビィだ。よろしくな。」
ルビィがディムにそう説明し、握手を交わした。
「冒険団の名前がカラーズって言うのは分かったわ。それで、赤牛のルビィって何?」
ルビィとディムのやり取りを聞いていたフォトラが、僕に聞いてきた。
「ルビィに聞いてくれよ。」
僕は肩をすくめるだけだった。
フォトラ:「なんで私が狐なの?」
ルビィ:「狐は狡賢いだろ?」
デルファ:「ルビィ殿、それは言い過ぎでござる。前の世界では、人に化けた狐が山から下りてきて人間に紛れると言う物語があったでござるよ。そして狐は人間を騙したり共同したりするのでござる。まるで密偵でござるな。」
フォトラ:「……ねぇデルファ、それはフォローなの?」




