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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第51話 帰宅

   *   *   *


 僕にとって、大きすぎる我が家が目の前にあった。ここを出発したときの同行者は、僕とネイ、ルビィ、ゼロ、ナンディだったのだが、今はデルファとフェルミが加わっている。実に一か月弱の長い旅だった。そうそう、フェルミに言っておくことがあったのだ。


「あ、そうだ。フェルミ?」


「何?」


「この屋敷に入るときは、そのブーツは脱いでほしいんだけど。床を穴だらけにしたら、ここの家妖精が黙っていないと思うんだ。普通に柔らかい屋内履きを用意した方がいいな。」


「脱がないけんっちゃね。分かったばい。ロックんがたには家妖精が居ると?」


「この屋敷を取り締ってる人間が、自分のことを家妖精って言っているんだ。ついでに俺も、厳重に取り締られているらしいぜ。ははは。」


 ルビィが解説を刺しこんでくれた。


「ただいま~!! シィ。」


 ルビィが玄関の扉を開け、僕らの帰宅を大声で知らせた。しばらくすると、ロビーの奥からメイド服のシィが姿を現した。


「あらぁ。あらあらぁ。お帰りなさい。みんな元気そうで何よりだわぁ。見慣れない顔ぶれが増えてるわねぇ。」


 首を傾げて僕らの方を見るシィ。


「あぁ、紹介はダイニングルームで改めてするよ。キャスティにも紹介したいし。あと、何か代わりの履物は有る?」


 僕はフェルミが履いているヒールが尖った鉄製のブーツを指さして言った。


「えぇ。見繕って持ってくるわぁ。ここで待っててねぇ。」


 僕が言いたいことを理解してくれたシィは、履物を探しにロビーの奥の扉に消えた。


「さて、私は書斎で荷物をかたずけてからダイニングルームに行くわね。ルビィ、荷物を運ぶのを手伝ってくれる? あと荷車のかたずけとナンディの世話もね。」


 ネイが言った。ネイは街に入るときには四輪荷車から降りていた。荷車の御者席を陣取っていたゼロは、地面に着地して勝手に家の中に入っていった。


「あぁ、もちろんさ。」


 ルビィとネイが荷車の後ろに向かって歩いていった。


「広い立派な屋敷でござるな。」


 感心した様にデルファが言った。


「あぁ、ネイが手配したんだ。僕が知らない間にね。」


「ほほう。傍から見ると一目瞭然であるが、ロックはネイの言うなり、いや夢中なのでござろ? 前の世界では年上彼女は素敵彼女ジャンルの一つでござったから理解できない訳ではござらんよ。さらにネイは、ツンデレ、いや大人少女の属性持ちでござろうか……。」


 デルファの発言には、返す言葉が無かった。もちろん前の世界の話の内容が良く分からなかったからだ。


 僕はデルファとフェルミを伴って、ダイニングルームの扉をくぐった。そこには本を読んでいるキャスティが居た。ゼロは既にテーブルの中央でくつろいでいる。キャスティが僕らが入ってきたことに気づいて、本から視線をこちらに向けた。


 すると突然、キャスティはとても驚いた表情を浮かべた。


「お前。」


 キャスティは椅子から飛び降り、パタパタとこちらに駆け寄ってきた。


 いったい何があったんだ?


 キャスティの進路は、デルファに向けられていた。デルファの前に来るや否や、デルファに右手を差し出し握手を求めるキャスティ。


「よくやった。」


 キャスティはすこぶる上機嫌の笑顔を見せていた。


「はて。何のことでござるか?」


 訳が分かっていない様子のデルファ。僕も訳が分からない。


「握手。」


 何の説明もないまま、デルファに握手を求めるキャスティ。まさかグローリアちゃんサプライズをするのか?


「小生、デルファと申す。よろしくお願いするでござるよ。」


 デルファは困惑の表情を浮かべたまま握手に応じた。握手した手をぶんぶんと振り回すキャスティ。デルファとキャスティには身長差があるので、その様子は滑稽だった。


「立ち話もなんだし、とりあえずみんな座ろう。」


 僕の提案に応じて、僕とフェルミ、デルファ、キャスティが適当に椅子に腰かけた。


 遅れてダイニングルームに入ってきたシィが、皆の前に紅茶と菓子を配膳している。フェルミの前のお菓子の皿は、既に空になっていた。


「まずシィを紹介するよ。この家の管理と、ネイがやっている商売の会計管理をしてくれているんだ。」


「よろしくねぇ。」


 シィのその言葉に、デルファは丁寧なお辞儀を返した。それを見たフェルミはデルファに倣って軽く会釈した。


「そして、こっちがキャスティ。編纂魔法使い(コンパイラー)だ。」


 キャスティはまだにこにこしている。


「それはそれは。若いのにすごいでござるな。」


 詠唱魔法使い(インタープリター)であるデルファが、少女のキャスティが希少な編纂魔法使い(コンパイラー)であることに驚いている。


「それで、こっちの驚いているのがデルファ。名もなき精霊と契約している詠唱魔法使い(インタープリター)だよ。」


「それ、エルピス。」


 キャスティが言った。


「「え?」」


 僕とデルファが聞きなおした。


「名前はちゃんとある。」


 それ以上、説明する必要が無いと言いたげに、キャスティは腕組みをして何度か頷いた。


「キャスティ殿は、この名もなき精霊を、いや、エルピスをご存知なのでござるか?」


「うん。」


 再び頷くキャスティ。

 

「キャスティがさっき『よくやった』って言ったのは、エルピスに関係しているのかい?」


 僕はキャスティに聞いてみた。


「う~ん。」


 キャスティが何やら深く考えこんでいる。何を考えているのだろう。エルピスのことを上手く説明できないのかな? あるいは、秘密にしなければならないことだから、誤魔化す方法を考えているのか……。


 すると、キャスティが椅子を飛び降り、パタパタとデルファの方に寄って行った。


「立って。」


 デルファを立たせたキャスティが、デルファの座っていた椅子に立ち乗った。こうするとキャスティの方がデルファより背が高くなる。


「弟子にしてあげる。」


 キャスティがデルファの頭頂部を右手で、ポンポンと軽くたたいた。それに合わせてデルファの前髪が、いや髪全体がモフモフと波打った。


「エルピスのことを教えてくれるのでござるか!! されば、これからは師匠と呼ぶでござるよ。」


 ふむ。魔法使い同士でそういう事になったらしい。まぁ、詳しい話はあとで聞くことにするか。


 キャスティは、デルファの髪のモフモフ具合が気に入ったのか、デルファの頭をポンポンするのをずっと続けている。


「あ~。続けていいかな? で、こっちの猫耳族(フェリス)がフェルミ。大剣使いだ。ゼロが師匠だ。」


「あらぁ。猫が師匠なの? にゃんこ先生とでも言うのかしらぁ?」


 そう言えば、シィはゼロの正体を知らなかった。


「あぁシィ。ずっと紹介してなかったな。こちらの黒猫はゼロだけど、元は人間の漆黒のカナテなんだ。ネイが猫にしてしまったのさ。」


「あらぁ、人は見かけによらないって言うのものねぇ。いいえぇ、ゼロさんの場合は猫を被ってたと言うのかしらぁ、うふふふ。そうそう。以前、猫に金貨(ゴールド)なぁんて言っちゃって、ごめんなさいねぇ。人間だったら価値は分かるわよねぇ。」


「にゃ」


 シィの反応は、まったくの予想外だった。


「あと、商人のロクシーがここに住んでるけど、今は旅に出てて不在なんだ。」


 デルファ達の方を見ると、キャスティが両腕を横に広げ、デルファから脇の下を抱えられて椅子から降ろしてもらっていた。知らない人がみたら親子と思うんだろうな……。


 あ、そうだ。キャスティと言えば、ちょっと試しておきたいことがあったのだ。


「ところでフェルミ、キャスティの横に並んでみてよ。」


「え? 良いばい。」


 キャスティの横に並ぶフェルミ。やはりな。金属製ブーツを脱いだフェルミは、耳の分だけキャスティより高いが、耳を除くとキャスティの方がフェルミより高かった。


「何しよん? いたらんこと考えよっちゃろ。」


「ははは。何でもないよ。ありがとう二人とも、もういいよ。椅子に戻って紅茶でも楽しんで。シィ、紅茶が終わったら二人に部屋を割り振ってもらえるかな? この家に住んでもらうことにするよ。」


 二人とも変わり者だから、目の届くところに居てもらいたいという僕の我儘なのだが。まぁ、二人とも師匠の近くが良いだろうしな。


「いいわよぉ。でもぉ、ちゃんと宿泊代は払って貰うからぁ。」


 シィはダイニングルームの奥の、『賃借料』と書かれた箱を指さして言った。


「よろしくでござるよ。」「よろしくっちゃ。」


 デルファとフェルミが言った。そうして、我が家に新たな住人を迎えた生活が始まった。


フェルミ:「ロックは師匠の恩人やけん、ウチの大師匠っちゃね?」

ロック:「大袈裟な。」

デルファ:「ロック殿は師匠の扶養者でござるから、小生の『お義父(とう)様』でござるな。」

ロック:「それは絶対に違う。」

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