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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第5話 就職活動より夕食 ~ネイ~

   *   *   *


「ただいま~。

 あら? まだロックはお仕事かしら。」


 ――ロックとネイが同居を始めて数日後のことである。


 ロックはクエスト斡旋所の一つである『ハロルドワーク』に通っている。そこで簡単なクエスト、主に荷物やら手紙やらの配送クエストを請け負って生計を立てている。誰でもできる簡単なクエストだから実入りは少ない。そして定職じゃないから収入は安定しない。だから質素な暮らしをしているのだ。


 こんなんじゃ、きっとロックはまともな食事も摂って無いわね。


 せっかく森から離れて街に住むことになったので、また実験がてら商売でも始めようと思っている。そんな旨い話はその辺に転がっている訳では無いのだが。そこは焦らず、チャンスを逃さない様に感覚を研ぎ澄ましておく必要がある。


 そして寄生主、いやいや、相棒になったロックにはもっと活躍してもらわなきゃ。私のために。


 今日は、街をぶらぶらして新鮮なお肉を手にいれたので、ロックのために精の付く料理でも振る舞ってあげることにした。こんな時には鼻歌交じりに家事をするものだと『セトの嫁入り』の第三巻に書いてあった。私はそれに倣って、『家妖精の子守歌』の旋律をハミングした。


 香味野菜で肉にしっかり下味を付け、添える春野菜の準備を済ませた後、私はダイニングテーブルに向かった。ゼロはテーブルの上がお気に入りなのか、いつもそこに陣取っている。私が家に帰ってきてずっと、ゼロは私の動きを目で追っていた。


「ふふ~ん。ゼロ~。いい子にしてた?」


「にゃ」


「……カナテ? あなた、本当にしゃべれないの?」


「にゃ」


「そっか。でも人間の言葉は理解できるのよね?」


「にゃ」


「二引く一は?」


「にゃ」


「二足す一は?」


「にゃにゃにゃ」


「十掛ける十は?」


 じっと私を見て反応しないゼロ。


「私の勝ちね。ところであなた、あの時から私に爪を立てるとか、噛みついてくるとか、そんなことも全然しないで、おとなしいわね。」


「にゃ」


 ゼロは尻尾を左右にゆっくり振っていた。


「ふ~ん。あなたとも、いずれゆっくりお話しする必要があるわね。」


 私はゼロの頭をぐしゃぐしゃと可愛がってから、今日買ったばかりの本を読みながらロックの帰りを待つことにした。


   *   *   *


「ただいま。」


 寄生主――、相棒が帰ってきた。


 玄関から入ってすぐの所で、ベルトから護身用の短剣やポーチなどを外している。その近くには、何やらいろいろな道具や装備が入っている大きなチェストが幾つかあった。今はその大きなチェストの上に寝具を広げ、ロックが寝床として使っている。ロックが普段使っていたベッドは私に譲ってくれていた。


「おかえり。ロック。今日のクエストはどうだった?」


「いつも通り、平凡さ。」


「ふ~ん。ところでクエスト斡旋所ってどんなところなの?」


 ずいぶん昔にクエスト斡旋所に世話になったことは有るが、今は仕組みが変わっているかも知れない。念のためロックに確認してみることにした。


「名前の通り、クエストを斡旋してくれるところさ。クエストを請け負うのは冒険者だったり、僕みたいに一般人だったりするんだ。」


「冒険者って、あの冒険者?」


「その冒険者がどの冒険者か知らないけど、まあいいや。冒険者ってのは、比較的安全な一般の依頼を請ける人と、より危険な戦闘を伴うことが多いクエストを請ける人を言い分けるときに使うのさ。ちなみに後者が冒険者。」


「ふ~ん。じゃあ、あの冒険者ってことね。」


「その冒険者は、危険な動物や妖魔の討伐や護衛などを主に行うんだ。ずいぶん以前は警備隊が中心になって討伐を行っていたらしいんだけど、手が足りないってことでクエスト斡旋所に討伐を委託したらしいよ。」


 なるほど、その辺の事情は私が知っている昔とあまり変わらないわね。


「領土内の妖魔の討伐は国がクエスト依頼しているのね?」


「詳しくは知らないんだけど多分そうだよ。定期的に妖魔が発生するポイントを管理して、適宜冒険者に討伐クエストを斡旋するのがクエスト斡旋所の仕事の一つさ。」


「なるほどね。それが全てなら、私が知っているクエスト斡旋所と同じ役割りね。」


「あ、ハロルドワークだけかも知れないけど、冒険団(カンパニー)のランク付けというのもやってるよ。」


冒険団(カンパニー)?」


「冒険者が集まった団体のことさ。クエストを請けた冒険者の一団を派遣隊(パーティ)って言うんだけど、派遣隊(パーティ)は一つの冒険団(カンパニー)で構成されることも有るし、複数の冒険団(カンパニー)冒険団(カンパニー)に所属していない冒険者で構成されることもあるんだ。」


「へ~。」


「そしてクエスト毎に難易度が設定されているんだけど、それを請けられるかどうかは冒険団(カンパニー)のランク次第なんだ。特に高難易度のクエストの場合は請ける冒険団カンパニーの条件が厳しいんだってさ。」


 私の知る限りでは、随分昔の話だけれど、そんな仕組みや名称は無かった。当時は斡旋所の胸算用で請けさせるかどうかを決めていたのだ。


「さらに冒険団(カンパニー)とは別に冒険者個人にもランクがあるんだ。これは希望者だけに割り当てられるんだけど、定期的に行われる試合や正式な個人試合を通じて決まるんだって。これはどちらかと言うと娯楽的な意味しか無いと思うよ。」


「冒険者は荒くれ者が多いでしょ。クエスト斡旋所としてもそんな奴らを街中で暴れさせたくないから、公式試合と称してガス抜きをさせてるんじゃない?」


「そうかも知れないね。でもまあ、試合は賭けの対象になってるし、その胴元もクエスト斡旋所がやってるよ。」


 そっちが本命か……。


「抜け目ないわね。ところで、ロックは冒険者にはならないの?」


「勝手なイメージかも知れないけど、常に順を争って、他人より上に居ることを目指している感じがして、あまりそういうのは好きじゃ無いんだ。」


「ふ~ん。まぁ、あんたが選んだんなら何も言わないけど。ちょっと偏見が入ってるんじゃないかしら?」


「まぁ、そうかも知れないね。悪い奴らばかりじゃないってのは分かるんだけど……。

 ところで、そっちの就職活動は?」


 おっと、矛先がこっちに向いたわね。


「まぁまぁよ。」


 ロックには就職口を探すって言ってあるのだ。今日はただ街をぶらぶら探索していただけなのだが、それはあまり堂々と言えるものではない……。


「疲れたでしょ。夕飯作るから、あんたは、ゆっくりしてていいわよ。」


 後は焼くだけで出来上がりというところまで下準備を終わらせているし。


「え、でも。ネイに――」


「ここに泊めてもらうって決めたとき、食費ぐらいは出すって言ったでしょ。」


 ロックが何か言おうとしていたが無視した。


 どうせ遠慮とかするんだわ。ここは寧ろロックが借りを感じる様にした方がお得ってものよ。


「そうだ、こうしましょう! あんたは外で働く。私は食費を稼ぐぐらいの就職先を見つけて、夕食を作る。私の就職先の心配はしないで。何とかするから。

 ところで、今日は新鮮な肉が手に入ったの。焼き方はレアかウェルダン、どっちがいいの?」


 これ以上あれやこれや言われるのは面倒なので、この話を押し通すことにした。


「え、でも――」


「焼き方はどうするの!?」


 私は少し声のトーンを上げてみた。少し高圧的に押してみると相手によってはたじろぎ、操りやすくなる。だが相手は腐っても男なのだ、少し愛らしい感じを残しておいて自尊心を傷つけない様にしておく必要があると、『セトの嫁入り』の第五巻に書いてあった。だから私は笑顔を作りながら首を傾げて見せた。


「じ、じゃぁ、ミディアムで。」


 ロックは選択肢以外の答えを出してきたが、思い通りに話を押し通せた様だ。


「わかったわ。ちょっと待っててね。」


 私は夕食をこしらえるために鼻歌を交じえながらキッチンに向かった。一方ロックはテーブルに着いてゼロと戯れ始めた。


「話は変わるけれど。大陸制覇でも何でもいから、私の蒐集が楽になる様にするために、あんた何か大きなことを企んでくれてる?」


 私は料理をしながらロックに聞いてみた。


「そんな大層な事を言われても、無理だよ。それにネイの蒐集って何だよ。」


「蒐集は蒐集よ。私の生き甲斐。

 それはそれとして、逆の発想で最終目標を大陸制覇にして、何から始めたらいいかを考えてみるってのはどう?」


「全然逆じゃないし。それに『大陸制覇』ってのは揺るがないんだな。」


「前にも言ったでしょ。さしあたりの抽象的な表現よ。あまり気にしないで。」


「う~ん。」


「私もあんたの為に考えるわよ。情けは人の為ならずって言うでしょ?」


「それを自分で言うんだ。まぁ、考えてみるよ。ただ、過度な期待はしないでくれよ。」


「もちろん、期待してるわよ。」


 私はくるりと振り返ってロックにウィンクを投げた。男にお願いごとをするときは愛らしく我が儘にと『セトの嫁入り』の第一巻に書いてあったからだ。


 しかし、ロックはゼロの方を見ていた。


 何でロックはこっちを見ていないのよ! ……そして、無表情のゼロの視線が痛い。


「ん? どうしたんだい?」


 こっちをじっと見ているゼロに気づいたロックが、私を見た。


「何でもないわよ!」


 それはそうと、ロックはどこまで私の役立ってくれるのかしら。思い通りに誘導できれば良いのだけれど。




ネイ:「私の話、理解できる?」

ゼロ:「にゃぁ」

ロック:「にゃぁ?」


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