第48話 サルファ商国への帰路1
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デルファの鋭い槍の突きの連撃がルビィに襲い掛かる。十字の刃を持つデルファの槍の切っ先が、幾度もルビィの周囲を往復していた。ルビィはその攻撃を盾と剣でいなし、足元の攻撃は具足に当たるに任せていた。ルビィがデルファに寄ると、デルファは下がる。デルファの槍が届く距離、しかしルビィの剣が届かない距離、それをデルファはキープし続けている。
上手い。デルファは本当に魔法使いなのか? 槍の腕はそこらの剣士と互角以上じゃないか。
普段は前髪に隠れて両目を見ることができないが、戦闘中の今は前髪の隙間から片目が時折見える。そしてその目には鋭い眼光が宿っていた。妄想癖があるあのデルファと同一人物とは思えない。
――ロック達がマグシムネに五日間留まった、次の日のことである。
サルファへの帰り道、夕食の準備をしているネイから大分離れたところで、ルビィとデルファが手合わせをしていた。ルビィがデルファに望んだ通りに。
二人とも、デルファの絶対に致命傷にならない魔法をかけた武器で戦っている。ある程度本気になっても死ぬことは無い、……はずだ。
「ずっとこれが続くんっちゃない?」
フェルミが僕に言ってきた。重装備のルビィと軽装備かつリーチの長いデルファ、一対一ならデルファの方が有利だな。しかし、お互いに決定打は無いので決着はつかない。
「だろうね。ルビィが防御をミスったら、デルファの勝ちじゃないかな? デルファの方がルビィより動きが早いし。でも、デルファのスタミナが切れたらどうなるかな。」
デルファの連撃を受けたルビィが、あろうことか剣を足元に落とした。それを見逃さないデルファの一撃。その一撃をルビィは紙一重でかわし、槍の柄をしっかりと右手で握っていた。それを振り切ろうとしても振り切れないデルファ。ルビイは力任せにデルファの槍をたぐり寄せ、デルファに近づいた。そして左腕の盾の角で殴りかかろうとする。
「まいったでござるよ。」
デルファは力を抜いて槍から手を離した。
「剣を落としたの、あれ、わざとっちゃろ?」
隣のフェルミが僕に囁いた。
「多分ね。あのままだときりがないからね。」
ルビィとデルファがこちらに戻ってきた。
「ロック。勝ったぜ。でも次は無いな~。俺の攻撃、やっぱ距離が無いよなぁ。」
ルビィは爽快に言った。
「ルビィ殿、あの策は見事でござったよ。すっかり騙されたでござる。」
デルファもいい汗を流したという感じだ。それを見ていたフェルミがうずうずしている様だった。
「ルビィ、次やろ! 次! やろ! 次! やろ!」
フェルミがジャンプしながら、ルビィにねだる。
「フェルミ、ちょっとは休憩させてやれよ。それから、クロガネを使うのか?」
僕はフェルミに聞いた。
「人間と対戦するときはクロガネは要らん。四本の短剣とブーツでやるばい。あと、ブーストは使わんけん。約束っちゃろ?」
何故かジャンプを止めないフェルミ。
「あぁ、ブーストは使わないでくれ。」
「もういいぜ。フェルミ、やるか?」
軽い休息をとったルビィが言った。ルビィはスタミナもあるし回復も早い。そのルビィの問いに嬉しそうにうんうんと頷くフェルミ。
「使う武器を出してくだされ。魔法を掛けるでござるよ。」
デルファが二人に言った。
「名もなき精霊の聖刻に依りて呼び求める。来たれ武器拡張の力。一つ、付与対象は我が手の接触なり。一つ、付与属性は不殺なり。付与発動!」
何度かに分けてすべての武器に魔法をかけてもらった二人は、僕らの所から離れて行った。
ルビィとフェルミは離れて立っていた。そして何の合図も無しにフェルミがルビィに二本の短剣を投げつけた。手合わせが突然始まった様だ。ルビィは一本は盾ではじき、一本は躱して後ろに逃した。二本の短剣を左右の手に握り、猛ダッシュで駆け寄るフェルミ。ルビイの目の前で、突然躓いたかの様に前にめりになった。フェルミが大きく後ろに振った右脚が、背中側から真上に行き、そしてさらに頭上からルビィを襲う。左脚と右脚は前後に大きく開かれていた。ルビィは盾でその蹴りを受け止めた。さらにフェルミは脚を閉じつつ左脚での二撃目をルビィに見舞う。その二つの大きな衝撃音はこちらまで届いてきた。そしてフェルミはルビイの盾を踏み台にして後方宙返りし、着地した。
「あれが頭に直撃しても致命傷にはならないんだよな?」
心配になった僕はデルファに聞いた。
「そうでござる。安心されよ、実験済みでござる。絶対に致命傷にならない魔法を掛けた巨大ハンマーでネズミを直撃しても、そのネズミは生きていたのでござる。」
「すごいな。攻撃の役には立たないかもしれないけど、本当にすごい魔法だ。敵の武器にかけたら無敵じゃ無いか。」
「敵の武器に接触することが出来れば、でござるよ。しかし、そんなことは中々できるものではござらんよ。」
フェルミとルビィの戦いは、案の定フェルミがずっと押している。両手の短剣と凶悪なブーツの蹴りで攻撃している。フェルミが攻撃しルビィが盾や剣で防御する度に、その衝撃音がこちらに響いてくる。フェルミの一打一打の攻撃力とその手数は、ルビィが守勢から抜け出すことを許さなかった。
「フェルミはクロガネを使わない方が強いんじゃないか?」
僕は隣にいるデルファに聞いてみた。
「対人間であればそうでござろうな。もしかしたらフェルミ殿は普段クロガネを使っているのは、訓練の為かも知れないでござるな。前の世界では重しの様な服やマントを付けていた人も居たでござるよ。最強の敵と戦うときにそれを外すのでござる。」
「ふ~ん。日々訓練って訳か。」
「もう夕食ができるわよ。そろそろお開きにしたら?」
ルビィとフェルミとの手合わせに全く興味が無さそうなネイが言った。
向こうの方ではフェルミとルビィは楽しそうに手合わせをしていた。二人の顔にわずかな笑みが見て取れた。フェルミの容赦ない連続攻撃の手がほんの少しだけ空いた! その時を逃さずルビィは、剣を横薙ぎではらいフェルミに攻撃した。フェルミは左脚を上げ、狙いすましたかの様にその攻撃をブーツの高い踵とつま先の間で受けた。フェルミが脚を捻ると、ブーツのその隙間にルビィの剣ががっちりと絡めとられ、外すことが出来ない。
あのブーツはソードブレイカーにもなるのか!
そしてフェルミはジャンプして、剣を受け止めた左脚を軸に回転した。ルビィの握力を凌駕した、体全体を利用したフェルミのそのひねりの力のせいで、ルビィは手から剣を離してしまった。
「すげぇ! まいった。」
ルビィが降参した。
「ひゃっほー。」
フェルミがバク中して喜んでいる。
「フェルミ殿は思う存分戦えて、楽しそうでござるな。今まで全力を出せる手合わせをする機会が無かったのではなかろうか。」
そういうデルファの口元にも笑みが浮かんでいた。
武器を回収したフェルミとルビィが戻ってきた。ルビィは剣を鞘に入れず抜いたままだ。
「ロック、見てくれよ。剣が曲がって、鞘に収まらなくなったぜ。ははは。」
確かにルビィの剣は少し曲がっていた。
「ごめんっちゃ。」
フェルミは耳を垂れてしょんぼりしている。
「フェルミ、気にすんなって。俺が手を離すのが遅れたからこうなったのさ。」
「その剣、ちょっと貸しちゃり。」
ルビィの剣を受け取ったフェルミが、その怪力で剣を元に戻そうとしている。僕の剣をルビィに貸そうかと思ったが、細身の剣はルビィには軽るすぎるだろう。
「戻ったばい! ルビィ。」
フェルミが声を上げた。ルビィは、フェルミから受け取った剣を前に出し、片目でその刃の様子を見た。
「まだ、ちょっと歪んでいるな。けど、ありがとうなフェルミ。サルファまではこれで何とかするぜ。」
ルビィはその剣を鞘に戻しながら言った。
「ウチのクロガネ貸しちゃろか?」
「ははは。それ以外に手が無くなったらな。」
そしてその後、僕らはネイが作った夕食に舌鼓を打った。
ロック:「絶対に致命傷にならない魔法ってどんなからくりなんだ?」
デルファ:「小生も詳細は分からないでござる。想像するに、特定の条件および範囲で時間を巻き戻すのではなかろうか?」
ロック:「……だとすると、想像を絶するほどに凄い魔法だな。」




