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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第34話 闇討ち

   *   *   *


 フォックスアイズの面々はまだ広域警戒から戻ってきていない様だったが、ジェイス団は焚火の周りに集まって今日の見張り番の順番の確認をしていた。前日と同じ、ジェイス、コポル、フォトラ、ルビィ、僕の順ということになった。


「ガッ!」


 突然、ジェイスの左目と喉に矢が生えた。地面にも一本矢が生えている。


 それは、生えた様に思えるほど射られたことが突然だった。


「「ジェイス!」」


 ルビィとコポルがジェイスに駆け寄る。


「敵襲よ!!」


 咄嗟にフォトラが矢を番え周囲を警戒する。僕もそれを見倣い、ジェイスを背にして抜刀し、あたりを見渡した。後ろのジェイスはルビィとコポルの呼びかけに反応をしていない。


 くそ! ジェイスが!


「はっはぁ~。

 お前らは包囲されてるぜ~。抵抗せずに荷物を渡せば、命だけは勘弁してやるぜ~。どうする~?」


 遠くから夜襲をかけてきた敵の声がする。その姿は確認できない。フォトラが僕の真横に来た。


「フォトラ?」


「畜生!! フォックスアイズが一人もいないわ! 殺られたの!?」


「フォトラ、どうすればいい?」


 僕はフォトラに聞いた。


「あきらめる気になったか~。」


 優位に立って余裕な様子の盗賊の声が響く。僕らが不利な状況は何も変わっていない。


「なぁ、フォトラ!! どうすればいい?」


 答えを出してくれないフォトラに、僕は再度聞いた。


 っ!!


 突然フォトラに頬を叩かれた。


「しっかりしなさい! 窮地だからこそ自分で考えるのよ!」


「僕の力じゃ、あいつら全員は倒せないよ。」


「馬鹿言ってんじゃないわよ! あなたにそんなことできる訳ないじゃない。そんなこと期待してないわよ。」


「じゃあ、どうするのさ!」


「だから考えろって言ってるでしょ! 私たちそれぞれが出来ることがあるはずよ! その首の上に付いている塊は何よ!」


 フォトラは僕の頭を三本の指で突いて言った。


「考えれば良いんだろ!」


「そうよ! それから、叩いてごめんなさい。」


「あ、あぁ。」


 変なタイミングでフォトラに突然謝られたので、頭に上っていた血が下がった様な気がした。


「あきらめきれないのか~。だったら、良いことを教えてやるぞ~。

 ストラクは最初っから俺らの仲間だぜ~。これで分かっただろう。観念しろ~。

 まずはお前ら全員の武器をこっちの方に思いっきり投げろ~。抵抗するなら殺すぞ~。」


 盗賊の声が響いた。そいつが笑っているのが想像に難くない。


 僕は落ち着きを取り戻し、少しは考えることができる様になっていた。


「手の内を明かすとは、奴らは僕らを皆殺しにする気かな。」


 僕はフォトラに聞いた。


「えぇ、その可能性は高いと思うわ。護衛が盗賊とグルだったとはね。そんな盗賊は聞いたことが無いわ。」


「だったらなおさら皆殺しにしてその作戦を漏らさない様にするだろう。

 そして、圧倒的な戦力差を僕らに知らせたから、不利な僕たちは抵抗しないと考えてるよな?」


「でしょうね。」


「そして念のため、奴らは一人も逃がさない様に、周りを囲んでる可能性が高いよな。」


「そうでしょうね。」


「だったら抵抗して、逃げる行動をした方が良いと思う。もし周りを囲んでいないのなら、より逃げ易いだろうし。」


「どうするの?」


「人数が多いけど、周囲を囲んでるとすると、どこか一点突破をすれば包囲を抜けられるってことだろ?」


「ええ。上手く行けばだけど。あと、包囲を抜けるのは良いけど。皆殺しするつもりなら、最後の一人を殺すまで執拗に追撃されるわよ。」


「誰かが殿(しんがり)で逃げる時間を稼げばいいんだろ?」


「そうね。でもそれを誰がするのよ!?」


「僕がするよ。

 ルビィとコポルで包囲網を切り開いてくれないか? 二人と商人たちを誘導するためにはフォトラの指示が必要だ。」


 商人たちは身を寄せ合っておろおろしている。


「わかったわ。死なないでよ。」


 フォトラはこっちを見ずに言った。


 死なないでとは言っているが、死ぬことが確定していると思っているに違いない。


「向こうの商人達に説明してもらえるか? 僕はルビィとコポルを言い聞かせておく。」


「声がした方が逆に手薄だと思うから、そっちに向かうわ。」


「あぁ、突破する方向はフォトラに任せる。包囲網を抜けたら、最寄りの警備隊駐屯地の方に向かってくれ。」


 フォトラは身をかがめて商人の焚火の方に向かって行った。


 それを見て、僕は大声で言った。


「頼む!! 降参だ!! 命だけは助けてくれ!!」


 ジェイスを呼びかけ続けるルビィとコポル。


 同行した奴らの情報を元に、主力のジェイスを一番最初に殺ったのだろう。


 僕はルビィの胸倉を掴んでこっちを向かせた。


「ルビィ、よく聞け! 奴らは僕らを皆殺しにする気だ。お前はフォトラの指示に従って、商人達を連れて奴らの包囲網を突破するんだ! お前が一番前に行って、活路を切り開いてくれ! お前、大丈夫か!?」


「ちょっと待ってくれ。」


 涙目のルビィがそう言って、ジェイスの方に体を向けうずくまった。ジェイスの様子を再確認しているのだろうか。コポルの方を向くと、僕がルビィに言ったことを聞いていたらしく、ゆっくりと頷いた。


 そしてルビィが立ち上がり、こっちを向いた。


「オッケー。任せとけ。俺が先陣を切ればいいんだな。」


 いつもの軽い感じのルビィがそこに居た。


 涙の跡すらなくやる気に満ちている。ルビィのその様子に違和感を感じたがフォトラの方を指さして言った。


「フォトラの指示に従ってくれ。」


「うっし。」


 ルビィとコポルがフォトラの後を追った。コポルが時々こっちを振り返っていた。


「よぉ~し。そんならとっとと武器を遠くに投げろよぉ~。もたもたしてんじゃねぇぞ~。」


 盗賊の声が響いている。僕はそれを無視してゼロに言った。


「ゼロ、僕には手に負えない。代わってくれるか?

 まずはジェイスを射た奴らを倒す。矢が飛んできた方向はわかるか? あとは、ルビィ達の殿に回って、追ってくる敵を屠ってくれ! 僕はゼロに離れない様に付いて行く!」


「にゃっ!」


 ゼロが僕に向かって飛びついてきた。僕はゼロと目を合わせて意識を集中した。視界が暗転した。直ぐに視界が開け、目の前に僕の顔があるのを確認した。


 直後、ゼロ(ぼく)(ゼロ)から飛び降り、射手がいると思われる方向に全速力で走った。(ゼロ)は二本の剣を抜刀しゼロ(ぼく)を追い越して行った。正面から数本の矢が(ゼロ)の方に飛んできたが、難なくそれらを叩き落とした(ゼロ)。おかげで奴らの位置が分かった。二人、そして少し離れて一人。(ゼロ)ゼロ(ぼく)は奴らの方に駆けた。


 商人達の方を見ると、ルビィとコポルを先頭にして移動を開始していた。フォトラは殿に付いている様だ。


 (ゼロ)はあっさりと二人の射手を屠った。もう一人の射手の方に向かっている。


 暗い中、商人達を誘導しているルビィとコポルが、僕らが元居た焚火からかなり離れた位置で戦闘を始めた。僕らが後にした焚火の周辺には十数名の盗賊たちが現れ、商人たちの方に向かって進んでいくのが確認できた。ゼロ(ぼく)は商人たちとそいつらの間に入るべく駆けた。残り一人の射手を屠った(ゼロ)ゼロ(ぼく)を追いかけてくる。そして直ぐに追い越してしまった。


 盗賊の何人かが矢を射ている。フォトラの矢がそいつらの一人を射た。暫く商人たちの動きが止まっていたが、動き出した様だ。ルビィとコポルが対面している盗賊を倒すことができたのだろう。


 (ゼロ)の脚はとても速く、すぐに商人たちと盗賊たちの間に位置することが出来た。盗賊たちは目の前に現れた(ゼロ)と逃げたフォトラ達を追う二手に分かれた。


 (ゼロ)は迫りくる敵を無視し、フォトラ達を追う盗賊たちを優先的に追い屠っていく。ゼロ(ぼく)(ゼロ)に遅れない様に精一杯走った。


 フォトラを追う集団の中にストラクも居た。(ゼロ)がストラクに迫る。


「坊主、抵抗しても無駄だぜ、さっさとあきら――」


 (ゼロ)の斬撃によって、ストラクはあっさりとその命を終えた。


 フォトラを追う盗賊たちの数が減って来た。それでもまだ僕らを皆殺しにしようとしている盗賊たちが居る。ゼロ(ぼく)は少しずつ商人達が逃げている方に移動した。(ゼロ)を誘導してフォトラ率いる商人達を無事に逃がすために。そして(ゼロ)を狙っている盗賊たちを商人達の方に向かわせないために。


 (ゼロ)が盗賊たちを倒しながらルビィ達が逃げた方向に移動していると、御者が二人息絶えているのを見つけた。さらに息絶えた盗賊が三人居た。その盗賊はルビィ達がやったのだろう。


 フォトラの射撃はすでに止んでいた。前方にルビィ達の姿は見えない。無事に射程距離外まで逃げることができたのだろうか。


 逃げた商人たちを守るべく、今度は彼らが逃げた方を背にするゼロ(ぼく)(ゼロ)。左右からの追手は居なくなった。逃げた商人たちを左右から襲う盗賊はもう居ない。包囲網は完全に抜けたと思われる。残りの盗賊は商人たちが逃げた方向とは真反対の方に残すだけとなった。


 その追手も、視界に入る都度(ゼロ)がかたずけてしまった。暫くすると、追手の盗賊たちはそれ以上姿を現さなくなった。


「にゃ」


 ゼロ(ぼく)は、『代われ』の合図を送って(ゼロ)に飛びついた。ゼロ(ぼく)(ゼロ)と目を合わせて意識を集中した。視界が暗転し、直ぐに視界が開け、目の前にゼロが居るの確認した。


「ありがとう、ゼロ。本当に助かったよ。ここからは僕にやらせてくれ。」


 僕はゼロを地面に降ろし、ブラッドサッカーを鞘から抜き右手にしっかりと握った。


「装填。」


 僕は今までとは逆に、元居たキャンプの方に歩く向きを変えた。


 絶対に許さない。絶対に。


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