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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第29話 誰か私をお宅に住まわせてください2 ~ネイ~

   *   *   *


 ――ロック達が焼き出されて数時間後のことである。


「ここがロクシーが住んでる家かい? ずいぶんと広いなぁ。」


「……ええ。そうよ。」


 私たちの家が全焼してしまったので、ロックをサルファ侯爵からもらった屋敷に連れてきたのだけれど……。


 それにしても何なのかしら。まだ頭がボーっとして上手く思考が回らない。


 ここに来るまで何を話したか、話していないのかも良く覚えていない。


 ロックが無事だったことが分かったときから、ずっとこんな感じで何か変だった。


 私はずっとロックの袖の端を掴み、ここまで引っ張ってきた。例の箱はロックが両手で抱えてくれている。


「じゃあ、僕らがこの箱をロクシーに見せる感じだね。」


 ロックが冗談交じりに言っている。


 自分の家が焼け落ちてしまったのに、無理に明るく振る舞おうとしているのかしら。


 私はシィに管理を任せている屋敷の玄関に近づきノックした。暫くすると、屋内から声が聞こえてきた。


「はぁ~い。どちら様でしょうかぁ?」


 ドア越しにくぐもったシィの声が聞こえる。


「ネイよ。開けてもらえるかしら?」


「あぁ、ネイさん。ちょっと待ってねぇ~。」


 鍵の開く音がして扉が開いた。


 そこには家令をお願いしたはずなのにメイド服を着こんだシィが居た。


「あらぁ、ロック~。どうしたの?」


 シィがほんわりした声でロックに聞いた。当のロックはかなり驚いている。


「え!! なんでシィがそんな恰好しているの?

 じゃなくて、なんでここにいるのさ? ここはロクシーの家だろ!?」


 あぁ、そう言えばロックには言っていなかったかしら。ここに来る道すがら言った気もするけど気のせいか……。


「オー。私の屋敷ではありマセん。残念デスが。」


 ロクシーがシィの後ろから現れた。


 その元気な声が、私のいつもの思考を呼び覚まそうとしているかの様に頭の中で響いた。


「こんばんわ、シィ、ロクシー。ちょっと大変なことが起こったのよ。

 ……ふぅ。とりあえず座りたいわ。ダイニングルームに行かない?」


 私は皆を引き連れてダイニングルームに移動した。シィは扉の鍵を閉めて最後尾から着いて来ている。


 ダイニングルームに付くと、キャスティが本を読んでいた。キャスティがこちらに気づいて、右手を上げた。


「お~。」


 私たちは各々椅子に腰かけた。さも当たり前の様に、ゼロは広いテーブルの上に陣取った。


 皆の聞く準備ができた様なので、私は口火を切った。


「実はね、ロックの家が火事で燃えちゃったのよ。私とロックとゼロ、そしてこの箱だけは無事だったわ。残りは全部燃えちゃったの。」


「それはぁ、大変だったわねぇ。」「無事でよかったデス。」「ほぉ。」


 それぞれが今の状況を理解できた様だ。ロックだけは今の状況を理解できていない様である。


「聞きたいことがあるんだけどさ。何から聞いたらいいんだろう。」


 ロックが私に尋ねた。


「この屋敷のこと? シィのこと?」


「そんなところだね。」


「じゃあ、順に説明するわね。

 例のパーティでアルからもらった別宅がここよ。そしてこの屋敷をロクシーと商売をするための拠点にしたの。だからロクシーにはサルファに居る時にはここに住んでもらう様にしたの。

 さらにシィにはロクシーとの商売の経理をお願いしたの。ついでにこの屋敷の管理もね。だからメイド服を着ているんだと思うわ。」


「メイド服の方がぁ、かわいぃでしょ~? 似合ってるかなぁ?」


 シィは立ち上がって、スカートの裾を両手でつまみ、軽く持ち上げながら言った。


「似合ってるよ。」


 それにロックが答えた。


「キャスティは、ずっと引きこもりになると思ったから、もう無くなっちゃったロックの家よりもこっちの方が良いだろうと思って、お試し宿泊してもらってたのよ。あの家で一人で留守番させるのも心配だし、こっちならシィが居てくれるしね。」


「留守番ぐらいできる。」「なるほどね。」


 キャスティは不貞腐れていたが、ロックは現在の状況を理解できた様だった。


 あぁ、もう一つ言っていなかったことがあったわ。


「ロック以外のみんな、ちょっとこっちに来て頂戴。ロックはそのままの位置で良いわ。」


 私は皆を、テーブルの反対側に集めた。そうして、例の、ロックが命懸けで取り戻してくれた私の大切な『誰か私をお宅に住まわせてください』と書かれた箱にゼロを入れた。


「みんな、ロックによろしくって言って。せーのっ。」


「よろしく。」「よろしくぅ。」「よろしくデス。」「よろ。」「にゃ」


 ロック以外が一斉に発した。それを受けて戸惑うロック。


「何をやってるんだい?」


「ロック、言ってなかったけどこの屋敷、あんたのものだから。」


「え~!?」


 ロックが驚いているのを見ながら、ボーっとしていた頭が大分回復してきていることを認識した。


 もしこの次にこの箱を失いそうになることがあったとして、私は今日みたいに危険を冒してもらってまでロックにお願いするのだろうか?


 ……きっと、もうしないだろう。


 長いこと生きて来たけど、こんなことは初めてだった。なぜだろう? そんな自分自身の変化にも興味を覚え始めていた。


 ダイニングルームの向かいの奥には、シィが準備した『賃借料』と書かれた箱が鎮座していた。何故だかそれを見て自然と笑みがこぼれた。作り笑いではない自然な笑みが……。


「何が可笑しいんだい?」


 ロックが聞いてきた。


「ん? あんたに沢山の人が寄生してくるのを想像したら、面白そうなことが起こりそうだと思ってね。あんたは苦労するんでしょうけど。」


「なんだよ、ひどいな。」


「冗談よ。相棒。」


 ゼロがこっちを見ながら、尻尾をゆっくりと左右に振っていた。


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