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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
24/90

第24話 屋敷の改修 ~ネイ~

   *   *   *


 ――ネイがシィをアルヴィト商会に引き抜いた翌々日のことである。


「さぁて、改めて見ると、やっぱり改修は大変そうね。」


 私とシィは、どのように改修するかを打ち合わせるために、アルヴィト商会の拠点となる廃墟、いや屋敷に来ている。


 シィは既にクエスト斡旋所ハロルドワークから円満退職していた。長い年数を働いていた訳でも無く、要職にもついていなかったため退職はあっさりと受理されたのだ。


「外回りはすごいことになっているわねぇ。内部はどうなってるのかしらぁ?」


 シィと二人して門と前庭を通り抜け、屋敷の入り口近くに来た。


「あらぁ。ネイさん、あれ。」


 シィが指さした正面玄関の向かって左側に、背の低い手足がやけに細い女の子が歩いているのがちらっと見えたが、すぐに屋敷の陰に隠れてしまった。その子の衣服はかなり汚れていた。私たちはその女の子を追うために、玄関を通り越し屋敷の向かって左手に回り込んだ。


 中央棟の角を曲がると、その女の子が屋敷の右翼棟の壁に背をもたれ座っているのが見えた。中央棟の正面入り口から奥まったところに右翼棟がある。右翼棟の手前には馬車の折り返し用ロータリーがあったが、そこも雑草まみれになっていた。


 私とシィはその子に近づいた。その子の周りの雑草は倒され、近くにある小さな焚火からは薄っすらと煙が上がっていた。どうやらここで野宿をしているらしい。歳は十代前半ぐらい。長いこと切って無さそうな髪の毛を後ろで括っている。肌色が悪く目の下にはクマがあり、三白眼だ。眼力の強いその目でじっとこちらを見ている。白猫がその子の隣でくつろいでいた。


「こんにちわ。

 ここ私の家なのよ。これから綺麗にして住もうかと思ってるの。」


 私はその子に話しかけた。


「わかった。出てく。」


 それだけを言ったその女の子は、ここから移動するためにてきぱきと荷造りを始めた。その動きに気づいた白猫は、すっくと起き上がり門の方へ小走りに去って行った。そして、その子はおおきなつばの三角帽子を目深にかぶり、薙刀を杖の様に突き、大きなバックバックを抱えて此処から去ろうとした。


 こんなとき、ロックだったらどうするかしら?


 そんなことをふと考えた自分自身に、ちょっと驚いてしまった。


「ねぇ、ちょっと待って。

 あなた宿が無いんでしょ? 一人で野宿ってのも危険だわ。もし良かったら暫く私の家に来ない? まぁ、私も居候の身なんだけど、なんとかなると思うわ。」


 無表情のままでこっちを見ているシィ。その表情は非難でも同意でも無く、私とその子のやり取りをただ観察しているだけの様だった。目が合うと、シィはそっと瞬きをして視線を外し屋敷の方を見た。


「いいの?」


 女の子の方が、帽子の鍔の下から見上げて聞いてきた。私はその子と同じ視点の高さになる様に中腰になる。


「えぇ。何とかするわ。私はネイ。あなたは?」


「キャスティ。」


「キャスティ、あなたは幾つなの? 十歳くらい?」


「覚えてない。」


「覚えてないんだ。奇遇ね、私もよ。」


 それを聞いたキャスティは不器用に笑顔を見せる。


「くふふ。」


「しばらくここで待っててもらえるかしら。ここを改修するんだけど、その打ち合わせを済ませたいのよ。」


「うん。」


 キャスティは荷物を下ろし、その場にまた腰を下ろした。


 厳しい生活をしてきた子にしては少し素直過ぎる様な気がするが……。


「ネイさん、とりあえずぅ中に入ってみましょう。」


 シィが促したので私は思考を中断し、二人して屋敷の中の様子を見に玄関に戻った。


 玄関扉を抜けるとそこは大きめのメインホールだった。建物を外から見たら鎧戸が外れている窓がいくつもあったのだが、内部は雨風にさらされた様子はなかった。ホールは二階まで吹き抜けになっており豪華なシャンデリアが吊られていた。奥の正面には階段があり踊り場から左右に分かれて二階に上がっている。その階段につながるホール両側の二階には手すり付きの廊下がありホールを見下ろせる様になっていた。床には板が張っていたが、腐って空いた穴や反りがある様子もない。


 ただしそこは、積もりに積もった塵とクモの巣がたっぷり張り巡らされ、灰色の世界が広がっていた。


 私とシィは、メインホールに幾つかある扉の一つ、左奥の扉をくぐった。そこは壁に本棚が設けられている書斎だった。この屋敷を引き払うときに施されたのか、テーブルや椅子などの調度品には布が被せられていた。


「調度品はまだ使えるのかしらねぇ? 床はほこりを払ってからぁ、磨き上げた後にワックスがけかしらぁ。」


 袖で鼻と口を押えているシィ。その頭の中では修復の手順が構築されているのだろう、とても楽しそうだ。


「台所はどこかしらぁ? ちょっと見てくるわぁ。」


 シィは家の中の探索を始めた。時間が経つとともに、シィのちょっと内股の足跡が家の中に増えていった。室内に舞うホコリの量も増えていった。


   *   *   *


「さすがぁ貴族が使う屋敷だわぁ。いったい何人で住むつもりぃ?」


 屋敷探検から戻ってきたシィが私に聞いてきた。確かにこの屋敷は広い。二階には客室が十近く並んでいるし、メイドや従僕の控室もある。


「あなたにはここに住み込んで欲しいのだけれど、大丈夫?」


「えぇ。もちろんよぉ。家妖精の役割は、私だものぉ。」


 家妖精と来ましたか。


「それでは、その家妖精さんにお願いするわ。

 外回りは手入れが大変そうだから後回しにしても結構よ。まずは一階の右翼棟の主寝室周辺の数部屋から住める様にして頂戴ね。あぁ、必要だったら使用人を雇っても良いわよ、お任せするわ。住めるようになり次第、ロクシーにはこっちに移動してもらおうと思ってるの。今の家はかなり手狭だしね。当面はシィとロクシーとで暮らして頂戴。」


 そんなことをシィにお願いしながら、私達は玄関に向かった。


「それと、鍵は預けておくわ。あと、資金はこれ。」


 シィに家の鍵と五百金貨(ゴールド)の換金証書を渡した。


「ネイさん? 商会の帳簿はぁ、まだぁ付け始めてないんでしょう?」


 眼鏡の位置を指で直すシィ。


「えぇ。商会の帳簿管理はお任せするわ。

 ロクシーがアイーアで仕入れた金額とここサルファの販売額の差額を粗利として、その粗利の二割が商会の取り分で、残りの八割はロクシーの取り分よ。商会の取り分は、サルファでの卸商売の権利の利用料という名目よ。

 あぁ、そうそう、サルファでの販売額の二パーセントを権利代としてサルファ侯爵に上納しなくてはならないの。卸の権利確保は商会の役割だから上納金は商会から払うの。だから粗利が十パーセントを下回ると商会は赤字よ。まぁ、ロクシーは粗利が十パーセント以下になることなんてしないはずだから大丈夫だと思うけど、よく相談しておいてね。

 あと、この屋敷の管理諸経費などの必要経費は商会の資金から適宜使って頂戴ね。その辺を上手くやりくりして、私が使う試験研究費の捻出をしてくれれば良いわ。頼りにしているわよ。」


「えぇ、もちろん。」


 普通の人だったら理解しにくい内容なのに、シィはたやすく理解している様だ。流石は金の亡者、おっと経理屋。


「あと、ここの屋敷の名義人に賃借料を払って頂戴。毎月十銀貨(シルバー)という破格の安値で良いわ、どうせこの屋敷は貰いものだし。」


「でもぉ、名義人はネイさんなんでしょう?」


「いいえ、ロックよ。

 この屋敷は、貴族の私名義じゃなく一般人のロック名義にしたの。その方が面白いでしょ? 屋敷のどこかに賃借料って箱を作って、毎月賃借料を放り込んでおいたらいいわ。じゃあ、あとはよろしくお願いね。」


 シィを残して玄関から外に出た私は、キャスティが待っているところに行った。


「お待たせ、キャスティ。じゃぁ、帰りましょうか。」


「おなかすいた。」


 口を尖らせて訴えるキャスティ。


「はいはい、何か食べながら帰りましょう。」


 キャスティの頭を、ポンポンと手のひらで優しく叩きながら私は言った。


キャスティ:「あれ。」

ネイ:「あら、川魚の塩焼きが良いの? 美味しいわよねあれ。育ち盛りのキャスティには相応しい食べ物だと思うわよ。」

キャスティ:「んー。」

ネイ:「あらあら、冷やした瓜が食べたいの? 水分補給も必要よね。川魚を食べている間、持っててあげるわよ。とりあえず二切れでいいかしら?」

キャスティ:「こっち。」

ネイ:「ゆでた豆ね。あの種類の豆はサヤも食べられるらしいわよ。ゆでると甘みが増すらしいわ。塩が効いていると最高よね。って、あなたあまり喋らないのね。」

キャスティ:「ネイ、良く喋る。」

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