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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第22話 小型妖鬼討伐戦

   *   *   *


 ――ネイとロックがサルファ侯爵の屋敷に行った数日後のことである。


「今日のクエストは討伐よ。ターゲットは小型妖鬼リトルクラウン。人型の妖魔ね。街道からちょっと外れたポイントにリポップする予定よ。」


 いつもの様にフォトラが作戦を説明し始めた。ジェイス、コポル、ルビィ、フォトラ、そして僕とゼロのジェイズ団一行は現場に向かって街道を歩いている。幾度ものクエストを経て、ゼロはジェイス団に完全に溶け込んでいた。


 あと二時間ほどで現場に到着する予定だ。


「今回のフォーメーションは、ルビィだけを前衛にするわ。ロックはルビィの直掩をして、ルビィが抑えている敵を刈り取って頂戴。フォーメーションの中心は私、そして左翼中衛がコポル、右翼中衛がジェイスね。最初に発見した敵の方向をフォーメーションの前衛正面とするわ。」


 今回、僕は前衛側にシフトしてるんだな。


「妖獣と違ってこの小柄な人型の妖魔は色々な武器を持っているし、妖獣みたいに突進してくるだけではないの。全方位から敵を取り囲む様に向かってくる可能性もあるから、今回はこの半円陣のフォーメーションにするのよ。前衛のルビィと直掩のロックの二人は相手をする数が多いけど、両翼から支援を受けられるから前面に集中できるわ。だから、あまり突出しないでね。右翼か左翼に敵が集中した場合は、前衛の敵の数次第だけど、ロックが移動して援護する対象を切り替えて頂戴。ロックが手に負えない場合は、私も接近戦で援護するわ。」


 なるほど。


「つまり僕は、ルビィの周りで積極攻撃をして、周りの状況によっては左翼や右翼に回り込んで攻撃すれば良いんだね。」


 結構周りに注意を払う必要があるってことか……。少し大変そうだ。


「ええ、そうよロック。前衛に居ながら周囲の状況を見るってのはちょっと難易度が高いかも知れないけどお願いね。今回は軽快に動けるロックを、後方援護要員から前衛遊撃要員にするのを試してみたいのよ。ロックは危険がせまったら、前衛と両翼の三人の内側、つまり私の方に退避してね。」


「分かった。やってみるよ。」


「お前をこき使ってみるフォーメーションだとさ。」


 ジェイスが僕を見、フォトラを親指で指さしながら言った。フォトラは苦笑いを浮かべている。


「あと、そうならなければ良いんだけど、私たち全員がまるまる敵に囲まれそうになったら敵を前衛正面に集める為に少しずつ後退するわよ。そして後退するときは、街道のある方向に向かうわ。フォーメーションの背面が街道になる様に気を付けてね。」


「後退するときは、街道と俺の間にフォトラが来るようにすればいいんだな?」


 ルビィが言った。


「よくできました、ルビィ。半円陣の真後ろ側が街道への最短路になる様に両翼の二人も意識してね。乱戦になって、目が届かないところから攻撃されたら困るでしょ?」


「おう。」「ああ。」


 ジェイスとコポルが頷く。


「治癒の魔法羊皮紙は一人二枚ずつ。私は三枚持っておくわ。

 以上よ。ジェイス、付け加えることはある?」


 あいかわらずジェイス団はフォトラが作戦指揮を執っている。ジェイスはそのことは全く気にしていない。むしろジェイスはそれをフォトラに委譲しているのだ。そういうタイプの団長も居るということだ。


「完璧だ!

 ロック、なんか質問ないか?」


「フォトラ、群れの規模はどの位なんだ?」


 僕はフォトラに聞いた。ジェイスに聞くような事はしていない。それは野暮と言うものだ、多分。


「普通なら二十匹程度なんだけど、それを当てにしていると痛い目に合うから、それより多い可能性が高いと思っておいて。」


「了解。」


   *   *   *


 街道から外れて目的地点に向かって歩いているジェイス団の一行。そろそろ目的地点に着く頃合いだ。ジェイス団の皆は既に抜刀済みで、矢も(つが)えている。


 前方に小高い丘があり先が見えなくなっている。僕はここで能力を試してみることにした。


「皆、ちょっと止まって。

 丘の向こうをゼロに偵察をさせてみたいんだ。隙だらけになる僕を中心に防御体勢を作ってもらってもいいかな?」


「能力を使うの? それはありがたいわね。」


 フォトラが言った。


「能力の習熟も兼ねてね。」


 僕はゼロを抱え、ゼロの耳元でこっそり伝えた。


「丘の上から向こう側を見てきてくれるかな。見つからない様に気を付けて。結果を報告するときに代わるよ。」


「にゃ」


 僕はしゃがみ込み、あたかも能力を使っている様にゼロを見守った。


 ゼロは丘の頂上の途中まで駆けていき、途中から低い態勢でゆっくりと進んでいった。


「やるじゃねぇか。」


 ゼロのその様子を見て、感心したジェイスがつぶやいた。


 ゼロは丘の上から身を潜め索敵した後、一行のところに帰ってきた。ゼロが『交代せよ』の合図を僕に送ってきたので、ゼロを抱え上げて目を合わせて意識を集中しゼロと意識を交換した。


「丘の頂上より向こう側五十メートル先に敵影十三。さらに八十メートルほどに森が有るため敵影確認できず。

 以上。」


 ロック(ゼロ)が言った。いつもの僕とは口調が違っていたが、ジェイス団の一行はそのことに気づいていない様だった。作戦中なので、シンプルで理解しやすく報告しているのだと解釈しているのだろう。ロック(ゼロ)が、ゼロ《僕》の耳元で『代わろう』と言ったので二人は再度交代した。


「丘の上を陣取れば背後を取られる心配はなさそうね。さっき言ったフォーメーションの両翼も少し上げて良さそうだわ。どう? ジェイス。」


「そうだな。両翼を上げよう。良し、慎重に進め!」


 ジェイス団一行は身をかがめながら丘の頂上を目指した。


 丘の上から見ると確かに妖魔が十三匹居た。何をするでもなくうろうろしている。そいつらは人間の様に手に武器を持って歩いていた。深い緑色の身体、短い脚に長い腕、奇妙に盛り上がった背中。そして恐ろしく裂けた口の上には鼻らしきものはなく、やけに小さい双眸がどす黒い赤色に光っていた。


 フォトラがすっと立ち上がり矢を放った。緩い弧を描きながら、その矢は一番手前の妖魔の身体に吸い込まれる様に突き刺さった。


 当然、妖魔たちが敵襲に気づいた。周囲を見渡した後、ジェイス団一行の方に目標を定めてわらわらと駆け寄ってくる。ルビィを中心に、コポル、ジェイスが互いの距離を少し広げながら前進していく。僕はルビィのやや左後ろに追従した。


 戦闘開始だ。


「射撃」


 前衛が妖魔と接触する前に、フォトラの第二射がルビィをあっという間に追い越し妖魔に迫った。その矢は妖魔の腹をかすめただけだった。


 コポルの方に三匹、いや、コポルが放った石弓の矢が一匹の目を貫いて仕留めたので二匹。ジェイスの方に三匹。残り六匹の妖魔がルビィに向かってきた。森からは、妖魔がさらに出てきている。


 接近戦に入った。


 ルビィの盾に妖魔が繰り出した槍が阻まれる。ルビイが振り下ろす剣が一匹の妖魔を切り裂いた。


 ルビィの前に五匹の妖魔が居る。僕はルビィの左からルビィの前方に出て、右手に持った剣を振り下ろし、左側近くにいた妖魔を切り裂く。その直後に、ルビィの盾に剣を立てている妖魔の腹を左脚で後ろ蹴りしてルビィから引きはがした。


 後ろ蹴りの体勢を立て直そうとしている僕に寄ってきた別の妖魔を、攻撃されるより早く剣で切り裂いた。ふとルビィと目が合った。「ガンガン行こうぜ」と言いたげな笑みを浮かべている。


「射撃!!」


 フォトラの第三射が森からの新たな妖魔に飛んでいく。コポルは二匹を相手にしていた。ルビィは三匹。ジェイスはルビィの向こうで二匹を相手にしている。森からの新たな妖魔はフォトラの矢で一匹減ったが約十匹。半分は突出した僕に向かってきており、残りはルビィとコポルを狙った。


 よし、周りもちゃんと把握できている。


 僕は空いている左手でもう一振りの細身の剣を抜刀した。


 やるぞ!


 僕から見て左正面の妖魔が剣を振り下してくる。それを左側に回り込みつつ左手の剣で受け止め、右手の剣をそいつに叩き込む。と同時に来る正面の敵。武器を持っているそいつの手を、右脚で蹴り押しバランスを崩させた。そこを右手の剣で切り裂く。さらにその切り裂かれた妖魔の後ろから、飛びかかってきた妖魔が一匹。大上段で振りかぶってきた妖魔の剣を、下から右手の剣で右方向に捌き、そいつの空いた左胴体に左手の剣を刺し込んだ。


 ルビィに対峙しこっちに背を向けている妖魔を蹴り飛ばす。その反動を利用して僕に迫ってくる二匹の間をすり抜ける。すり抜ける際に左側の敵の攻撃を左手の剣で受け流し、攻撃のタイミングが遅れた右側の敵を右手の剣で切り裂いた。勢いに乗せて正面に居る別の妖魔を左手の剣で突き、右回転で振り向きながら攻撃を受け流した妖魔を背後から切り裂いた。


「射撃!!」


 フォトラの矢はルビィ側にもコポル側にも飛んでない。ジェイス側に飛んで行った。


「どりゃぁ!!」「っし!」


 仲間の気合の入った声が響く。


 現在、ルビィに三匹、コポルに五匹、ジェイスに三匹。森から新手が数匹。コポルが敵に押されていた。


「フォトラ、森からの新手を頼む!!」


 僕はコポルに向かって走りつつ、フォトラに言った。


「了解!」


 コポルが一匹を切り裂いたと同時に、その裏から別の妖魔がコポルに攻撃した。その妖魔の攻撃がコポルの膝裏に入った。


「がっっ!!」


 コポルが痛みに顔を歪める。さらに執拗にコポルに攻撃を加える四匹の妖魔。なんとか倒れずに済んでいるコポルが、そいつらの攻撃を剣でなんとか受け止めていた。


 駆け付けた僕は、背を向けている一匹を蹴飛ばし攻撃を中断させ、コポルと別の二匹の妖魔の間に割り込んだ。


 目標を僕に変え攻撃してくる妖魔二匹。左の妖魔の攻撃を左の剣で受け止め、右の妖魔の攻撃を右手の剣で逸らせた。直後、左の妖魔を右手の剣で切り裂き、右の妖魔を蹴り飛ばした。


 コポルにも攻撃を仕掛けている二匹。コポルが剣で攻撃を受け止め続けている妖魔は隙だらけだったので、脇腹を左手の剣で貫いた。だが、もう一匹の妖魔がコポルの背後から飛びかかり剣を突き立てようとした。


 まずい! 届かない!!


 僕は右手の剣を手放し、落ちるに任せた。そして空いた右手でブラッドサッカーを構える。


「射撃!」「装填!放て!!」


 僕の発した声と、フォトラの射撃発声が重なった。


 妖魔に向けた右腕のブラッドサッカーから衝撃が返ってきた。それと同時に、標的となった妖魔が吹き飛んだ。


 フォトラの矢はこっちには飛んで来なかった。フォトラは僕の指示に従って、森からの新手を射ていた。


 僕はすぐにブラッドサッカーを納刀し、地面に落ちている剣を拾った。そして、コポルを取り囲んだ残り一匹に駆け寄り、こっちに仕掛けられた攻撃を左手の剣で捌いて右手の剣でそいつを切り裂いた。


 コポルの周りの妖魔はすべて倒していた。現在、ルビィに二匹。ジェイスに一匹。森から出て来た新手の三匹が僕とコポルの方に向かってくる。


「コポルは治療を!」


 僕はコポルに言った。


「すまん。」


 僕はコポルと新手三匹の間に入った。ほぼ横一列で同時に迫ってくる三匹。


 先ずは真ん中!


 狙いのそいつは攻撃を仕掛けてきたが、それよりも速く僕はそいつに踏み込んだ。その妖魔の攻撃を右手の剣で受けつつ懐に飛び込み、左手の剣でそいつの胸を貫いた。左右の妖魔はコポルには向かわず、こっちに攻撃を仕掛けてきた。


「射撃!!」


 右の妖魔の左腕にフォトラの矢が刺さって動きが止まった。左の妖魔の攻撃を右に躱しそいつの左側面から右手の剣で切りかかる。剣はそいつの長い左腕を分断し胴を切り裂いた。そこに遅れて右のヤツが攻撃してきたが、難なく左手の剣で受け止めた。右手の剣でそいつの腹を横に薙いだ。


 僕はコポルの周りを見渡し、妖魔をすべて片付けたことを確認した。


「っし!」


 それとほぼ同時にルビィが対峙する最後の一匹の妖魔を屠った。手が空いていたジェイスはルビィに駆け寄ろうとしていたが止めていた。


 森の方からは新たな妖魔は来ていない。フォトラが周りを索敵している。


 コポルは治療の魔法羊皮紙を脚の傷に当てていた。


「周辺に妖魔の姿無し!」


 確認を終えたフォトラが言った。


 よし、終わったな。


 皆がコポルの様子がおかしいことに気づき、コポルのところに集まった。周囲では倒した妖魔の霧散が始まっていた。ブラッドサッカーでバラバラになった妖魔もだ。


「おい、大丈夫か?」


 ジェイスがコポルに問うた。


「あぁ。奴ら、思ったよりすばしっこいな。」


 それに答えるコポル。


「その剣、おめぇには重てぇんじゃないか?」


 コポルの様子に少し安心した様子のジェイスがからかった。


「ふん。ほっとけ。」


 恥ずかしさを隠すように言うコポル。


「さて、魔核(コア)を集めましょうか。コポルはここで治療をしながら待ってて良いわよ、その重い剣と一緒に居てね。」


 フォトラも少し安堵した様子で言った。


「ふん。」


 鼻息の荒いコポル。


「なぁフォトラ。俺の盾も重いから休んでいいか?」


 その重いはずの盾を大きく上下に動かしながら、相変わらずの軽い口調でフォトラに訴えるルビィ。


「ルビィはコポルの分も動きなさい!」


「りょーかーい。」


 コポルを除いてジェイス団一行は魔核(コア)の回収を始めた。


 こうして、負傷者が出たものの小型妖鬼討伐クエストは達成しようとしていた。ブラッドサッカーの特殊攻撃はゼロを除いて誰も見てなかった様だった。僕の剣の動きも、かなり良くなってきたのではないだろうか。ゼロと朝練相手のルビィに感謝しなくちゃな。


「お前ら~!! 街に帰り着くまでがクエストだからな~。まだ気を抜くなよぉ~。」


 魔核(コア)を集めながらジェイスが叫んでいた。


ルビィ:「なぁロック。フォトラは胸が重いハズなのに、よく動くよな?」

ロック:「そんな頭が軽そうなこと言ってんだったら、さっさと動けよ。」

ルビィ:「ははは、そうだな。お? 魔核(コア)発見!」

ロック:「……。」


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