第16話 初の討伐クエスト2
* * *
ジェイス団一行はサルファの門を出て、空の荷車を押してゆっくり進んでいる親子連れを追い越しながら街道を歩いていた。ジェイスとコポルを先頭に、ルビィ、フォトラそして僕とゼロが続く。
「なんだぁ? その猫は?」
ジェイズ団一行に付いてくるゼロに気づいたジェイスが言った。
「僕の猫だ。僕の能力にちょっと必要なんだ。」
「あぁ!? お前、能力者なのか!?」「まじかよ!」「へ~。」
皆からの驚きの声が上がる。
「でも、戦闘系の能力じゃないんだ。今回は役に立たないかも知れない。」
「良いから説明しろよ。」
ジェイスが促したので、僕は説明した。
「僕の能力は、簡単に言うと猫の聴力や視力で周りを観察できることなんだ。周囲の警戒などには使えると思うけど、集中が必要なんで歩きながらってのはできない。野営とかにちょっと使えるぐらいかな。そして、この黒猫の名前はゼロ。今日は、クエストに慣れさせておきたいんで連れてきたんだ。」
少し嘘を言ったけど、まぁいいだろう。
「ちぇっ、なんだよ。攻撃系の能力だったら俺らの戦力が強化できたのにな!」
ジェイスは本当にがっかりした様子で言った。
「能力が無いより良いわよ、ジェイス。野営の時の安全確保は助かるわ。それに私以外に斥候ができる人と相談できると言うのことが嬉しいわ。脳筋ばっかりだと大変なのよ。」
ジェイス団のスカウト役のフォトラが、僕にウィンクしながら言った。
「おうフォトラ、脳筋の俺の代わりに、そろそろ今回のクエストの内容を説明してやってくれ。」
脳筋と言われたことを気にもしていないジェイスは、戦闘系じゃない能力用の猫には興味が無くなったのか、話題を本来しておくべき話に変えてきた。
「わかったわ。
今回のクエストは妖魔、正確には小型妖獣ブラックドッグの討伐よ。小さな農家集落の外れに現れる様になったんですって。新たに見つかったポップポイントね。集落の二人連れが最初に遭遇したらしいんだけど、一人だけなんとか逃げおおせたらしいわ。ブラックドッグの特性は知ってのとおり、発見した敵に対して全妖獣がまっしぐらに攻撃しに行くわ。個体間の連携はない。群れが全滅するまでその攻撃は止まないし、逃げもしない。群れの規模は十匹前後が通例よ。あくまでも通例だから予断しないでね。
治癒の魔法羊皮紙は前回のクエストから補充してないわ。だから現在、治癒の魔法羊皮紙は八枚あるの。前衛のジェイス、コポル、ルビィに一枚ずつ預けるわね。ロックに二枚。私は三枚持っておくわ。クエストが終わったらまた回収するからね。」
そういってフォトラは治癒の魔法羊皮紙を皆に配った。
「それから、今回のフォーメーションの確認をするわね。前衛左翼からルビィ、コポル、ジェイスね。私はいつも通り後衛で射手をするわ。あ、ロックは知らないだろうから言っておくけど、私が射る時、矢が前衛の傍を通るようなときには『射撃』って言うの。その時には前衛は大きな動きをしないという約束なの。当てる気は無いけど万が一当たっちゃったら困るでしょ。あと、ロックは中衛から後衛で、前衛が討ち漏らした妖魔を処理してね。要は私の護衛ね。今回は対妖獣なので、前方からしか襲撃されないと見立ててるから、殿は不要とするつもりよ。万が一後ろに回り込まれた場合はロックが対処してね。まぁ、そんなときは私も接近戦をするのだけれど。」
フォトラはてきぱきと説明をしていった。
「妖魔がこちらを発見するのが早いか、こちらが妖魔を発見するのが早いか分からないので、索敵中はさっき言ったフォーメーションで前進するわ。理想はこっちが早く発見して高台におびき寄せることなのだけれどもね。
……以上よ。ジェイス、付け加えることはある?」
「完璧だ! ロック、なんか質問ないか?」
ジェイスは団長らしく言った。
しかし説明を聞いてると、フォトラが団長の様に感じられた。もしかしたら作戦も全部フォトラが考えてるんゃないだろうか?
いや、これは聞かない方が良いだろう。
「治癒の魔法羊皮紙は、勝手に使って良いのかい?」
僕は代わりの質問をした。
「えぇ。基本的に戦闘が終わったときに、自分で使って頂戴。」
やはりジェイスではなくフォトラが答えた。
「それから、戦闘中に自分で手当てが必要だと判断した場合、そのときも自分で使って頂戴。戦闘中に治療をしなければならないケースは、結構大怪我だと思うけど、治療中の防御も自分できちんとしてね。さらに戦闘中に仲間が自分で治癒の魔法羊皮紙を使えない程の重傷を負った場合は、周りの人が使ってあげて。ただし、治療する側の身が危険になる様なら、無理に治療する必要は無いわ。危険を承知の上での冒険者稼業なんだから、自分の身は自分で守ることを最優先にすること。これがジェイス団のルールよ。」
「わかった。ありがとう、フォトラ。」
やっぱりフォトラが団長の様に感じてしまった。
そんな僕の考えを知らないであろうジェイスは、一行の先頭でふんぞり返っていた。
* * *
ジェイス団一行は、ようやく目的の集落に着いた。街道からずいぶんと離れた集落だった。見える範囲の風景は、わずかに起伏する大地を覆う畑と、まばらにある小さな森だった。
フォトラが先行して依頼人の住んでいる場所を住人に聞きに行った。残りの男団員の四人は固まって後から歩いている。
そして僕の横を歩いているルビィが言った。
「初対面ならフォトラの方が印象がいいだろ? だから先に行って話をしてるのさ。
それとなロック、フォトラは番えた矢の邪魔にならない様に鎧で胸を抑えてるけど、スタイル良いんだぜ。」
ルビィが軽口を織り交ぜながら、フォトラが先に行った理由を僕に説明してくれた。ルビィはいつも女性の胸や尻や見た目の話をする。
いつか痛い目に合うぞルビィ。
「ルビィも初対面の印象はいいだろ?」
僕はルビィに言った。話す相手が女性だったらなおさらだった。僕の知る限り、ルビィは昔からその愛想の良さとルックスで周りからの印象は良かった。ロクシーはただ一人の例外だったが。
「そうか?」
しかしルビィはそれを自覚していない様だ。
「そう言えばルビィ、いつも作戦はフォトラが考えてるのか?」
「そうだぞ?」
「団長のジェイスじゃ無いんだな。」
「あぁ、出来るヤツがするってのがジェイスのやり方さ。そっちの方が良いだろ? ジェイスの考える作戦とフォトラの考える作戦、お前ならどっちに乗る? まぁ、考えるまでも無いんだけどな。ジェイスもフォトラを信頼してるから任せてるんだろ。」
「なるほどね。」
ふむ。そんな考え方もあるのか……。
そんな話をしている間に、遠くに見えるフォトラは、依頼人の住んでいる場所を聞き出し終わっている様だった。フォトラは他の団員にその方向を指さし、先に歩いて行った。
フォトラが依頼人のと思わしき家の前で住人を呼び出し、出てきた住人と話しをしていた。そこに遅れること数分、ジェイス団の残りの団員が合流した。
「これはこれは、遠路はるばるご苦労様です。今回、依頼させていただいたバックスと申します。」
この集落の代表者を名乗ったバックスは、浅黒く日焼けしておりしっかりとした老人だった。
「ジェイス団団長のジェイスだ。よろしく。」
ジェイスはポーチから取り出したハロルドワーク発行の許可証をバックスに見せた。
「ふむふむ、確かに。私が出した依頼で間違いありません。」
バックスはそれを確認しながらそう言った。
「で、どっちの方角だ? 距離は?」
ジェイスは妖魔が現れるという場所を聞いた。
「あちらの方角です。ここから歩いて三十分くらいの距離です。暫く開けた土地が続きますが、ぽつんと二本の木が立っているのが見えてくるはずです。その二本の木からやや右側の方に向かって少し行ったあたりで、……一人殺されてます。」
バックスの最後の言葉は、何ともやり切れない様な感情がこもっていた。
「亡くなられた方の埋葬はそちらにお任せします。我々が妖魔を退治して一帯が安全になりましたら、弔って差し上げて下さい。」
フォトラが丁寧な言葉で応対した。被害者が出た集落への気遣いだろう。
「よし、みんな行くぞ。日が暮れる前に片付けるぞ!」
ジェイスが団員全員に、再移動の合図をした。
ロック:「脳筋って?」
フォトラ:「ほら! あなた達、横に並んで歩いてたら通行人のじゃまでしょ。縦になりなさいな。」
ジェイス&コポル&ルビィ:「「「おう!」」」
フォトラ:「ああやって、多段肩車しようとするところよ!」




