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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第15話 初の討伐クエスト1

   *   *   *


 僕は集合時間よりかなり早く、クエスト斡旋所ハロルドワークのロビーに居た。ネイが勧めてくれた通り、ゼロも一緒だ。


 ハロルドワークのロビーの奥にはクエストを発注したり受理したりする受付カウンターが並んでいる。カウンター前の広いロビーには、周りを囲む様にいくつものテーブルが並んでいた。


 僕は入り口近くのテーブルで他の団員の到着を待っていた。ここはジェイス団がいつも使っているテーブルなのだ。もちろんゼロはそのテーブルの上に陣取っている。あたりを見渡してみると、冒険者風の人の姿はほとんどなかった。今はハロルドワーク職員が多くが出勤し始めている様な早い時間だからな。


「あれぇ? ロックぅ?」


 ほんわりとした口調の女性の声がした。振り向くとそこには、幼馴染みのシィが居た。


 身長はネイよりやや低い。地味な服を着、髪を大雑把に二つに三つ編みし、大きめの眼鏡をかけ、ややあか抜けない感じの雰囲気を漂わせている。


 母親が居なかった僕は、父さんが仕事に出かけている時にはよくシィの家に預けられていた。ルビィもシィの家に預けられている事が多く、よく三人で遊んだものだった。僕が今の家に引っ越してからシィとは疎遠になっていた。


「おはよう。シィ。久しぶり。」


 シィはハロルドワークの会計職として働いているので表に出てくることはまずない。雑用クエストを受ける為にハロルドワークには良く来ていたが、シィに会うことはなかった。今の時間がちょうどシィの出勤時間だったのだろう。


「早いのねぇ。

 集合時間は八時だったのでしょう? 昨日ルビィがそう言ってたわよぉ。もしかしたらぁ、早く起きて三銅貨(カッパー)でも見つけようとしてたりしてぇ? うふふふ。『早起きは三銅貨(カッパー)の得』って言うものねぇ。」


 シィは油断するとずり下がる眼鏡を元に戻しながら言った。


「相変わらずだなぁ、シィは。」


 シィは昔から算術が得意だった。そして金銭面での損得勘定で動く子だった。


「あらぁ、お金は大事よぉ。何をするにもぉ、お金は必要なのよぉ。

 お金ってねぇ、国の血液だと思うのぉ。この国を見てみたら分かるでしょう? たぁくさんの血液が廻って生き生きとしてるわぁ。」


 目を輝かせてお金を語るシィ。


 そんなシィを見てると、シィに引き連れられてルビィと一緒に小銭探しをしたのを思い出す。『大地に置き去りにされちゃってる可愛そうな小銭さん達を助け出さないなんてぇ、商売神様がお許しになっても、私が許さないんだからぁ。』と言われたのだ。救出活動の結果は、ルビィがガラス玉を一つ見つけただけだった。


 そのガラス玉がペンダントとなってシィの胸で薄っすらと輝いている。


 物持ちが良いと言うか、貧乏くさいというか……。


「あらぁ、もしかしてぇ、その黒猫ちゃんはロックの連れかしらぁ?」


 テーブルの上のゼロに気づいたシィ。見慣れぬ猫が居て、近くに僕以外の人影が無かったから尋ねたのだろう。


「うん。ゼロって言う名前さ。」


「猫ちゃんにはお金の話は分からないわよね~。『猫に金貨(ゴールド)』って言うものね~。うふふふ。」


「お~っす。ロック、シィ。」


 もう一人の犠牲者仲間が現れた。ルビィだ。


 ルビィは僕の家に来るときのいつもの軽装と違って、ばっちり身を固めていた。腰に剣を帯びるだけではなく、左腕には盾を装備している。鎧も冒険者らしく、動きを重視しつつ要所を金属で補強した頑丈なものだ。髪の毛の色に合わせて、全体的に赤っぽい色で統一している。


「「おはよう。ルビィ。」」


 応える、僕とシィ。


「どうしたんだシィ。表に出てくるなんて珍しいな。」


 ルビィがシィに聞いた。


「ロックがぁ、冒険者になったって聞いたでしょぅ。だからぁ、初陣をお見送りしようと思ったのよぉ。」


「へ~。そっか。

 あれ? 俺の初陣の時は来てくれたっけ?」


「その日の前夜にぃルビィの家に直接行ったでしょぉ。覚えてないのぉ?」


「あぁ、そうだった。安全のおまじないって言って抱き着いてくれたよな。覚えてるぜ。」


 そのルビィの発言を聞いて、顔を真っ赤にして俯くシィ。


「おいルビィ、それはここで大声で吹聴して良い話じゃない気がするぞ?」


 僕はこっそりルビィに言った。


「そうなのか?」


 まったく、こいつは……。


「そ、それじゃぁ、私はここで油を売ってても一銅貨(カッパー)にもならないから、もう行くわねぇ。」


 一刻も早くこの場から退散したいのだろう、早々と立ち去るシィ。数歩進んだあと、振り向いて手を振った。


「ルビィもロックもぉ、気を付けて行ってらっしゃ~い。」


 そしてカウンターの奥の方へ消えていった。


「あいつ、胸でかくなったよな~。」


 思ったことを直ぐに口に出すルビィ。


 まったく、朝から何言ってんだよ。……確かに否定が出来ないぐらいに成長しているが。しかし、こんなルビィ相手だとシィも苦労するんだろうな。


 僕はルビィをまじまじと見て返事はしなかった。


 すると突然、僕の背中に衝撃が走った。僕は二三歩前に押し出されてしまった。


「痛って~。」


 振り返るとそこには、巨躯のジェイスが居た。きっと、加減を知らない馬鹿力で僕とルビィの背中を叩いたのだろう。


「おい! 早ぇじゃね~か。お前ぇら。」


 ジェイスは大剣を背に担ぎ、ルビィの鎧より金属補強部分が多い鎧を身にまとい、仁王立ちでふんぞり返っている。彼は昔っからその体格を活かして暴れていた。いわゆるガキ大将だ。ルビィによると、最近は冒険者としてまっとうになっているらしい。


 そんなジェイスは周りを見渡していた。


「コポルとフォトラはまだみてぇだな。お前らここで待っとけ。俺は許可証をもらってくる。」


 ジェイスはカウンターの方に歩いて行った。


「許可証って?」


 僕はルビィに尋ねた。


「あぁ、雑用クエストと違って、冒険者っていう物騒な一団が行動するだろ? ジェイスみたいなヤツらが徒党を組んでうろちょろしてると、普通の人だったら警備隊に捕まえてほしくなるよな? だから『国及び斡旋所の名において、この者らのクエスト実行を許可してます』って証明書が必要なのさ。クエスト完了の確認にも使うんだぜ。それは実際に見れば分かる。証明書には商売神教会の魔法が掛けられているんだとさ。」


 得意げに語るルビィ。


 商売神教会は銀行も営んでおり、人間が作った街であればその教会が必ずあると言っても良い。そして人間は、大陸の大部分にその勢力を展開してるのだ。各種信用証書などを提供している商売神教会であればその書類が本物であることを保障するというのも頷ける。


「なるほどな。」


「それよりロック。その黒猫、連れていくのか?」


 ルビィはゼロを指してロックに聞いた。


「ああ、後で説明するよ。」


 そんな話をしていると、団員の残りの二人がやってきた。


「おっす。」「おまたせ。」


 一人はコポル。ジェイスの従弟で僕とルビィの二つ年上。長めの剣を背に担いでいる。ジェイスの大剣に比べると細身だ。さらに石弓を背負っていた。盾は持っていないが装着した鎧はルビィと似た感じのやや重装備だ。


 もう一人はフォトラ。ジェイス達の幼馴染みではないがジェイス団に入団している。弓を手に持ち、矢筒を背負っている。そして短めの剣も腰に帯びている。彼女の防具は僕と同様の革鎧だった。


 ジェイス団の団員は全員で五人。ジェイス、コポル、ルビィ、フォトラ、そして新参者の僕だ。


「お~い、お前ら! こっちだ、こっち!」


 ジェイスは手に持った許可証をヒラヒラさせながら、僕達が集まっている方に歩み寄ってきた。そして良く通る大声でさらに続けた。


「ジェイス団、出発するぜ!」


「「おう!」」


 ルビィをコポルが気合を入れつつ、それに応じた。


 僕もこっそり気合を入れた。


「さて、行くわよ。」


 フォトラが僕の背をそっと叩いた。


幼いルビィ:「今日はガラス玉だけど、大人になったら宝石でも何でも見つけてやるよ。」

幼いシィ:「本当ぉ? ルビィ、口頭契約してくれるぅ? ロックが証人よぉ。」

幼いルビィ:「口頭契約? 何それ? よく分からないけど良いよ。」

幼いロック:「ルビィ、たった今、大変なことになった気がするぞ。」

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