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誰か私をお宅に住まわせてください(だれすま)  作者: 乾燥バガス
誰か私をお宅に住まわせてください
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第13話 異国の商人

   *   *   *


 ――ロックが玄関を吹き飛ばした翌日のことである。


 あくびを押し殺している僕は、やたら元気なネイと一緒に街を歩いている。ゼロは律義に僕らの後を付いてきている。日は傾き始め、夕飯の買い出しで湧いて来た人々を呼び込もうとする威勢のいい声が、道々聞こえてくる。


「いや~。ホント今日は、買い物日和ね。何か面白いことにでも遭遇しないかしらね~。ロック。」


 ネイが不吉なことを言っている。


 僕とネイは本来の用事を済ませて、家に戻る道すがら夕食の買い物をしようと街を散策しているのだ。徹夜で玄関を修復していた僕は眠たい。


 ――僕らはまず防具屋に行って、父さんのおさがりの革鎧の仕立て直しを依頼した。そしてブラッドサッカーの鞘とベルトをオーダーメイドで発注した。右手ですぐに取り出せる様に鞘の位置を右側の腰の下の方にした。そして親切な防具屋の主人は、ブラッドサッカーが抜き身のままでは困るだろうと、鞘代わりに二つに畳んだだけの革を仮縫いしたものを工面してくれた。


 防具屋に行ったその後、僕らはメインの武器を物色しに武器屋へ行った。武器屋に入る直前に僕はゼロとこっそり入れ替わった。剣の見立てをゼロにしてもらうためだった。ゼロは同じ型の剣を二本選んだ。その剣は直刀の両刃、若干細身で長めだ。それらの剣は二本とも左腰に帯刀している。僕が猫になっている間にその代金をネイが払ってくれていた。結構高い買い物だったのにネイは出世払いで返しなさいと言ってくれた。


 そして今、僕らは夕食の買い物をしながら帰路に着いていたのだ。


 ネイが突然止まった。


「どうしたの?」


 ネイに訪ねると、ネイは静かに言う。


「ほら、あれ。」


 ネイの視線の方に目を向けてみると、数名の男達が誰かに言い掛かりを付けている様だった。そちらの方に駆け寄ってみると罵声が聞こえてきた。


「おい、ね~ちゃん! 一体誰に断ってここで商売してやがるんだって言ってるんだよ!!」


 罵声の先には十七、八歳ぐらいの女性がいた。髪の毛は漆黒で肌の色もこの近辺の人々より少し濃い目だ。身長はネイより少し低いぐらいだろうか。その女性は太腿あたりから足首までがゆったりしているズボンを履いており、丈がへその上までしかなく袖の無い上着を着ていた。くびれたウエストを惜しげもなく露出させている。明らかに他国から来た風貌である。


「さっきからずっとだんまりを決めやがって。さっさと何とか言ったらどうだ、あぁ?!」


 堪忍袋の緒が切れたのか、元々切れていたのか知らないけれど、言い掛かりを付けている男の一人が女性の肩を突き飛ばす。


「きゃ」


 その女性はバランスを崩し、その場に座り込んだ。


「ちょっと、何やってんだよ。」


 僕はつい、異国風の女性と男たちの間に割って入ってしまった。


「誰だぁ? お前は?

 商売人同士のいさかいに、冒険者風情がしゃしゃり出てくるなよ。」


 そう言ったその男は、その辺のチンピラではなく商売人の風体だった。その中には荒々しい船乗り風の犬耳族(カニス)も混ざっていた。


 こいつら、商人と言っても荒々しさの方が前面に出ているよな……。


「そうよ。ロック。商売人同士の問題よ。」


 いつの間にか僕の背後に来ていたネイが、僕の右腕を手で押さえながら言った。


 ネイのその仕草はまるで僕に剣を抜かせないために押さえている様だった。


 そもそも僕は剣を抜く気は全然無かったのに、何をやっているんだ?


 僕はネイに疑問の目を向けてみたが無視された。


「そしてあなた。言葉はわかるのでしょう?

 ここでは無許可で商売はできないわ。とりあえず、そこで開こうとしている露店を畳んで頂戴。」


 ネイは後ろにいる異国の女性に、相手が理解できているのかを確認しながらゆっくりと話した。そしてゆっくりと自称商売人達の方に向き直った。そしてネイは、僕の腕をゆっくりと揺すった。


 なんで僕の腕を揺するんだ? これじゃあ、まるで僕がネイの手を振り払おうとしている様に見えるじゃないか。


 ネイがこっちを向いて首をゆっくり振った。まるで僕に落ち着きなさいと言わんかの如く。


 なるほど! やっぱりそういう演出ですか……。


「あなたたち、ここは私が責任をもって露店を畳ませるわ。安心して頂戴。

 私には任せられないって言うのだったら、この荒くれ冒険者をそちらに放つわよ。それは双方にとって損な話でしょ。

 だから、ここは矛を収めていただけないかしら。」


 僕は荒くれ冒険者役なんだな。


 ならばと、男たちを少し睨んでみた。自称商人達は、露店を畳もうとしている女性と僕の双方の様子を見ながら口々にこう言った。


「あ、あぁ、話が分かるヤツが居るんだったらそれでいいんだ。」

「さっさと店を畳んでたら良かったんだ。」

「あとはちゃんと頼んだぜ。」


 そういって彼らは背を向けて歩いて行った。彼らが去っていくのを見届けて、僕はネイの方に振り返った。


 そこには、ニヤニヤが止まらないネイが居た。


「ネイ?」


「あははっ。荒くれ冒険者のロックく~ん。

 あんた、いい仕事してくれるわね~。さ、す、が、私の相棒だわ。」


「ネイに合わせて、ちょっと睨んでみたんだ。」


「いえいえ、そこじゃなく、もう少し前の話よ。」


「ん? よく分からないんだけど。」


「あんた、咄嗟に間に割って入って彼女を助けようとしたでしょ。そのことよ。あっという間に傍観者から当事者になったじゃない。」


「そうなのか? よく分からないけど、まあいいや。」


 そんな僕を置いて、ネイは露店を片付けている女性の方に近づいて行った。


「片づけが終わったら付いて来て。話をしたいの。場合によってはここで商売ができる様に取り計らってもいいわ。」


「……分かりマシた。」


 露天を片付けながら、少し変な抑揚の言葉でその女性は答えた。


   *   *   *


 その女性は、体毛が白い牛の様な動物に、小さな四輪荷車を引かせていた。その牛の二本の角は後ろの方にまっすぐに伸びており、黄色と赤色の布が巻かれていた。角の先には小さな鈴が幾つも付けられており、シャラシャラと聞こえの良い音を鳴らしている。小さな四輪荷車に乗って御することも出来そうだが、その女性は横にならんで引いている。代わりにゼロが御者席に陣取っていた。


「あなたの名前は?」


 ネイがゆっくりと聞いた。


「ロクシーと言いマス。そしてこの子はナンディと言いマス。」


 体毛が白い牛の様な動物を指してロクシーが言った。ナンディの角はまっすぐに後ろに伸びている。ここら辺で見かけられる牛よりちょっと細身だけれど、まぁ牛なんだろう。


「私はネイよ。そしてこっちがロック。御者席の猫はゼロよ。詳しい話は家についてからにするわね。

 何もタダで親切にしようとする訳ではないから、安心していいわよ。」


「なら、安心デス。」


 少しだけ、張っていた気を緩めるロクシー。


「タダじゃなかったら、なんで安心なんだ?」


 僕はネイに聞いた。


「タダより高いものは無いって言うでしょ。それに対価を求めることを予め言っておけば、商売人として少しは安心できるのよ。だから言ったの。まぁ、対価をもらう気は満々だけどね。」


 ネイが何やら悪だくみをしている様にも見える。


「ふ~ん。そんなもんなんだ。ところでネイ、さっきからずっと喜んでる様に見えるけど?」


「んふふふ~ん。探し物が見つかったって感じかしら?」


 そしてネイはロクシーに話しかけた。


「ロクシー、今日は私の家に泊まって頂戴。広くはないけど、それは我慢してね。あなたと沢山話がしたいのよ。」


「泊めるのか?! あの狭い家に!?」


 僕はネイの発言に驚き、思わず大声を出してしまった。その声にビクッとして萎縮するロクシー。


「あら、あんただったら困ってる人をほったらかしにはしないでしょ? それと私はロクシーとゆっくり話をしたいのよ。だとすると今晩は泊めるしかないじゃない? 一石二鳥の名案でしょ?」


「一羽目の鳥を狙うのを僕のせいにしている様だけど、二羽目の鳥の方が大本命なんだろ?」


「まぁまぁ。大小は問わず、二羽は二羽よ。」


「それで? どういう配置で寝るのさ?」


「あんたのベッドをロクシーに貸すしか無いんじゃない? まさか、女の子を床に寝かせる気?」


「まぁ、そうなるんだと思ったけどね。」


「あんたはこの荷車の荷台で寝る?」


 ネイはナンディ―が引いている荷車を指しながら言った。


「いや、家の中の床に寝るよ。ダイニングテーブルの下に野宿用の寝具を広げるなり何なりするさ。

 あぁ、それからロクシー、さっきは突然大声を出してごめんな。」


「……。」


 ロクシーは俯いて、無言を返してきた。ネイはその様子を微笑で窺っていた。


 僕らはしばらく歩いて家に着いた。ネイは道中、ずっと上機嫌に鼻歌を歌っていた。


「家の裏側に家畜用の水飲み場などが付いてるから、ナンディ用に自由に使って良いよ。荷車も貴重品を家の中に入れてから、裏に置いておくといい。」


 僕はロクシーにそう言った。


「……。」


 ロクシーは返事をせずに頷いた。


 ロクシーは無口か。……ネイとは真逆だな。


   *   *   *


 ロクシーの荷物や旅用の寝具を家の中に運び終えたところで、僕らは家の中で落ち着いていた。ロクシーはダイニングテーブルの椅子に腰かけていた。ゼロと遊んでいる。僕はロクシーに渡す予定の自分の仮ベッドに座っていた。ネイはキッチンで鼻歌まじりに上機嫌で料理をしている――。と、その時ドアをたたく音がした。


「ロック~。いるんだろ?」


 やばいな、ルビィだ。


 僕は玄関に向かい、新調したばかりの扉を開けた。


「ようロック、玄関を新しくしたんだな。ところで……。」


 部屋の中を見たルビィはテーブル席にいるロクシーを確認して、そしてしばらく動けなかった。


「ロック、おまえ……。」


 お前が言いたいことは何となく分かる。分かるのだが、


「ルビィ、何も言うな。」


 確かにロクシーは、エキゾチックな美しさがあった。それは僕も認める。だがしかし、


「彼女がここに居るのは僕のせいじゃないからな。」


 僕は小声でルビィに言った。


ルビィ:「あの子、何者なんだ?」

ロック:「ネイが連れ込んだ商人だよ。ロクシーって言うんだ。」

ルビィ:「だったらロックと関係ないな。口説いて良いか?」

ロック:「おまえな……」


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