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16.

「──魔力拡散。濃度希釈」


 智之の杖の先、大きな魔力玉が踊っていた。

 魔力玉は食堂のどこか薄暗い明かりの下でぐにゃぐにゃと蠢く。


 玉虫色の魔力はどんどんと拡散され、次第にバランスボールほどの大きさまで広がっていた。


 食事をしていた生徒たちも何事かとその光景を眺めている。

 その様子を見ていたヴルムが関心したように呟く。


「魔力操作Sランクと聞いてたけど、まさかここまでとはねぇ。魔力の分離なんてそうそう聞いたことないよ」

「うっさい、ヘビ女。トモの邪魔になるから黙ってなさい」

「はいはい」


 傍から聞こえてくる会話を聞き流しながらも、杖は止まらない。

 薄く広げた魔力の中から細かく魔力を分けていく。


「属性分解開始。土、風、土蛇、不明──系列三種?」


 だが、そこで智之の動きが止まる。


「トモ?」


 少し離れているところにいるセレナが首をかしげる。

 魔力を維持しながらも、智之は背中に汗が流れるのを感じていた。


 使い魔の魔力には宿主の魔力が混じっているのは誰もが知っている話だ。

 そのため、二種類の魔力が流れることになる、


 しかし、ヴルムから出てきたのは三種類。

 本来あるはずのない龍属性、禍々しいドラゴンの魔力。


「ヴルムさん、那波くんって魔物とのハーフだったりしますか?」

「いやぁ、そんなことは聞いたことないね。雇い主サマの親にも会ったことがあるけど、普通の人間だったはずだねぇ」


 なら、これはいったい誰なのか。

 杖を通じて伝わってくる、央麻の魔力を食いつくさんばかりの貪欲な力はいったいなんなのか。


「セレナ、<破壊>の準備」

「はぁっ? 何言い出すのよ急に!」

「早く!」


 万が一のためにセレナへ声をかける。

 分離した後に何が起こってもおかしくないように、いつでも目の前の緊急事態を壊せるように。


「いったい何が始まるっていうんだい」


 事態がよく分かっていないヴルム。

 それを聞き流してさらに工程を進めた。


「系列分離開始。土・風。土・蛇。龍」


 それぞれの魔力を集めて塊を作り出す。


 央麻の黄色。

 ヴルムの翡翠。

 そして紅黒のアンノウン。


 大きさはそれぞれ手のひらサイズ。

 一箇所に集められた血のような魔力はなおも躍動を続ける。


 そうして出来上がったのは──ドラゴンの顎。

 見覚えがあるなんて言葉では片付けられない。


「セレナ!」

「──<破壊>!」


 赤黒い炎をそれよりも深い黒が覆い尽くす。

 かき消えるその一瞬、その顔がニヤリと人間のように笑った気がした。


「な、なな何よアイツ、消えたんじゃなかったのっ!?」

「あの調子だとまだ残ってたみたいだね……何度見ても慣れないよ」

「あんなのに慣れたくないわ!」


 相変わらず、近くに行くまでまったく気配を感じさせない怨霊だった。


「あれがさっき話してたヤバいヤツかい。見るからに近づきたくない類だねぇ」


 ヴルムも額に浮かんだ冷や汗を拭いながらそんな言葉を告げる。

 彼女ほど戦い慣れたように見える存在でも、あの怨霊は相性の悪いもののようだ。


(正直、何度も相手したくないけれど……)


 神子の一撃で消え去っていたらどれだけ良かっただろうか。

 二度と関わらないでいれたらどれだけ良かっただろうか。


 しかし、央麻の魔力の中に現れたその存在はひとつの最悪の結果を表していた。


「ん? ちょっと待ちな。なんであんな魔力が……」

「トモ、これってもしかして」

「うん、そういうことだと思う」


 聞けば、ヴルムの体調に変化はないという。

 だとしたら考えられる答えは一つしかない。


「那波くんがこの一件になんらかの形で関わっているんだ」

「……あの雇い主サマ、変なのに捕まってんのかい」

「おそらく」


 頷くと、ヴルムはため息を吐いた。

 身体中の空気を全部吹き出さん限りの深い、深いため息を。


「あとは任せておきな」

「じゃあ、俺たちも──」

「いいや、ここまでやってもらったんだ。後はこっちで片付けさせてもらうよ」


「マスターの責任は使い魔の責任ってね。それにもうこんな時間だ。いくらそこのドラ娘とはいえ、寮の障壁を壊すには骨が折れるんじゃないのかい」


 この寮の周りには障壁が貼られている。

 外からの魔法を防ぐためのそれは大変に強固な魔法障壁であり、何枚にも壁が重られている。


 破るのに時間をかけていれば当然警備員や巡回の教師に止められる。

 時間がない今としては得策じゃない。


「はん、舐めんじゃないわよ。あれぐらい私が本気出せばぶっ壊せないわけないでしょ」

「そりゃあ本気を出さなきゃいけないってこと、だろ?」

「ぐっ」


 正論を突かれたセレナがヴルムを睨む。

 普段なら軽口が飛んでいる頃合いだが、目の前のメイドは一瞬だけ目を細めて応じるだけだった。


 どうやら今は遊ぶ気がないらしい。


「那波くんの魔力を渡します。これが彼の元に導いてくれるはずです」

「へぇ、これが雇い主サマの。うっすい割にただ重いだけなんて雇い主サマそっくりだ」


 笑いながら彼女は黄色い魔力玉を弄ぶ。

 やがて優しく握り直したのち、こちらを再び見やった。


「坊やたちはとっとと寝な。後は大人に任せる時間だよ」

「……那波くんをよろしくお願いします」

「はん、子守も大変ね」

「そっちの坊やほどじゃないさ」

「ま。何ですって!」


 最後にセレナをからかって、ヴルムは食堂の入り口に向かっていく。


「はぁ、何よアイツ」

「無事だといいけど……」

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