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15.

「神宮寺さん、すごかったね」

「なんかぞわぞわしたわ……」


 帰り道を歩く頃、既に空は夜の外套を着込んでいた。

 星明かりと街灯を頼りに夜道を歩く智之たちの口からは、先ほど見た魔法の感想が漏れる。


 隣を歩く神子は、すやすやと眠るココを抱きかかえながら恥ずかしそうな笑みを浮かべた。


「あれはうちに代々伝わる退魔の魔法なんです。でも、一つ間違えれば誰かを傷つけちゃう危険なものでもあるんです」

「退魔……てことは私にも効くのね」

「とっても綺麗で、とっても鋭い魔法だったなぁ」


 魔法というよりは舞踊に近かっただろうか。

 浮かぶ剣先は揺れることなく、清らかな水のような一閃だった。


「鋭すぎるんです、あの魔法は。生かすか殺すかの二つしかない。一度振るえば何かを切り裂くことになる。それが苦手で……」


 神子の視線が下に落ちる。

 足元に続く舗装された道は智之たちの住む寮へと向かっている。


 だが。


「──壊す相手を選べるだけマシでしょ」


 その一言が足を止めた。


「ちょ、セレナ」


 慌てる智之を尻目にセレナは告げる。


「ミコが壊したくないものがあれば言いなさい。アンタが壊す前に、私がミコの魔法を壊してあげるわ」

「そ、そんなことできるんですか?」

「当然じゃない、私はドラゴンなんだから」


 彼女の言葉は半ば理由になっていない。

 けれど、誰にでもわかるほどにその表情は自信に満ち溢れていた。


「セレナちゃんは強いですね」

「……なんなら、世界で一番強い使い魔だと思ってるよ」


 ちょっと乱暴なところに手は焼くけれど、そこもまたご愛嬌だろう。


 そんな会話の後、再び足が動き出す。


「そういえばさっきの怨霊、完全に消えたのかな?」

「はい。怨霊は普通、人に憑くものですから。人との縁を断ち切られた彼らは姿を維持することができなくなるんです」

「……じゃあアイツはもう出てこないのね?」


 おずおずと尋ねるセレナ。

 先ほどのホラー体験が若干トラウマになっているのかもしれない。


「はい。もうだ……あれ」


 頷きかけた神子が首を傾げる。


「な、何よ」

「じゃあなんでさっき夕川くんと会った時に気づかなかったんだろう。ココちゃんも見るまで気づかなかったみたいだし」

「でも、俺たちも気づかなかったよね」

「ああああんなのに気づいてたら、すぐ燃やし尽くすに決まってるじゃない!」


 智之に話しかけてきたウェスカーも気づいていなかったし、なんなら今日一日学校で出会った人たちも気がついた様子はなかった。


「うぅん、ちょっとわたしの方でも調べてみます」

「よし、じゃあ俺も──」

「ちょっと、なんでアンタはいいっていうところに足突っこみたがるのよ!」

「でも、知ったからには何かしたくならない?」

「おばけ相手になるわけないじゃない!」


 そんな話をしている間にも、智之たちは学生寮の門までたどり着く。

 目の前には寮の入り口、右手にはまだ賑やかさの残る学生食堂。門から見えるテラスにもちらほらと食事を楽しんでいる生徒の姿が見えた。


「わたしはここで失礼しますね。今日はありがとうございました」


 神子は二人にぺこりと頭を下げた。


「うん、また明日ね」

「ここまで来たんなら一緒に晩ご飯まで食べましょうよ」


 セレナが神子を引き止める。

 けれど、返ってきた答えは芳しくないものだった。


「嬉しいけど、ココちゃんを起こしたくないから。ごめんね」

「そう……なら仕方ないわね」


 ココは神子の制服の二の腕部分を夢うつつのまま、はむはむと噛んでいる。

 その姿を愛おしそうに撫でながら、彼女はもう一度ぺこりと頭を下げて去っていった。


「セレナ、随分神宮寺さんを気に入ってるね」

「アンタに言われたくないわよ」

「あはは……それもそうか。今まであんまり友だちと遊びに行ったりしなかったしね」


 中学校に通っていた時は、誘われても遊びに行くことはなかった。

 数少ない友人たちから見ても付き合いの悪いように見えていただろう。


「……私のせい?」

「違う違う、セレナを召喚するもっと前からだよ」


 どちらかと言うと、意地になっていた部分があった。

 自分だって魔法が使えるんだって。


 ただ、セレナを召喚してからその理由が少し変わったことは確かだけれど。


「やっぱりお化けが怖い?」

「そ、そそそんなことないわよ! ふざけたこと言ってると燃やし尽くすわよ!?」


 話をしながら食堂へ向かう。

 そんな二人の目の前に、ふらりとヴルムが現れた。


「ちょいとお二人さん。うちの雇い主サマを見なかったかい?」

「見てないわよ」

「那波くんに何かあったんですか?」

「いやさ、今日の魔法決闘で一位のヤツにこてんぱんに負けちまってねぇ。拗ねてどっかいっちまったんだよ」


 やれやれ、と彼女は首を振る。

 呆れたような仕草の中にも、どこか心配の色が見えた。


「弱っちいヤツの自業自得じゃ──」

「セレナ、ストップ」

「むぅ」

「はいはい、従順なこった。それにしてもどうするかねぇ……」

「他の人は知らないんですか?」

「だーれも知らないとさ」

「あ、なら──」


 ……ぐぅ。


 説明しようとしたところで、智之の傍からお腹の鳴る音が聞こえてくる。

 そちらを見ると、夜の暗さでもよく分かるほどに頰を染めていた。


「な、何よ」

「……食堂の中で話しません?」

「名案だ」

「ちょ、ちょっと、何か言いなさいよ!」

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