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13.


『魔法操作でSプラスを出した新入生がいる』


 そんな智之に対する噂は、瞬く間に広がった。

 今まで真木架学園が輩出した『Sプラス』レベルの能力を持った生徒は二人。


 そのどちらも国際的に有名な魔法使いだ。

 だからこそ智之の存在は注目された。


 魔法使いから最も遠いと思われている、無属性魔力の持ち主であることも含めて。

 属性強度はE、魔力量はCという極めて一般的な結果であったためにデマや不正を疑う者もいた。


 けれど、例えそうだとしても、智之のもたらした結果はひとつの流れとして学園に横たわっていた。


 一方その頃、当の本人たちはというと──


「うぅ……きぼぢわるい」

「調子に乗ってドラゴン盛りとか頼むからだよ」


 学食の一席に向かい合って座り、昼食を取っていた。

 苦しそうに口を抑えるセレナの目の前には、平らげられた皿が並んでいる。


「だって、ドラゴンとか言われたら挑戦したくなるじゃない! ……うぷ」


 苦しそうに口元を抑える。

 彼女が食べた『山盛りビーフのドラゴン盛り』というのはこの学食で一番値段が高く、そして一番量の多いメニューらしい。


 てんこ盛りのご飯とボウルサラダ、そして十段に積み上げられたローストビーフの塊。

 智之も少し分けてもらったが、階層ごとに味が変わっていて飽きないように配慮が感じられる一品だった。


「でも、満足ぅ……名前にふさわしいメニューね」

「まだ俺は食べきれてないから、ちょっと休んでなよ」

「そうさせてもらうわ」


 口元をぬぐいながらも机に突っ伏す。

 たらふくお肉を食べられたことが嬉しかったのか、その顔は満足そうだ。


 ちなみに智之が頼んだのは『ルフ鳥のフレア』。

 こちらもたいそうな名前が付いているが、ただのチキングリル定食だ。

 バター醤油の芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。


「注目されてるみたいだねぇ」


 そんなことをしていると。彼らの席に近寄ってくるメイド服を着た女性がやってきた。

 彼女──ヴルムは昼食の乗ったお盆を手に、隣のテーブル席に腰掛ける。


「みたいですね、ヴルムさん」

「ようやくトモの強さが分かってきたんでしょ。というか、なんでここに座るのよ。あっち行きなさいよ」


 しっし、と手で払うセレナ。

 入学式の時に戦っていた


「まぁまぁ、同じクラスメイトなんだからさ。那波くんとは一緒にいなくていいんですか?」

「アタシはちょいと特殊でね、普通の使い魔とは違うのさ。さすがに何にもしないのはアタシの流儀に反するから、こうやって形だけでも仕えてるわけだ」

「はっ、何それ。その格好アンタの趣味ってわけ? キツいんじゃないの?」


 ピキリ。

 箸で魚をつついていたヴルムの動きが固まる。


 額に青筋が出来、その口元がにたりと釣り上がった。


「上等じゃないかドラ娘。この後食後の運動としゃれこむかい?」


 入学式の時もこんな風にケンカになっていったんだろうなぁ。

 どんどんエスカレートしていく光景が、智之の目にも浮かぶようであった。


「やってやろうじゃない、このデカ蛇女──うぷ」

「落ち着いて、セレナ。急に動くとお腹痛くなるよ」


 ただでさえいっぱい食べたんだから。

 そう言うと、彼女は爆弾を処理するかのように慎重に腰を下ろした。


「うぐぐ……」


 ほぞを噛むのは聞こえてくるけれど、とりあえず今のところは暴れるつもりがないらしい。

 そんなセレナの様子を見て、ヴルムは心底面白そうに吹き出した。


「この前はあんなに簡単に乗ってきたのにねぇ。マスターが横にいたら随分しおらしいじゃないか」

「こんのっ──」


 再び立ち上がるも、またすぐにゆっくりと椅子に座っていく。


「ヴルムさんもあんまりからかわないであげてください。うちのセレナは燃えやすいので」

「アンタはどっちの味方なのよ!」

「俺は何があってもセレナの味方だよ」


 ずっとセレナの味方であり続ける。

 セレナと使い魔の契約を交わしたその時から、智之はそう決めていた。


「仲がいいことで。でも、やっぱり分かんないねぇ」

「何がですか?」

「怖くないのかい、その子が。インフェルノ・ドラゴンなんだろう」


 ──インフェルノ・ドラゴン。またの名前を獄炎竜。

 ヴルムの言う通り、セレナはドラゴン種の中でも最高クラスの力を持つと言われる種族だ。


 その秘めたる力も有名だが、同時に気難しさも一級品。

 力有るものにのみ従い、力無きものは食らい尽くすと言われている。


 そんな存在が入学したての一年生の使い魔になっているなど、ヴルムには考えられないことなのだろう。


「だってドラゴンですよ? カッコいいじゃないですか」


 カッコいい姿、鋭い爪、力強い眼光……どこを取ってもかっこいいところしかない。

 魔法使いを目指すなら誰もが憧れる使い魔の一匹だ。


「勘違いしてるみたいだけど、コイツに従ってるのはコイツが私より強いからよ。魔力操作がすごいからとか、同情してるからとかなんかじゃないわ」

「へぇ……ドラ娘以上の強さは感じないがねぇ」


 しげしげと智之の顔が見つめられる。

 細長く透き通った瞳孔は、胸の奥までするりと入ってくるかのようだった。


「まぐれで一度勝ったことがあるだけですよ」

「まぐれって何よ、まぐれって!」

「まぐれはまぐれだよ。今はセレナの方が絶対強いし」

「今はそうでもあの時私はトモに負けたんだから、トモの方が強いに決まってるじゃない」


「あーっはっはっはっはっはっは! 面白い、面白いねぇ! いやぁ、アンタたちがいるなら面白い三年間になりそうだ」


 ヴルムは笑う。

 そんなことをしていると、その背後から人相をさらに悪くした央麻がやってきた。


「おい、ヴルム」

「おや雇い主サマ。何か用かい」


 気にも留めず、ヴルムは央麻に応じる。

 さらに目つきを悪くしながらも彼は智之を指差した。


「魔法決闘の時間だ。つか、何でコイツと一緒にいる」

「余裕がない雇い主サマに代わって、ちょいと偵察に来てただけだよ」

「なんだと──」




「君の事情は分からないけど、あんまり自分の使い魔を邪険に扱わない方がいいと思う。代わりなんていないんだから」

「うるせぇっ! 無能がオレに指図すんじゃねぇ!」

「この前トモに負けたクセに何粋がってるのかしら」

「この使い魔風情が──」


 激昂した央麻が何かを言おうとした時、ヴルムが手でその言葉を制した。


「まぁまぁ、雇い主サマ。落ち着きなって。魔法決闘に呼びに来たんだろう? さっさと行こうじゃないか」


 彼女の言葉でハッと目を見開いた央麻。

 やがて、バツが悪そうに舌打ちをした。


「………………ちっ、いつか痛い目見せてやる」

「昼からの身体測定にでもまた会おうじゃないか」


 それだけ言うと、ヴルムを率いて食堂から去っていく。

 ピリピリしていた学食の空気が、一気に緩慢なものになった。


「いつか仲良くなれるのかなぁ」

「無理でしょ。アンタ頭おかしいんじゃないの?」


 ばっさりだ。

 まぁでも、セレナの言うこともよく分かる。


「確かにそうだけど、せっかく同じクラスなんだし仲良くは無理でも、普通に話せるようにはなりたいな」

「合わないヤツは合わない、アンタもわかってるでしょ」


 それでも誰かを諦めるというのは気分がよくない。

 未練がましい、と言われるかもしれない。


 けれど、いつかどうにかなるかもしれないと思うのは変えられないサガだった。

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