寝てたから覚えてない
リューオスはタツキの家族に自分が見た映像を話すべきか少し悩んで、伝えないことにした。
石の映像が自分にしか見えないのだし、説明のしようがない。
それに翼が一枚しかないタツキの姿がショックでもあった。
二枚の翼でも帰ってくるのは難しいのに、一枚だと尚更難しい。
もうタツキは帰って来れないんじゃないか、そんな危惧があった。
* * *
地上では――
その日、翼の生えたタツキは高く飛ぶ練習をしていた。
天空岩まではまだ遠い。
だけど、昨日より高く飛べることを実感していた。
もうじき、天空岩に帰れるだろう。
だけど……
「なんか寂しい」
タツキはぽつりとつぶやいていた。
機械の少年シムはゲートの管理をしていた。
ゲートとは四角い扉のついた建物で、異世界との出入り口のようなものである。
地震と関係あるのかないのか、どうもゲートの扉が勝手に開きそうになることが続いていた。
ゲートの確認が終わり、突然抱きしめられた。
「わ、わっ!」
シムは慌てて振り向くと、案の定、タツキだ。
飛ぶ練習をしていたタツキは空からシムを見ていた。
作業が終わるのを見計らい、そうっと後ろから近づき抱きしめる。
「なあ? 帰りたくないよ」
シムを抱きしめたまま、タツキはそんなことを言った。
「そんなわけにはいかないでしょ」
だがタツキは黙ったままだ。
「家族だって心配してるよ」
「うん、まあ、そうなんだろうけど……」
「俺、シムの竜繭の中で寝てみたい」
とタツキは真面目なトーンで言う。
タツキとしては、一緒にいる時間が残り少ないから最後のおねだりのつもりだった――。
それを聞いて、シムは呆れた顔をする。
「それって竜人の特異体質でしょ? 機械の僕が竜繭なんて出せるわけないよ」
竜繭とは、翼の生えた竜人が眠る時、体から発する丸い球体のようなもの。竜人は竜繭に包まれながら眠る。
タツキの翼が治った時――
眠っていたシムは竜繭に包まれていた。
それに触れた瞬間タツキの翼が治ったわけだが、寝てたシムはその時のことを覚えてなかった。
「やっぱ、あれ、夢だったのかなー?」
タツキは首を傾げるのだった。
そうは言っても、タツキの翼が治ったのは事実だ。