水たまり
その日、雨が降っていた。
別に濡れるのは嫌ではないのだが、わざわざ出かけることもない。
家にいるリューオスは地上に魔導電話をかけてみた。
電話は繋がらなかった。そばに誰もいないようだ。
リューオスは本でも読むことにした。
親が残した本でなんとなく敬遠してしまっていたものだった。
しかし、趣味じゃない本は退屈だった。
雨が止むと、リューオスは早速、桃畑へ向かった。
桃畑には水たまりができていた。
その水たまりにリューオスは目を見開く。
タツキが映っていたのだ。
翼が一枚しかない痛々しいタツキの姿がそこにあった。
タツキと同じくらいの年の少年が、背中に薬か何かを塗っていた。
――なんだ、これは!?
リューオスは信じられない思いで水たまりを凝視していた。
「ファニィ!」
呼べばすぐ来た。
「ファニィ、この映像が見えるか?」
だがファニィに変化はない。
ロボットとはいえ、何らかの異常を感知すれば何かしらの反応をするのだ。
つまり、この映像はファニィには見えてない?
すると、ファニィは水たまりの上に上がり、勢いよく水を巻き散らした。
桃の木に水やりのつもりのようだ。
「あ、違う。そんなの頼んでない」
水たまりに映っていたタツキの映像は見えなくなった。