桃泥棒
その日、リューオスは桃の育ち具合を確認していた。
まだ収穫には少し早い時期。
畑の片隅で座り込んでる子どもがいた。
「こら! またお前か! この桃泥棒!」
リューオスの声を聞くや否や、その子どもは桃を頬張りながら、飛んで逃げた。
リューオスは追いかけたが、飛んでる竜人に敵うはずもなかった。
「ファニィ! 追え!」
ファニィとはドラム缶に似た黒くてずんぐりしたロボット。
この天空岩に数体いる。
そのファニィはなぜかリューオスのそばにいることが多かった。
ファニィはキャタピラの脚で追いかける。しかしファニィもそれほど速く移動できるわけでもない。すぐに飛んでる竜人なんて見失うだろう。
しょうがないので、リューオスはその子どもの家に苦情を言いに行く。
毎度毎度、両親がぺこぺこ頭を下げるのが気の毒であった。
「すみません、すみません。うちの子にはよく言って聞かせますから」
と母親は頭を下げている。
「いえ、こっちもね、鬼じゃないから言ってくれれば……」
とリューオス。
「厳しく育てたつもりが……」
と父親も頭を下げている。
兄らしい男の子もいた。その子はやたら両親が頭を下げるからか黙り込んでいた。
その時、一番帰ってきてはいけない人物が帰って来た。
「ただいまー。桃のおみやげあるよー」
と翼の生えた少年は得意満面に両手に桃を抱えて帰ってきた。
その姿にリューオスは言葉もなかった。
てっきり1個か2個かと思いきや、あんなに……?
「こら、タツキ!」
父親がタツキにゲンコツをくらわす。
「そんな子に育てた覚えはない!」
「申し訳ございません申し訳ございません」
母親は泣き崩れて土下座をする。
兄は声は出さずぼろぼろ泣き出した。
(もはや、カオス)
もうリューオスはおいとましようと思ったが、母親が足をつかんで離さない。
「申し訳ありません申し訳ありません……」
「あ、いえ、もうそちらの誠意は伝わったので、俺はこれで……」
しかし、タツキの母親はなかなか離してくれない。
タツキは父親にこっぴどく叱られていた。
リューオスは逃げ出したかった。