いなり寿司後編
結局続きが気になりすぎて最後まで読んでしまった。分厚さにひるんでいたけど、読んでみれば2時間半ぐらいで読めたから、ちまちま読まずに一気読みしてよかった。
本日も10時からイベントがあるというので、食卓テーブルに2人分のお稲荷さんにラップをかけて置いた。
スナック菓子でも出してあげようかと思って聞いたら画面が汚れるから要らないと言われた。イベントにかける並々ならぬ熱意を感じたよ。
事務所には悠ちゃんだけじゃないかもしれないから、余分にお稲荷さんをお重に詰めた。
「じゃぁ、イベント頑張ってね。稲荷様もまた遊びに来てね帰る時間わかったらLINEするね。行ってきます。」
「いってらっしゃ~い。」
「いってらっしゃい。」
前回遅くなってわらしさまには心配をかけたから、ちゃんと帰るコールならぬ帰るLINEをすることにした。行ってらっしゃいと送り出され、お帰りなさいと迎えられるのは胸がほんわか温かくなる。いざ出陣。
時間に余裕をもって出たので、9:45には事務所の前に到着した。
「おはようございます。」
と入っていったらイケメン眼鏡しかいない。
「渡辺さんおはよう。」
爽やかな笑顔で林さんが挨拶をしてくる。ううう。悠ちゃん早く来てくれないかな?
「10時に事務所で悠ちゃんと待ち合わせなんですが、出直しましょうか?」
一縷の望みをかけてそう尋ねると、
「そこの応接セットに座ってくつろいでなよ。」
と、退路をふさがれた。
「ありがとうございます。では待たせていただきます。」
手持ち無沙汰なので、到着したことを悠ちゃんにLINEして小豆ご飯のレシピを検索してみた。めんどくさい。こんなめんどくさいもの毎日作ってくれてたんだとしたら、わらしさまが居た前の家の住人はとてもわらしさまを大切にしていたんだと思う。それとも、冷凍してチンしたやつ毎回お供えしてたのかな?
「へぇ。赤飯じゃなくて、小豆ご飯ていうのがあるんだ。どんな味?」
貴様忍びの者か!?音もなく背後に立つイケメン眼鏡。恐ろしい。
「友人が小豆ご飯に飽きたとぼやくので、どんな食べ物か調べてたんです。私は食べたことがないので味はわかりません。」
「ふ~ん。渡辺さんって田中さんと同級生なんだよね?俺も同い年だからタメ口でしゃべってよ。」
「……善処します。」
ううう。悠ちゃん早く来てくれぃ。
「のり子お待たせ~。あ、林君も居たんだ。おはよ。」
「田中さんおはよう。」
「悠ちゃんおはよう。」
「のり子、就活の成果はあった?」
「希望の会社に履歴書提出したんだけど、まだ連絡が無いよ。」
「あ~それダメなやつだね多分。不採用の場合は連絡ない会社多いんだよ。」
「そうなんだ。また明日ハローワーク行ってくる。」
「その件だけどさ、のり子のバイト内容社長が見て、事務兼アシスタントをしてくれるならうちで働かないか?って打診が来たんだ。」
どうやらイケメン眼鏡を我慢すれば正社員の職が手に入るようです。
「即決しなくていいよ。午後には社長が戻って来るから細かい雇用条件聞いてから決めればいいよ。それまで今日の分の原稿ここで処理してくれる?」
「は~い。」
悠ちゃんの隣で作業を開始した。
「そろそろお昼にしようか?」
パソコンを閉じながら悠ちゃんが言った。
「いなり寿司もってきたよ~。」
「やった。インスタントの味噌汁あるから入れるね。」
「田中さんいいなぁ。」
「あ、余分にあるので林さんもよかったらどうぞ。」
「やったぁ。渡辺さんごちそうになります。」
応接セットに移動して食べることになった。
「こっちがひじきで、こっちは梅キュウリ。」
「中身ただの酢飯じゃないいんだ。」
「高校の運動会でのり子がこのいなり寿司持ってきて、あんまりにも美味しそうだったからお弁当交換したんだよね。」
「昨日友達が泊まりに来たから夕飯いなり寿司にしたんだけど、悠ちゃん好きだったなぁって思い出してさ、お昼に一緒に食べようと思って多めに作っておいたんだ。ただし、運動会の時のいなり寿司はおばぁちゃんが作ったから、あんなに美味しくないかもしれないけど食べて。」
「「「いただきます。」」」
2人はどっちから食べようか悩んでいた。
「うおおおお。口からあふれ出るような唾液。このしょっぱい梅干しとキュウリのハーモニー。」
立ち上がってガッツポーズをしながら叫びだす林さんにあっけにとられていたら、
「のり子気にしないで。そいつ厨二病が未だに完治しないイタイ奴だから。」
今までのオーバーアクションはイケメンだからではなく厨二病からくるものだったようです。イケメン眼鏡への苦手意識が少し緩和された。ここでやっていけそうな気がしてきた。社長とのご対面緊張する。




