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第2話② Boy Meets Girl “ボーイと呼ぶには歳いってるとか言わないで”

 

「な、な、な、なんだ、これ?」


「んふふふふふ、これこそボクが開発した対アンリミテッド用パワードスーツ。

 これを使えばアンリミテッドなんてチョチョイのチョイってわけだよ」


「え、えーー?」


 余りの展開に口をあんぐりと開ける昌。

 ちょっと思考が追い付かない。

 いや――


(んん? ちょっと待て)


 ――今の流れで指摘すべき部分があった。


「お前が作った?」


「うん、そだよ。

 まあ、本物(・・)みたいにブレスレットで変身!――みたいにはできなかったけどね。

 そこは次回以降の改善点ってことで」


 余談だが、竜禅寺晶一は腕に装着するジャスティ・ブレスレットでジャスティセイヴァーに変身する。

 本当にただの余談である。


「いや、俺が聞いたのはそこじゃなくて。

 えーと、ノイさん――」


「ノイでいいよ」


 明らかに年下な女の子をどう呼ぶべきか一瞬思案したが、当の本人から呼び捨てを許可されたので、それに乗ることにする。


「じゃあ、ノイ。

 このパワードスーツ? お前が、自分で作ったのか?」


「だから、そうっていってるじゃん!

 まあ、全部が全部ボクのお手製ってわけじゃないけど、設計から製造までちゃんとやってるよ?」


「……いやそんなバカな」


 信じられなかった。

 本当にパワードスーツなのかどうか昌には分からないが、目の前にある“スーツ”は重厚な光沢を帯びている。

 明らかに、金属製。

 造りも緻密。

 パワードスーツでも何でもない、ただの張りぼてだったとしても、相応の技術が必要のはずだ。


「あー、その目、信じてないね!?」


「え!? いや、まあ、そりゃ……」


「本当ですよ、昌様」


 そこへレイアが割って入る。

 彼女は静かな瞳でこちらを見据え、


「この対アンリミテッドを想定した戦闘用パワードスーツ、確かにお嬢様が開発したものです。

 何せお嬢様はアンリミテッドですから」


「へ?」


 またしても意表をつく台詞。


「アンリミテッド? ノイが?」


「ええ、お嬢様はアンリミテッドです。

 授かったギフトは『奇怪工学ハイパー・エンジニアリング』。

 既存の科学を超越した(・・・・)技術を生み出す能力です」


「あー、レイアずるいー!

 それ、ボクが言う台詞のはずなのにー!」


 先に説明されて不満げなノイ。

 しかしレイアは気にも留めず、


「このスーツはそんなお嬢様のギフトによって生み出された最新鋭をさらに超えるパワードスーツです。

 本当にジャスティカイザーと同等の性能を発揮するかは保証しかねますが、アンリミテッドを相手取っても遅れを取ることはないかと」


「へ、へー……」


 こくこくと頷く昌。

 ノイと違い、このメイドの言葉には謎の説得力があった。

 と、そこでふと気づく。


「あれ?

 でもノイ、お前さっきアンリミテッドのことを大分悪く言ってなかったか?」


「いやいや、正義に目覚めたアンリミテッドも居るんだって、ボクみたいに。

 でも大部分のアンリミテッドは悪の怪人集団“ワーム”の手先にされているんだよ」


「そうか。

 頼むからフィクションと現実を織り交ぜて話すのは止めてくれないかな。

 俺は分かるからいいけど、一般人に突然ワームとか言っても普通は通じないから」


 一応説明しておくと、ジャスティカイザーの劇中で悪役として出てくるのがワームという集団である。

 あくまで劇中設定の組織だ。


 昌とノイの会話が一瞬途切れたそのタイミングで、レイアが口を開ける。


「そして、確かに現在こちらではアンリミテッドが起こす犯罪はほぼ取り締まりできております。

 しかし、被害の少ない軽犯罪や犯罪として立件されにくい悪戯程度あれば見過ごされているのが現状です。

 昌様にはそのようなアンリミテッドへの抑止力となって頂きたいのです」


「ジャスティセイヴァーになって?」


「はい」


 ここでメイドが、すすっと近寄り小声で囁いてくる。


「つまるところ――金持ちの道楽だと思って頂ければ」


「……なるほど」


 なんとなく合点がいった。

 要するに、どこぞの富豪なお嬢様――兼アンリミテッド――であるノイの“遊び”に付き合って欲しいと、そういうことだ。

 言われてみれば、少女はややシンプルながらも大分上等そうなお召し物を着ているように見える。


「勿論、昌様へ多大なご迷惑をおかけしてしまう以上、謝礼はお支払いします」


「ほ、ほほぅ。

 ちなみに、どんくらい?」


「10万円程で如何でしょうか?」


「……うーん」


 可愛い女の子の悪ノリに付き合って貰える金額としては悪くない。

 綺麗なメイドとも一緒に居られるおまけつき。

 が、快諾できる程のものでもなかった。

 何せ、(恐らくは)かなり弱いギフトを持つアンリミテッド相手とはいえ、性能が不確かなパワードスーツ(?)を着て喧嘩をしろ、ということなのだ。

 怪我をする危険だってあるだろう。


「もう一声あったりしないかなぁ?」


「おや、日給(・・)10万円では足りませんでしたか」


「ににににに、日給!?」


 声が裏返ってしまった。


 日給。

 肉球ではなく、日給。

 確かに、メイドはそう言った。


(た、例えば、一週間も付き合ったら70万円!?)


 一瞬、取らぬ狸の何とやらという言葉が聞こえた気もしたが、無視。


「危険手当も都度用意いたしますし、上手く事を運んで下されば、ボーナスも弾みますよ」


「やります」


 畳みかけるレイアに昌はあっさりと負けた。

 寧ろ自ら白旗を上げた。


「交渉成立ですね。

 これからよろしくお願いします、昌様」


「よろしくねー♪」


「おう、任せとけ」


 談合は纏まり、昌は笑顔でノイと握手するのだった。

 ……これから待ち構える己の運命も知らずに。







 そして、夜。


(まさかこんなことになるとは……)


 早速、昌は後悔していた。

 ここは、昌の住むアパートの一室――の、廊下。

 彼はこの夜、ベッドではなく廊下の床で寝る羽目になったのだ。


(……まさかあの二人、うちに泊まり込むだなんて)


 謝礼金は宿泊代込みだった。

 いや普通にホテル行けよと強く主張したのだが、装着者に合わせてスーツの細かいメンテナンスが必要だとかなんとかで、強引に押し切られた。

 1人暮らしの部屋に、余分に人が泊まれるスペースなど無い。

 仕方なく昌はいつものベッドではなく廊下で寝ている次第である。


(10万円のためだ……10万円の……)


 いつもより少し硬い布団に寝転がりながら、自分にそう言い聞かせる。


(……報酬で買うのは、まず布団だな。

 もっとふかふかで寝やすいやつを――)


 そんなことを考えていた、その時。


「昌様」


 自分を呼ぶ声。

 顔を上げれば、薄暗い闇の中、枕元にメイドのレイアが立っていた。


「まだ就寝されておりませんでしたか、安心しました」


「……何の用だ?

 俺、もう寝るつもりなんだけど」


「いえ、お礼の件についてお話しようかと思いまして」


「お礼?

 ああ、夜も遅いしお金とかの話はいいよ、また今度で」


「いえ、今の方(・・・)が何かと都合良いのです」


「はぁ?」


 その発言に訝しんでいると、レイアは昌の顔を覗き込んでくる。


(――っ!!)


 心臓が跳ねる。

 顔が近い。

 物凄く近い。

 それこそ、身じろぎすれば互いに触れてしまう寸前にまで、メイドは顔をこちらへ近づけてきたのだ。

 目が覚める程の美貌が――比喩でなく、昌は一瞬に目が覚めた――視界を覆い尽くす。


「昌様」


「な、なんでしょう?」


 緊張感から、つい敬語を使ってしまった。


「私は悩んでいたのです。

 果たして協力して頂く見返りが、あの程度(・・・・)で良いのかと」


「は、はぁ……?」


「諸事情により私達はこれからしばらくの間、昌様と一緒に過ごすことになります。

 今まで独りで暮らしていた殿方が、急に女性と暮らすことになる辛さ――理解できないとは申しません」


「え、え?」


 ぞわっとする程の艶やかな瞳。

 レイアから垂れる、絹糸のような銀の髪が、昌をくすぐる。

 頭がくらくらし、背筋がぞくぞくしてきた。


「女性と共に居れば、何かと不自由(・・・)することもあるでしょう。

 溜まるモノもございますよね。

 ――それらを鎮めること(・・・・・)で、昌様へのお礼としたいのです」


「ご、ごくり」


 妖艶な視線に、思わず生唾を飲む。


(そ、それはアレか?

 つまり――ナニか?)


 ナニがドーしてアーなってしまう展開なのか!?

 期待と不安に胸が躍り、心が混乱する。

 何かもう全て目の前のメイドに任せてしまえばいいんじゃないかという想いまでよぎり、昌は考えることをやめた。




 ――そして。




「さあ、どうぞ」


「おい」


 昌は思考を復帰させた。

 とりあえずレイアに突っ込みを入れる(下ネタに非ず)。


「どうされました、昌様?」


「どうされました?、じゃないだろ。

 あんた何やってんの?」


「と、申しますと?」


「いやだから!

 何考えて、寝てるノイのとこに案内したのかって聞いてんだよ!?」


 彼とメイドの前には、すやすやと寝ているノイの姿が。

 そう、レイアは昌とは特に何もせず、少女が寝ている部屋へと連れてきたのだ。


 抵抗でもあったのか、いつも昌が使っているベッドではなく、部屋の床に敷いた布団で少女は眠っていた。

 おろした髪がノイを昼と違った印象に見せる。

 着崩れたパジャマの隙間から見える素肌が、妙に艶めかしい――ような気がした。


(いやいや、ダメダメ)


 目が釘付けになりそうになるのを抑え、改めてメイドを睨む。

 しかしレイアは涼しげな顔で、さらっと告げる。


「そりゃ勿論、ナニのためですが」


「ナニって何さ!?」


「お嬢様とセッ〇スしたくないですか?」


「直球!?

 もうどうしようもない程、直球!?」


 一切オブラートに包まないメイドの言葉。


「ああ、ご安心ください。

 お嬢様には睡眠薬を投与しております。

 ちょっとやそっとのことでは起きません」


「いつの間に!?」


「夕飯の最中に」


「食べ終わったらすぐに寝だしたのはそれが理由か!!」


 食べてすぐ眠るなんてはしたないなぁ、などと思ったものだが、この女の企みだったか。


「っていうかね!

 ダメでしょ、これは!

 これってもう、レイ〇みたいなもんだよね!?」


「おやおや、これは異なことを。

 昌様は私と“そういうこと”をするのに、大分乗り気なようでしたのに」


「た、互いの合意が必要だろうよ、そういうことには!」


「ああ、私とは合意の上でできると思ったのですね。

 ……とても申し上げにくいのですが、はっきり言って昌様は私の好みではないのです」


「ひっど!?

 いや別にいいけどね、淡い期待だったしね、そんな美味い話があるわけないって心の片隅で思ってたしね!?

 でもだからって自分の主人を差し出すのはどうよ!!」


「しかし昌様も、私よりお嬢様の方がタイプなのでしょう?

 街角で初めてお会いした時も、私よりお嬢様の方に目が向かっていましたよね?」


「ええぇぇぇえええ!?

 なんでそんなとこまで把握してんの!?」


 自分の好みを見透かされていたことよりも、あの時にそこまで昌のことをチェックしていたことに驚く。


「納得して頂けたようですので、お嬢様とめくりめく官能の世界へどうぞ」


「納得はしてないぞ!

 全くしてない!!」


「お嬢様も、憧れの人――のそっくりさんに抱かれるであれば、まあなんのかんのありつつ納得するでしょう。

 数日はへこんでふさぎ込むかもしれませんが」


「そんなこと言われてはいそうですかと俺が言うとでも!?」


「あ、付け加えておきますと、処女ですよ、お嬢様は」


「要らねぇよそんな情報っ!!」


 ぜぇぜぇと荒く呼吸する昌。

 余りにツッコミすぎて、息が上がってしまった。

 そんな彼を見て、レイアはふぅっとため息一つ。


「――ここまでお膳立てして襲いかからないとは。

 さては童貞ですか、昌様?」


「ど、ど、どどど、童貞ちゃうわ!!」


 どもってしまう辺り色々察せてしまうかもしれないが、本人が傷つくので指摘するのは止めよう。


「あーーもうっ!!

 ノイはちょっと残念な感じの子だけど、アンタはまとも大人なのかと思ったのに!!」


「ふふふ、まともな大人であれば、そもそも年頃の女性を男の家に泊めようなどと思いませんよ」


「その通りなんだけど、自分で言うな!!」


 そもそも、ノイの突飛な行動に追従しているところから、このメイドもおかしい人なのだと考えるべきだったか。

 そこまで考えてから、昌は回れ右する。


「あら昌様、どちらへ?」


「……廊下に戻る。

 バカ話はここまでだ、エロメイド」


「何も廊下でお眠りにならなくても良いのではないですか?

 お嬢様とナニするという話は別にしても」


「今日初めてあったばっかのいい年齢(とし)した男女が同じ部屋なんかで寝ちゃだめだろ!」


「あらあらお堅い。

 私もお嬢様も、昌様と同じ部屋で就寝することに異存はありませんよ。

 寧ろ、ここは貴方の家なのですから、廊下に出るのは私達であるべきでしょう」


「……女の子を廊下なんかで寝させられるかよ」


「あらあら」


 レイアが、少し意地悪気な笑みを浮かべる。


「まさかそんな恥ずかしい台詞をさらっとお使いになるとは」


「ほっとけ」


「昌様、ニートをしている割にお人好しでございますね」


「……ニートは余計だ。

 あと、ニートだからって人でなしってわけでもないだろ」


「ふふふ、それもそうですか」


 彼女の笑みが優し気なものに変わった――かもしれない。

 暗くてよく分からなかった。


「では、お休みなさいませ、昌様」


「……そうさせてもらう」


 廊下の寝床へと歩く昌。

 後ろから、メイドがまた喋り出したのが聞こえる。


「ああ、そうそう」


「ん?」


「先程、昌様は好みではないと申しましたが――昌様がその気(・・・)であれば、一晩お付き合いすることに吝かではありませんよ」


「……へー、左様か」


「おや、気のないお返事」


「あんたの言うことは簡単に信用しないことにした」


「それは残念」


 言う割に、さして残念そうな顔でもない。

 昌はニコニコと笑うレイアが一礼するのを見てから、廊下と部屋を繋ぐ扉を閉めるのだった。



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