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魔王のすゝめ  作者: ぷにこ
第四章 魔王と雪原
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第52話



「イチミ?イチミ?ム~テコチ?」


「ム~テコチ!イッチミ~ダ!」


 何やら言葉を交わして手を叩き合い、きゃっきゃと小躍りする小人たち。


 俺の頭を雪の中から掘り出した小人たちは、皆一様に色鮮やかな模様入りのふかふかとした服に身を包み、筒状の長い帽子を被っている。その数はざっと三~四人。違う、五、六……駄目だ。どんどん集まってきている。視界が小さな手でちらちらと遮られ、撫で回され、やがて小人たちは俺の目の前で手を取り合って踊り始める。


「イッチミ~!」


「イッチミ~!」


 繰り返される、謎の言語。会話をしていることは間違い無さそうだが、何を話しているのか分からない。俺たちの知るそれとは、異なる言語を使っている。


 俺たちが口にしている言葉は、かつて叡智と学問を司る魔神ベスティアによってもたらされたもの。ベスティア神は、古の時代に神々から生まれ落ちた「祖なる者」たちを訪ねては言葉を教えて回り、各地に文化の種を芽吹かせた女神。同時に、魔力を糧として超常を操る術――魔法を編み出した張本人である。


 俺たちとは違う言葉を口にしているということは、ベスティア神による『授業』を受けていないということ。古の時代、各地を巡ったベスティア神がその存在に気づかなかった種族。つまりは、よほどの辺境に隠れ住んでいた者たちだ。


「イッチミ~!カチキリダ!」


「カチキリダー!」「カチキリダー!」

 

 謎の掛け声に合わせ、万歳する小人たち。気がつくとその数は、二十とも三十とも分からぬ数にまで増えていた。


 こいつらは、一体何をしているんだ。俺の頭、もとい兜を発掘したことを喜んでいるというのは何となく分かるが、だとするとこいつらにとって俺は一体何なんだ。宝物、というのが妥当なところか。食料、ではないだろう。いや、そんなまさか。


「(どうしたもんかな。これは)」

 

 見たところ、決して邪悪な存在というわけではなさそうだが、言葉が通じそうにない。意思疎通を図っておきたいところではあるが、今の俺は兜一つ。しかも中身は空っぽだ。


 そんなものが突然喋り始めたとなれば、こいつらを驚かせてしまう。怖がらせてしまうだろう。そうなればきっと一目散に逃げ出すか、あるいは敵意を向けてくるかも知れない。少なくとも、友好的な関係を結べるとは思えない。


 もし逃げられれば、五里霧中の宝探しを再開することになる。

 敵意を向けられたとしたら、今の俺にはどうすることも出来ない。されるがまま、今度こそ潰されてしまうかもしれないのである。


「……」


 ここで声を上げるのは危険だ。なにせこいつらは、俺たちのそれとは全く異なる文化を持つ者たち。一体どんな力を持っているか分かったものではない。この兜を含めた鎧が頑丈であることは分かっているが、こいつらはそれを砕くすべを持っているかもしれないのだ。


「(ここは大人しく、様子を伺っ――――)」


 『それ』を目の当たりにした瞬間、ぎょっとして思考が凍りつく。


「カチキリ!ケ~ダケゾ~!」


「ケダケ!」「ケダケ!」


 小人たちの中でも一回り大きなそいつがその身の丈を有に超える大振りのハンマーを掲げ、周りの小人が拍手と共に声を上げる。


「(なんだ、あれは)」


 輝く氷から直接切り出したかのような、美しく透き通るハンマー。だが大振りと言っても所詮は小人。俺が握れば金槌にもならないくらいの大きさである。にも関わらず、それを目の当たりにした瞬間、ぞわりと悪寒が脳裏を駆け抜けた。


 あれは、まずい。何かは分からないが、強い力を感じる。あれで叩かれるのは、まずい。俺の本能が、そう訴える。


「カチキリ、ケダケゾ~」


 ぐおんぐおんと振り回しながら、小人が嬉々として歩み寄ってくる。


「(待て待て、待てよ、おい……嘘だろ……)」


 まさか、それで俺の頭をぶん殴ろうってんじゃあないだろうな。あぁ、だめだ。小人たちも皆少し離れてわくわくした顔してやがる。まるでとびきりの見世物を楽しむような笑顔だ。間違いない。こいつ、俺の頭を、俺の兜をぶん殴って壊すつもりだ。


「……っ」


 どうする。どうすればいい。大声をあげて威嚇するか。いや、だめだ。威嚇してどうする。刺激してどうなる。今の俺は頭一つ。逃げ出すことも、このチビ共を蹴飛ばしてやることも出来ない。なら、どうすれば――



「はぁ~いコロポックルちゅわぁ~ん!ごはん出来たわよん。ゴヒア、ゴヒア~!」


 

 鍋を叩くような音と共に、聞こえてくる男の声。その声に、小人たちは一斉に振り返る。


「ゴヒア!」


「ゴヒア?」


 ハンマーを振り被ろうとしていた小人もひとまずそれを下ろし、小人たちはわらわらと列を成してどこかへと歩いてゆく。それと同時に、どこからかザクリザクリと大きな足音が近づいてくる。


「なぁ~に。どうしたの?皆してこんなトコに集まってぇ」


「ガーランド!カチキリ!カチキリダ!」


「イチミ!イチミ!ム~テコチ!」


「何かイイモノ見つけたのぉ?首?え、ヤダ。なにそれこわい。どこどこ?ん?」


 やがて、俺の視界に差し込む光を遮るようにして、大きな影がぬうっと顔を出す。すらりとした長身に毛皮のコートを羽織った、端麗な顔つきの男。そいつは俺を見るや否や、はっと目を見開いた。


「…………ガストール」


 聞き慣れない、名前。しかしそれは確かに、『俺』に向けられた言葉であった。


「嘘よ。嘘。嘘でしょお。やだぁ、もぉ~!バカ」


 細身ではあるがぎちりと筋肉質な腕に抱きしめられ、その硬い胸板と腕に挟まれる。そんな俺の頭上でぐすんとすすり泣く声が溢れた。


「……だから言ったのよ。無茶だって。はぁん、エリーになんて報告すればいいのかしら」


「……」


 指で涙を拭い、俺の頭をぽんと撫でる男。その手付きは、柔らかく優しい。やがて男はズビと鼻水を啜り、足元の小人たちに目を向けた。



「ヤナ。シガーセ。もっとくまなく探すのよ!ひょっとしたら、まだ何か埋まってるかもしれないワ」

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