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魔王のすゝめ  作者: ぷにこ
第四章 魔王と雪原
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第44話




「……」


 さて、どうしたものか。

 俺は朽ちた倒木に腰掛け、一息。まずは心を落ち着かせる。


 俺としたことが、目的地に続く目印を見失うとは。

 鎧に入る前に、上空から方角だけでも確認しておくべきだった。一度鎧から出ることも考えたが、今の俺は鎧を身に着けていると言うより体そのものが鎧であるかのような具合で、どうにも離れることが出来ない。どうやら、俺の魂はこの鎧に定着してしまったようだ。



 だが、定着してしまうこと事体は想定内である。


 死を経て肉体を捨て去った死者の魂が、別の器を新たな我が身として蘇るというのはよく聞く話だ。実際に、そうして再び立ち上がった元死者の知り合いも居る。腕のいい黒魔術師がいれば、魂を別の器に移し替えることが出来るということも、知っている。


 ゆえに定着してしまうこと事体は構わない。あとでエレオノールに頼めば、どうとでもなる。


 それよりも、だ。とにかく今は、来た道を引き返そう。落ち着いて考えれば、簡単なことだ。俺はふうと息を吐いて腰を上げ、自らの足跡を辿って歩き出す。


「(……焦りは禁物だな)」


 よくよく考えてみれば、単純なことであった。

 俺がこの鎧を手に入れた雪原までは、自分の足跡を辿っていけばいい。そして雪原からは、あの銀色の雫と共に残された何者かの足跡を辿っていき、そうしてあの森の中にまで戻れば、そこからはあの獣人たちの足跡を辿っていけばいい。


 そうすれば、獣人たちの集落に辿り着くはず。何も難しいことはない。



「……よし」



 そうこうしているうちに、先程の雪原にまでは戻ってくることが出来た。後はここから先程の足跡と銀色の雫を辿ればいい。この鎧は確か、あの小高い丘の向こうに埋まっていたはず。となると、方角的に俺が目指すべきは――


「…………」


 足を止める。ため息を付いて、背の剣に手を伸ばす。


 丘の向こうに、もそもそと動く影。荒い息遣いと共に、雪を掻く音が聞こえてくる。雪の丘に手をついてそっと覗き込むと、俺の身の丈よりも大きな白い毛玉が地面に蹲り、太く巨大な腕で雪を掘り返している。


「……」


 その腕を止めたかと思うと、今度はばりぼりと何かを噛み砕く音。何をしているのかは、すぐに分かった。


 喰っているのだ。

 つい先程俺が発見して掘り出し、そして埋め直したエルフたちの死体を掘り返して貪っていやがるのだ。恐らくは、埋め直した時にその肉の匂いが漏れ出てしまったのだろう。安らかに眠る彼には悪いことをしてしまったな。


 だがこれも自然の姿。この毛玉も、この厳しい環境で必死に生きているのだろう。彼には悪いが、ここは素通りさせてもらおう。あまりモタモタしている余裕もないのでな。

 

 俺は毛玉の食事を邪魔せぬように踵を返してそっと丘を下り、ぐるりと遠回りするような形でその場から離れる。なにせ、見たこともない獣だ。どんな力を持つかは想像もつかない。触らずに済むなら、それに越したことはない。



「!」


 一歩を踏み出した先。踏みしめた薄氷が、パキと大きな音を立てる。はっとして振り返ると、丘の向こうから白く巨大な毛玉がにゅっと顔を出した。


「あおーん」


 気の抜けるような、可愛らしい声。丘の向こうからこちらを見やる、つぶらな瞳。ひょっとしたら害のない可愛らしい獣なのではないかと、立ち尽くしたままそんなことを考えていると、ぬうっと現れた巨大な爪が雪の丘を握り潰す。


「……」


 思わず、身構える。巨大な毛玉が丘を押し潰すようにして俺の方へと這い寄り、血と肉片に塗れたその口元を覗かせる。咄嗟に剣を抜くと同時に、毛玉は巨大な牙を剥いた。


「ア"オ"オ"オ"ォォォォォォッッッ!」


「っ」


 咆哮と共に跳び上がる毛玉。叩きつけられるその拳を咄嗟に躱し、振り返り様に剣を振り抜く。驚くほど長く強靭なその腕に斬撃が走り、耳障りな悲鳴と共に雪原が赤く染まる。俺は雪原に脚を取られて身を転がした。


「くそっ」


 氷に滑り、雪に埋まる脚。どうにも足の自由が効かない。雪原に剣を突き立てた俺は、横薙ぎに振り抜かれたその拳を脇腹で受け止めた。


「ア"ア"アァァァオ"ォッ」


「ッ」


 凄まじい衝撃。宙を舞い、やがて柔らかな地面に叩きつけられる感覚。俺はしっかりと握りしめた剣を杖代わりに身を起こし、凶暴な毛玉を睨む。


「アァ……う、うぅ」


 毛玉は傷ついた自らの腕を舐め回し、ぱくりと裂けた分厚い毛皮を見つめている。やがてそのつぶらな眼は、滾るような怒りを秘めた獣の眼へと変わる。


「……」


 交わる視線。絡み合う殺意。

 俺は雪の塊を踏み砕き、どこか柔らかな足場に剣を構え直した。


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