緊急事態ですっ!
明王を女子高生たちにとられないため、
ついに如月が動き出す!!
翌日。
緊張して、思うように動けない。
時計はすでに昼の四時を回っていた(それまでは神宮さんの用事があったため、私がその時間を提案したのだ)
ちらほら見えるカップルにどうしようもなく自信を無くす。
好きな人とのお出かけって、こんな格好でよかったんだよね?
変じゃないかな?
輝流さんに言われた通りツインテールにしたけど、おかしくないだろうか。
「悪いな、水瀬。少し遅れ……た」
き、来たあああああ!
相変わらず今日もかっこいい私服でいらっしゃる!
水瀬如月、それだけでもうおなかいっぱいでございます!
「……水瀬……だよな?」
「は、はい。……変ですか?」
「いや……なんかびっくりして。そういう格好もするんだな。似合ってる」
似合ってるって言われた! キャーキャー!!
はっ、いかんいかん! ここは冷静にっと……
「んで、どうした? 昨日いきなり用事はないとか聞いて」
「神宮さんに、コーヒーのことを学ぼうと思いまして」
「オレに?」
「喫茶店に働いといて何も知らないのは気が引けるなあって。今ならどこもイベント中だし、何か参考になればと」
というのは、神宮さん向けの建前だ。
ギリギリまで一緒にいたい、私なりのわがまま。
それに、ちょっとでもカップルに近づきたいしね。
「まったく……感心だな。その真面目さをあの三人に見習わせたいぜ」
「そんなことないですよ」
「いいぜ。そういうことなら俺が色々教えてやる」
そう言って私達のデートのようなものが始まった。
神宮さんとの二人きりは相変わらず緊張した。
だけどそれをほぐすように、神宮さんは優しくリードしてくれる。
彼の知識は、もう尊敬してもいいくらいだった。
さすがマスターをやってるだけはあるんだなと改めて実感する。
事前調査をした私でも至らない部分もあったし、彼が新しく教えてくれた喫茶店はどれもおいしいメニュー勢揃いだった。
「神宮さん。どうしたらあんなおいしいコーヒーを作れるんですか?」
店をめぐる中、私は彼に聞いてみた。
「おいしいかは知らんが、多分経験じゃねぇの? 今年でマスターやってて五年はたつし」
五年!? ひぇぇ、私まだ中学生だし!
恐るべし、年の差!
「でも俺よりうまい奴なんざ山ほどいるぜ? こんなにコーヒー店回っててなお、そんなことが言えるのか?」
「何言ってるんですか! 神宮さんのコーヒーほど、おいしいものはありません!」
我ながら、よく言い切ったと思う。
以前述べたことのあるように私はコーヒーのような苦いものは嫌いだ。
だが神宮さんのを飲んでから、多少は平気になったのである!
神宮さんの上をいく者はいない!
「水瀬……よくほかの喫茶店前でいえるな……」
「本当のことです!」
「わかったから、それ以上は聞きたくない」
頑なにそう言った神宮さんの顔は、心なしか赤く染まっていた。
そして残酷にも、あっという間に楽しい時間は過ぎてしまう。
太陽は沈む間際で、夕方になってしまった。
「すっかり暮れてきたな。まだ時間あるのか?」
「はい、九時までなら大丈夫です。神宮さんはどこか行きたいとことか、ありますか?」
「特にねぇが、お前はないのか?」
「私は……」
特にないですと言おうとした、その時! 私の目にあるものが入った。
ま、間違いない! あれは……!
「神宮さん、すみません! 緊急事態ですっ!」
「おい、水瀬?」
神宮さんに返事している暇なんてない!
だってここはアニメオタクにとって素晴らしい聖地、アニメグッズ専門店!
「ふぉぉぉ! アニメ雑誌の表紙があきお様じゃないか! やばい、買わなきゃ!」
「おい水瀬、店前で何叫んでんだよ」
神宮さんがこっちに歩いてくる。
私は興奮を抑えることが出来ずにいた。
「見てください! 今月のアニメ雑誌であきお様が特集されてるんです!」
「あきお……? つうかお前、そういうの見るんだな」
「はい! 私、このあきお様っていうのが一番大好きで……あ」
気が付いたときには、もう遅かった。
私が見せた雑誌の表紙には無論、あきお様が写っている。
それを見ているのが、私が大好きな神宮明王さん。
あかん、これはやっちまったパティーンやないかい!
「……このキャラ、俺そっくりだな……なんでだ?」
「さ、さあ……制作会社に聞いてください」
「水瀬は俺とそのキャラ、どっちが好きなんだ?」
ふいに聞かれ、へ? と声をあげる。
そりゃ現実にいる神宮さんの方が理想だし、ああでもあきお様のツンデレっぷりも捨てがたい……
むむ、むむむむむ……
「神宮さん!! ……じゃなくてあきお様!」
「結局どっちだよ」
「だって!」
「本当面白い奴。わかった、待っといてやるから買ってこい」
神宮さんの笑みがまるであきお様のようで、私は何も言えなくなったのだった。
(つづく・・・)
ちなみに如月同様、私も表紙で決めちゃうタイプです。
思ったより内容が薄かったりすると、後悔するにもかかわらず
やめられない謎ですよね~
次回、二人きりの時間はまだまだ続く!