にがっちゃんが幸せなら
輝流の自宅にて、明王との意外な接点を知った如月。
しかし彼から放たれた一言で、事態は急変?!
意味が、分からない。
今、この人なんて言った? 付き合わね? だとぉ?
いくら何でも、軽すぎはしませんかねぇ?
大体私、神宮さんが好きなんですよ?
それは輝流さんだって、知ってるはず……
「輝流さん、一体何の冗談ですか。私は、神宮さんが好きなんですよ?」
「知ってるよ」
「じゃあどうして……」
「知ってるからこそ、言ったんだ」
え?
私が戸惑う半面、彼はいつもの笑みで返した。
「いつも見てる限りにがっちゃんって恋愛未経験っぽいからさ。ここは数々の女性と付き合ってきたオレが、力を貸そうと思って」
「失礼な。そりゃあ恋愛経験は浅いですけど……」
「じゃあさ、こうしようよ。オレを、仮の彼氏にするの。もし王様とデートするってなった時に、練習としてできるでしょ?」
た、確かに。私の知人に付き合ってる人とかいないし……
って、そうじゃなくて!
「そんなの輝流さんに悪いです! 好きでもない私なんかと……」
「オレがいいから言ってるんでしょ」
「……………本当ですか?」
「ん♪」
この人は、何を考えているのだろう。
楽観的で無鉄砲に行動してるようには見えないし……
わざわざ私のためにしてくれるなんて……本当、意味分かんない。
「……分かりました、いいですよ」
「おっ、やった~♪ じゃあメアド頂戴♪」
「まさかとは思いますけど、そのためにやってませんよね?」
「違うよ~相談する時とか楽じゃん?」
「はあ……分かりましたよ……」
そういって赤外線で自分の携帯アドレスを送る。
輝流さんは携帯を自分の胸に当て、にんまり笑った。
「にがっちゃんのメアド、ようやくゲット~!」
「大袈裟ですね。でも……」
「ん?」
「輝流さんと仲良くなれて、本当よかったです。私、男子の友達とかいなくて。ありがとうございます!」
素直に言った、私の本音。
それが彼にどう響いたのかは、私にはまったく分からなかった。
この時、彼の苦しみを分かってあげられていたら……
何も知らない私は、ただ彼に微笑むばかりだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「本当に駅までで大丈夫?」
「はい、送ってくれてありがとうございます」
「いいって、いいって。じゃね、にがっちゃん。またバイトで」
「忙しいところ、お邪魔してすみませんでした。それでは」
如月はそういいながら、駅の中へ消えてゆく。
彼女を見送りながら力が抜けたように、輝流は近くにあったベンチに座り込んだ。
顔をうずめ、はあっと深いため息をつく。
「何が仲良くなれてよかっただよ……くそ……」
うずめた顔が、だんだんと赤みを帯びてゆく。
高鳴る心臓の音が、輝流の顔をどんどん赤くする。
輝流のため息は、深くなるばかりだった。
そんな彼の首に、温かい感触が伝わる。
顔をゆっくりあげると、すぐそばにコーヒーの缶があった。
「メール読んだ」
缶を渡しながら、ぶっきらぼうに言い放つ。
彼ー尾上魁皇は呆れたように、隣へ腰かけた。
「文長すぎて読むの大変だったわ。ほれ、おごりだ」
「……ありがと、チューン」
「んで? どうするんだよ?」
魁皇が聞くと、輝流は黙ってしまう。
彼の顔は、心なしか苦しそうにも見えた。
輝流を見ながら魁皇はため息をつき、タバコに火をつけた。
「お前、水瀬が好きだろ」
図星を当てられ、ついコーヒーの缶を落とす。
ひいていた顔の赤みが、ますますひどくなる。
魁皇はふっとタバコをふき、ため息交じりで言った。
「それなのに仮の付き合い始めたとか、意味分かんねぇんだけど」
「うるさいなあ。別ににがっちゃんなんて好きじゃないし」
「意地はってる場合かよ。あいつ、マスターが好きなんだろ? 本当にそれでいいのかよ」
「……………オレは、にがっちゃんが幸せならそれでいい」
笑う輝流の顔には、迷いがなかった。
付き合いが長い魁皇ですら、あまり見たことのない表情。
魁皇はまたタバコとともにため息をつき、彼の足を蹴った。
「何いい人みたいなセリフはいてんだ、アホ」
「いった! ちょっと足蹴らないでよー」
「苦しくなるぞ、これから」
「大丈夫だって。恋をしてる者同士、頑張っていこ~よ♪」
「一緒にすんな」
不機嫌そうに言う魁皇に、輝流はふっと笑みをこぼした……
(つづく・・・)
ここから輝流が悲恋のヒロイン化します。
主人公が女の子なので、ヒロインポジションがこの作品にはいないわけですが
あえてあげるとすれば輝流の他いません。
呼んでくれた友人からは、ひどいを連呼されたほどですから。えへへ。
ちなみに今日は七夕、ということで
別作品にて書きおろしてます。
初めてしくにくのメンバーで挑戦しました!
次回、ルナティックハウスのクリスマスをお届け!