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伝えるべきじゃねぇのか

それぞれの恋が動き出す中、東京旅行も最終日へ!


いよいよ第二部ラスト!! 第三部への幕が上がる!!

「ミョウちゃん、従業員のみなさん。おはようございま~す。いい夜を過ごせましたか?」


ええ、いろ~んな意味で過ごせましたとも……まったく。

翌日、朝食のために集められた場所には悠翔さんがにこにこして出迎えた。

昨日の服装とは異なり、彼は何かの制服のようなのを身に付けていた。


「悠翔さん、その格好は?」


「あれ? ミョウちゃんから聞いてないんですか? 僕、ここのオーナーの息子なんですよ~」


なるほど、だから美宇さんがコネクティングルームにすることができたのか。

まったく、いい迷惑だわあ。


「なんや一人だけか? もう一人はどこ行ったん?」


「ノンちゃんはお仕事でもう行っちゃいましたよ~せっかくですし、聞いていってください!」


「言われなくても、そのつもりだっつうの」


はて? 何が何やら。


「王様、玲音さんだっけ? あの人何の仕事してるの?」


「お前らまさか知らないのか? あいつは世界で屈指の実力を持つ、天才バイオリニストだぞ」


なんとまあ! 驚き桃の木山椒の木!

どうりで見たことあると……って私の場合は違うか。


「つーことは聞きに行くんすか、今から」


「そういうこと」


「なんだかすごいですね、マスターさん。そんな有名な方とお友達なんて」


「まあな」


おお、照れてる! 神宮さんかわいい!


「あ、そうだ。おい悠翔」


「は~い、なんでしょう?」


「何もしねぇから鈴木に言われてやったことを全部吐け」


「そんな怖い顔しないで下さいよ~僕はただ協力してあげただけです。ね?」


「な、なんのことや?」


相変わらず分かりやすいなあ、美宇さん。

神宮さんは二人に軽くデコピンし、行くぞと声をかけた。

朝食後、私達は玲音さんの演奏を聴きに足を運ばせた。



玲音さんの演奏は半端なくすごかった。

とても、一つのバイオリンの音色とは思えない。

滑らかに自然と難しいとこまですらすら弾く。

しかも、なんて楽しそうに弾くのだろう。

私が聞き惚れる横では、眠そうにあくびをする輝流さんがいた。


「眠いんですか?」


「ん~昨日よく寝れなくってさ~子守歌みたいじゃん? これ」


昨日と聞いて、すかさず思い出す。

夜中、誰かいたような気配を感じたことを。にがっちゃんとつぶやく声がしたことを。

にがっちゃんと呼ぶ人なんて、輝流さん以外考えられない。

悠翔さんとつながっていたことを考えると、部屋のペアキーを持っててもおかしくはないし……


「輝流さん、昨晩私の部屋に来ました?」


私が言うと、彼の顔色が変わった。

図星のように、輝流さんは笑みを崩す。


「お、起きてたの?」


「にがっちゃんって聞こえたので……」


「あちゃ~ばれちゃったか~。いや~、寝顔を写真で撮って王様に送ってあげようと思ったんだけどカメラ忘れちゃって」


聞いていて嘘に見えるのは、気のせいなのかな。

いつも以上に彼が苦しそうに見える。

だから私は、言った。


「辛い時とか、いつでも言ってくださいね。私、力になりたいです。輝流さんがいつも助けてくれるみたいに」


「へ……?」


この時の彼の顔がどんなだったかは、暗くてよく分からない。

ただ、すごく動揺してたような……


「演奏中によくしゃべれるよな、お前ら」


はっと我に返ったのは、尾上さんの怒ったような声だった。

彼は私達の後ろの席で、腕を組みながら言った。


「寝てる鈴木といいお前らといい、マスターに絞られるぞ」


「す、すみません……」


「次ん曲、ショパンの別れの曲だってよ。音楽に疎い俺でも知ってるし、お前らも聞けば分かるんじゃね?」


曲名だけじゃよくわからなかったけど、演奏を聴いてそれが何の曲化一発でわかった。

きれいなバイオリンの響きが、ホール中に響き渡る。

伴奏のピアノとマッチする彼の演奏。

透き通るくらい、奥深い深みのある演奏だ。


「……すごい」


私がそうつぶやくと、左隣にいた神宮さんが誇らしげに言った。


「今頃かよ。留学して上達したって聞いてから、俺も聞くのは初めてだ。玲音も悠翔も自慢の親友だよ」


聞きながら、私は思った。

それは多分、あの二人にとっても同じことなんじゃないかなって。

自分じゃ気付いてないかもだけど、神宮さんも同じくらいかっこいいんだもん。

そんな人と付き合えて誇らしげに思う半面、神宮さんがいつか遠くに行ってしまうような気がして寂しくなった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

「演奏、聞きに来てくれてありがとう。またそっちで講演するときには言うね」


「またお会いしましょうね、ミョウちゃん!」


二人の友人に見送られながら、飛行機で東京を旅立つ。

一時間もたたないうちに、女子組は寝てしまった。

東京の疲れと夜遅くまで起きていたせいだろう、仲良く三人寄り添っていた。


「みんな寝ちゃったね」


それを前の席から見守るようにして、輝流が笑った。

彼の隣には土産の袋をまとめている魁皇と、そっぽを向いて寝顔さえ見えない明王がいる。


「三人とも、寝顔かわいいなあ。そだ、写真とっとこ」


「本当に寝顔とりに行っただけなのか」


唐突に口を開いた魁皇に、何のことかわからないと首をかしげる。

まとめ終わった袋を上の荷物置きにあげ、真剣な顔を浮かべた。


「水瀬が言ってたやつだよ。わざわざ鈴木から借りてあいつの部屋行って、何をした」


「人聞き悪いなあ。何もしてないよぉ」


「じゃあ、何をしようとした?」


途端、自分の行動がフラッシュバックする。

魁皇の顔をまともに見れなくなり、彼はふいっと目線をそらした。


「正直自分でもわかんないや。あのままミュウミュウに行かせればよかったのに、ペアキーをとったり……キス……しようとしたり……」


「何してんだよ、お前」


「オレが聞きたいよ……にがっちゃんといるとオレがオレじゃなくなるみたいで……怖いんだ」


かすかに震える輝流の手に、魁皇は自分の手を重ねた。


「恋するってのはそういうことだろ。俺も同じだから、そんな怖がるな」


「チューン……なんかいつも以上に頼もしい気がする……」


「一言余計だ。一応お前の気持ちは分かる。でも、思いは伝えるだけ伝えるべきじゃねぇのか」


魁皇のその言葉に、何も言えずに輝流はうつむく。

そんな二人の会話を、明王がうっすらと聞いていた。

彼の思い人が、自分の好きな人とも知らずに。

彼らの運命が大きく動き出そうとしていた……


(第三部へつづく!!!)

第一部が出会いなら、第二部はきっかけがテーマだと思っています。

全然進まなかった第一部に対し、第二部は恋愛が

あふれるわあふれるわだったので・・・


次回から第三部! 怒涛の展開ラッシュでお届けします!

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