いじめるとは心外だな
大成功をおさめたホワイトデーデート。
そして、月日はたち全員集合したある日、何かが起こる!?
私、水瀬如月は今日も今日とて絶好調である。
なぜなのか、それは今日がエイプリールフールだからだ。
四月一日、エイプリールフールは嘘をついても怒ってはいけない日。
そんな日には毎年各サイトで、何かしらイベントをやっている。
その企画が豪華のなんの!
バイト終わったらさっそく見てやる! そうと決まれば、早く着替えなきゃ!
更衣を約三分で済ますと、部屋を出たすぐそばにある休憩室に尾上さんがいた。
「よぉ、水瀬。着替え早いな」
「まあ……中学の時に早着替えが習慣についちゃって。お久しぶりですね、尾上さん」
「バレンタイン以来だな」
尾上さんといえば臨時職員のため、忙しい時か神宮さんが私用でいない時しかやってこない。
今日ここにいるのは多分、美宇さんが昼からしかバイトに来れないためだろう。
彼は足を組みながら椅子に腰かけ、タバコをふっと吐いた。
「あ、そーだ。水瀬、これやるよ」
「? なんですか?」
「バレンタインのお返し。ホワイトデー来れなかったから」
バレンタインというと、ダメもとで挑戦したお礼にあげたミサンガのことだろうか。
別にあれは神宮さんのプレゼントを選んでくれたお礼だから、お返しなんていらないのに。
わざわざくれるなんて、尾上さんって結構いい人なのかも。
そう思いながら、彼からもらった紙袋を開けると……
「なっ、なんでこんなに牛乳や魚がたくさん入ってるんですか!?」
「俺オススメのカルシウムたっぷり食品だ。うまいぞー」
「いりません! 余計なお世話です!」
「なんだ、せっかく背が伸びてきてるのに。もったいない」
「へ!? 本当ですか?」
「嘘」
ムキーッ!!!!!!
「待て、水瀬。今日はエイプリールフールだ」
うぐっ……!
「うえ~ん!!! 天衣さ~~~ん!」
結局、天衣さんにすがる始末……
私が叫びながら休憩室を出ると、彼女は不思議そうな顔をしながら私を受け止めた。
「どうかしたんですか? 如月さん」
「聞いてくださいよ! 尾上さんがいじめるんです!」
「いじめるとは心外だな。そんなことをした覚えはないぞ」
「じゃあ何をしたっていうんですか?!」
「水瀬をいじった、それだけだ」
ああ、もう! この人、私をなんだと思ってんだあああああああああ!
「まあまあ如月さん、落ち着いて。尾上さんも、その辺にしてあげてください」
「……ちっ」
つまんなさそうに舌打ちする彼を見て、ガッツポーズをする私。
さすがに天衣さんには勝てないだろ! ふははは!
そんな光景をにこにこしながら、輝流さんが見ていた。
「にがっちゃんはいじりやすいからね~。あ、そーだ。チューン、聞いた? 近々地球滅びちゃうらしいよ~」
「ふーん……で?」
そんな彼の嘘(?)に間髪を入れずに、尾上さんは真顔で返した。
「ひどっ! ちょっとは信じてくれてもよくね?」
「分かりきった嘘に付き合う気はねぇんだ、悪いな」
「本当だったらどうすんだよ~チューンのケチ!」
さすが輝流さん、といったところか。
今のは私でも嘘だと分かるくらい、単純だぞ。
まったく、よくやるなあ。
それを真顔で返す尾上さんは慣れてるんだろうな、うん。
「ああ、今日はエイプリールフールでしたね」
「天衣さんも、嘘とかつくんですか?」
「嘘、というか……よく友達に私が笑顔で言うと、嘘に聞こえないとは言われました」
た、確かに……
笑顔でさらっと本音言いそうで怖いな……
「おい、お前ら。残念ながらこの店……もうすぐ閉店になる……」
!? ま、マジですか!?
せっかくの神宮さんとの一時が!
「……なんてな」
「お、王様! 縁起でもないこと言わないでよ! 冗談に聞こええないんだけど!」
「それが本当にならないように、しっかり働け」
意地悪そうに笑う彼を見て、最強なのはやっぱり神宮さんだなと実感した。
「ちわ~っす。ちょっと遅れてもうたわ」
昼を過ぎた頃、ようやく美宇さんがやってきた。
彼女は部活のユニフォームをまとったまま来たらしく、まだ春だというのに半袖を着ていた。
「あ、ミュウミュウ。ちょうどいいところに~あのね~近々地球滅びちゃうらしいよ~」
「ん? それ、エイプリールフール用の嘘か?」
「ま、そんなとこかな~」
「残念やったな。エイプリールフールの有効期限は昼までなんや。ま、そんなんに騙される奴はおらんやろうけど」
へ~、そうなんだ。初耳。
じゃあもう嘘はつけないんだ、つまんない。
ん? ってことはサイトのイベントも午前中までなのか?
そうだったら早く帰んないとやばいんですけど!
「お、鈴木も来たか。ちょっといいか」
とそこに、神宮さんがやってくる。
彼はカレンダーを親指で刺しながら、ふっと笑った。
「明後日からの三日、あけとけよ」
「なんでですか?」
「例のやつの時期が来たってことだよ」
????
何のことやらさっぱりわからない。
神宮さんのセリフを聞いて、真っ先に反応したのは輝流さんだった。
「マジで!? 王様! やった~!」
「ついにこの季節がやってきたんやな~マスター、太っ腹~」
「毎年連れて行ってもらってありがたいですね」
ああ、もう! 何が何やらわからへん!
一体この人達は何を話しとるんじゃ!
分からないのは当然、尾上さんも同じだった。
「あの、俺や水瀬にも分かるように説明してくれませんか」
「そーいや話してなかったな。一言でいえば、社員旅行みたいなもんだ」
旅行、ですと!?
しかもこのメンバーと!?
なんか波乱しか見えないんだけど!
「ってなわけで明日、各自十万持って来いよ。忘れた奴は留守番な」
じ、十万んんんんん!?
(つづく!)
エイプリールフールで嘘を巧みにつける明王さんが、
一番強いと私は思います。
ちなみにこの話が、私は結構好きです。
出番が少なめな魁皇さんが生き生きしているのが楽しいのなんの・・・
え? そもそもこの作品の舞台はどこなのか、って?
そんなの、気にした時点で負けですよ。うんうん。
次回、舞台は東京へ!!




