また一緒に二人で行こうな
付き合いたてほやほやの明王と如月。
ホワイトデーのお返し代わりのデートは、まだまだ始まったばかり!
神宮さんが連れてきてくれた店内には思ったとおり、新種のガチャポン勢揃いって感じだった。
ガチャポンごときに金を払わすのは気が引けたため、百円は私が出し回すのだけやってもらった。
結果好きなキャラが一発で当たり、一生大事に家宝として持ってようとひそかに企んでいた。
そんな時だった。
「水瀬んとこの大学って、ゲーセンの立ち入り禁止されてねぇんだよな?」
ふいに聞かれ、私はあいまいにうなずく。
「そうですけど、よく知ってますね」
「杉本がゲーセン好きで、よく鈴木達と一緒に回ってたからな」
へ~、そうなんだ。
確かにわが冥皇大学には、そういう規則はない。
おかげで躊躇なく行き来している。
高校の時は身長が身長なため、あまり疑われずには入れたりしたのは私の特権と思っていい。(というか、補導員がいなかっただけなのかもしれないが)
大学が忙しいからあまり寄れなくなっちゃってるのが、一番悲しいんだけどね。
「そこゲーセンだし、少しくらい見てきていいんだぜ? 時間はあるんだし」
「そうですね、ありがとうございます」
と言って色々回っていた、その時!
「ああああああ!」
思わず絶叫した私に、神宮さんが顔をしかめる。
私はたまらず、その場へかけた。
「うわあ、かわいい!!」
そこにあったのは、かわいすぎる猫のぬいぐるみだった。
猫は私の大好きな動物。それのかわいいかわいいぬいぐるみだぞ!?
取りたい! 否、とらなきゃあかん!
「神宮さん! これ取ってもいいですか!?」
「いいけど、出来んのか?」
「なんとかなります!」
そういって私は百円を投入し、アームを動かす。
猫の首をつかんだと思いきや、アームはするりと何事もなかったかのように元の場所に戻ってゆく。
だああああああ! くそ、むかつく!
これだからUFOキャッチャーは嫌いなんだ!
「なんとかなるんじゃなかったのか」
うぐっ……!
「ま、まだ一回です! 意地でもとります!」
そういって二回、三回と続けていく。
が、どれもするするすべるばかりでうまくつかめない。
ようやくつかんだ! と思いきや、ほんの数ミリしか動かず……
結果、百円がきれる始末……
ガチャポンしたからな~千円おろすしかないか。
「水瀬、そこかわれ」
え?
戸惑う中、神宮さんは強引に百円を投入する。
すごく器用にかつ繊細で、見事きれいに猫のぬいぐるみの上にアームを持っていく。
そしてなんと、あんなに苦戦したものをいとも簡単にとってしまったのだ!
「ほれよ」
「え、ちょ……ありがとうございます」
「昔、真咲の土産によくとってやったんだ。やるの久しぶりだったから、自信はなかったが」
「そうなんですね! 神宮さん、すごいです!」
「これで二つ目、な」
そういって靴下にゃんこを私の頭に乗せてくれる。
かわいすぎる人形と神宮さんのかっこよさに、私は何も言えなくなった……
かわいいな、ぬいぐるみ。
ふわふわした感触を実感しながら、それをバックに入れる。
しっかし、今日は本当にいい日だったなあ。
本は買えたしガチャで好きなキャラは当たったし、ぬいぐるみもらえたし!
もう最高!
……って浮かれてどうする!? 仮にもこれ、デートだよね!?
なんか二人で普通に過ごしてるだけじゃん!
とか何とか考えていると、突然神宮さんの携帯が鳴った。
彼は「悪い、ちょっと」とだけ言って、携帯を取り出し耳に当てた。
「もしもし? ……ん……分かった。……心配ねぇよ、じゃあな」
通話を切ったのを確認し、たまらず私は聞いた。
「誰からですか?」
「母さん。今日が夜勤なの、すっかり忘れてた。誰もいなくなるから、家の留守番頼むって話」
「ああ、なるほど」
「すまないな、水瀬。俺から誘ったのに、帰ることになっちまって」
「とんでもないです。神宮さんと二人で過ごせただけで、私幸せです」
そう言いながら、ゆっくり駅まで歩く。
帰り道が違うから、電車はバラバラだ。
せっかくのデートだったのに、私何もできなかったなあ。
「あ、そういえば」
「なんですか?」
「願いかなえてやるって言ったあれ、最後の一個残ってたよな? なんかあるか?」
あ、言われてみれば……
うーん。もう駅も近いし、何かできることあるかなあ。
恋人らしいこと……恋人らしいこと……
……あっ!
「あつかましいお願いになっちゃうんですが、それでもいいですか?」
「かまわねぇよ」
「せっかく付き合い始めたので……手とか……ちゃんとつないでみたいです」
自分でも何を言っているのか分からなくなる。
ただ、憧れがあるだけなのかもしれない。
恋愛マンガを読んでから、ずっと夢だった憧れの恋愛。
クリスマスの時はひっぱられてただけだったから、ちゃんとつないでみたかった。
でもこんな形で叶えてもらうのは、卑怯なのかなあ。
「……それだけ、か?」
「あ、えっと! 無理にとか言わないんで、気が向いた時にやってくれれば……」
「バーカ」
神宮さんはそういうと、私の手に自分の手を重ねた。
指と指を絡め合わせ、彼の体温が伝わりつつある。
ってこれ恋人つなぎってやつですよね!? ひゃああああ!
「そういうのは、自分からしろっつうの」
はうぅぅぅ……
「お前、手小さいな」
「い、言わないでください。気にしてるんですから」
「やっぱ背が小さいと、手も小さいのか?」
「神宮さんっ!」
夢のような、時間だった。
もし叶うなら、時間が止まってほしいくらい。
ずっと、この手を握っていたい。
ずっと、神宮さんと一緒にいたい。
「お前さ、その髪留めにかたどられたライラックの花言葉知ってるか?」
唐突に神宮さんが言った。
何のことやらと首をかしげていると、彼は私の頭を優しくなでてくれた。
「一つは、青春の思い出。今日のことが、水瀬にとっていい思い出になってくれたらっつう願い」
「青春の……思い出……」
「そしてもう一つは、初恋」
彼はくすりとほほ笑む。
その微笑があまりにも美しかった。
「こんなに人を好きになったのは、生まれて初めてだ。俺は付き合ったこととかないし、お前に不快な気持ちをさせてしまうかもしれない。それでも俺はお前が好きだ」
「……神宮さん」
「また一緒に二人で行こうな、如月」
笑った神宮さんの声が、いつまでもこだまする。
その間も、彼は静かに笑っていた。
初めて呼ばれた如月という名に、赤くなる頬を隠さずにはいられなかった……
(つづく!)
花言葉って、結構感慨深いのが多いですよね。
なので私は、こうやって使うことが多いです。
しかしながら、神宮さんはかっこよすぎですよね。惚れざるを終えないと思います。
くそう、如月がうらやましい・・・
次回、久しぶりに全員集合?




