にがっちゃんのことっ……!
本命である明王と最高のデートをするために、
輝流とのデート練習はまだまだ続く!
「あの映画マジすごかったね~オレ最後びっくりしたよ~」
「そうですね。でも結果的にハッピーエンドだったんですし、いいじゃないですか」
「まね」
輝流さんに連れられたのは、以前神宮さんからも教えてもらった喫茶店だった。
あの時は中まで入って食べたりしなかったから分からなかったが、ここのスイーツなかなかにうまい!
まあでも、天衣さんのには負けるけどねっ。
「私恋愛もの久しぶりに見たので、なんか衝撃受けました。友達と同じ人を好きになるってこと、本当にあるんでしょうか」
「あるんじゃないかな? 応援してた自分が、いつの間にかみたいな」
「複雑ですね」
「オレにはいたいくらい分かるな、あの友人の気持ち」
え?
きょとーんとしていると、我に返ったみたいに輝流さんは慌てて訂正した。
「いや、その、たまたま偶然女子友達からそういう話聞いただけで! 特に深い意味はないから! マジで!」
「はあ……」
「そういえばさあ、にがっちゃん。最近小説、オレに渡さなくなったね」
ぐはあ! 痛恨の一撃があ!
「どっか調子悪いの? スランプ?」
「いえ、たいしたことはないのですが……」
「先輩に遠慮なしでしょ? 教えてよ」
「……この前あった小説コンテストで、望ましい結果が出なくて……」
文芸部の活動として応募した、私の小説。
中身はあるマンガを読んだきっかけで書きたくなった、バンドをテーマにしたもの。
続きが読みたくなるような一話がテーマだったため、まだ完成していない。
結果は賞も何もとれずに終わった。
だから小説を書く気にも、読ませる気にもならなくて……
「にがっちゃん。その小説、完成してなくてもいいから見せてよ」
「でも……」
「オレ、にがっちゃんの小説好きだよ。まるでにがっちゃん自身の心が書いてあるみたいで」
どうしてこの人は、こんなにも私の小説を読みたがってくれるのだろう。
友達に、そんな人いなかったのに。
私が強制に読ませて感想もらってるだけなのに、この人は違う。
嬉しいような、切ないような気持ちでいっぱいになってゆく……
「わかりました、今度持ってきます」
「おっ、やった♪」
「本当に変わった人ですね、輝流さんって。私輝流さんに出会えてとてもうれしいです」
そういいながら、はっと時計を見る。
やっば! もうこんな時間じゃん!
早く帰らないと、終電に間に合わん!
「すいません、輝流さん。電車の時間なので、お先に失礼します!」
そういって椅子から立ち上がり、行こうとしたその時―
「待って!」
輝流さんが、私の腕をつかんだ。
どうしたのかと、恐る恐る振り向いてみる。
「オレ……実は……にがっちゃんのことっ……!」
それから先は、無言だった。
彼はぐっと顔をしかめ、真剣な顔で私を見つめている。
すると輝流さんはにっこり笑った。
「いい? 今から言うことは嘘じゃなくて本当のこと。一回しか言わないから、よく聞いてね」
「?」
「にがっちゃんは自分が思ってる以上に、かわいいとオレは思う」
!?
「ななな何を言ってるんですか、輝流さん!」
「聞いて! にがっちゃんはちゃんとした女の子だ! 自分のことになるとネガティブになっちゃうけど、すごく頼りになるしオレよりしっかりしてるよ!」
輝流、さん?
私が戸惑っている中、彼はまた笑って見せた。
「あまちゃんやミュウミュウとは違う魅力がにがっちゃんにはある、だから王様も君を選んだんだと思うよ」
「そんなこと……」
「自分に自信もって、行ってきな」
彼は本当に嘘をついてない。
だからこそなんだか恥ずかしくて、素直に受けいれることが出来ない。
自分に自信、か……
「わかりました。輝流さん、本当にありがとうございました!」
「うん、またね」
もう私はこの気持ちから逃げない! やってやるんだ!
当たって砕けろ、水瀬如月!
レッツ、ポジティブシンキングだぜ!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オレは、何を言おうとしたのだろう。
喫茶店近くの河原で、輝流は顔をうずめる。
あの時―自分は何をしでかそうとしたのか、思い出すだけで腹ただしくなる。
如月が好きなのは自分が尊敬する人でもある、神宮明王だ。
分かっているはずなのに、オレは一体……
「見つけた」
うずめていた顔を、ゆっくりあげる。
そこには彼の友人である、魁皇がいた。
魁皇はため息をつくと、輝流の隣に腰かけた。
「ここだと思った。デート、うまくいかなかったのか?」
「そうじゃないんだけど……ちょっとね」
「なんだよ。せっかく人がデートプラン作んの手伝ってやったのに」
魁皇はそういいながら、タバコに火をつけふっとふいた。
タバコの煙が風で揺れる中、輝流は彼にぼそりとつぶやいた。
「オレ、にがっちゃんを苦しめようとした……告白したら、どうなるか分かってるのに……」
「告白か」
魁皇はタバコを口に加え、ふっと息を吐いた。
「輝流。お前は、本当にこれでいいのか」
唐突に放たれた言葉に、輝流は戸惑う。
だが彼はすぐにいつも通りの笑みを浮かべてみせた。
「言ったじゃん。にがっちゃんが幸せなら、それでいいって」
「そうだけど……お前はどうなるんだよ。水瀬といればいるほど、苦しくなるだけだろ」
魁皇はまるで、輝流の本心を見透かしているようだった。
彼は気まずくなり、顔を俯かせる。
そしてふっと笑みを浮かべた。
「心配してくれるんだ。チューンは相変わらず優しいね。告白なんて、オレには無理だよ。だって、マスターにはかなわないから」
そういう輝流の笑顔には、一つも曇りがなくキラキラ輝いているようにも見えた……
(つづく・・・)
いやあ、悲しいですね。
こういう切ない恋愛は大好物なので、
輝流はどんどん悲しい目に
あわされるんでしょうね・・・すみません。
次回、いよいよ本番!




