変わった奴だな
夏休み時期にもらったノートをきっかけに、
明王のことを何にも知らないことに気付いた如月。
それを本人に直撃したところ、
如月はある病院に連れられて・・・
「紹介する、こいつは金城真咲。俺の弟だ。こっちは水瀬如月、従業員の一人だ」
「初めまして、真咲です。兄がいつもお世話になってます」
開いた口が閉まらないまま、ポカーンとしてしまう。
この人が、神宮さんの弟だって?
弟がいたことにも驚いたが、はっきり言って全然似てない!
雰囲気が違いすぎる!
「水瀬如月です。あの……お二人、本当に兄弟なんですか?」
「今そう言ったろ」
「似てないでしょう? よく言われます。兄さんってぶっきらぼうだから」
「お前は黙ってろ」
はへ~なんてこったい。
私も弟がいる身として、似てないといわれるのは慣れてるけど……。
性格とか正反対だなあ、失礼ながら。
「ほい、差し入れ。おやつにでも食っとけ」
「あ、ありがと! せっかくだし、如月さんもゆっくりしてくださいね」
なんかここが家みたいだな。
私はそう思いながら、置いてある椅子に腰かける。
神宮さんももう一つの椅子に座ると、私に向かって話し出した。
「俺の母さんは、ここの院長なんだ」
「院長?」
「病院経営してんだよ。小さい頃から通ってるから、顔見知りが多いんだ」
だから千鶴さんがここに……
ってことは金城って……
「金城っつうのが本当の名字。わけあって俺が神宮を名乗ってるだけだ」
「わけあって……?」
「兄さん、おじいちゃんの喫茶店を守るためにマスターになったんですよ」
神宮さんのかわりに、真咲君が答えた。
彼は優し気な笑みを浮かべ、私に言った。
「僕達のおじいちゃん、喫茶店のマスターだったんです。兄さんが今やってるとこの。でも死んじゃって。おじいちゃんのかわりに、兄さんがそこを継いだんですよ」
そうか、そういうことか。
名字が違う理由は、おじいちゃんの意志を継ぐためなのかな。
だからあのノートは金城なんだ。
「お前、ルナティックハウスに置いてあるプラネタリウムの機械分かるよな?」
「あ、前に見せてもらった……」
「俺の父さんが務めてた博物館から支給してもらったんだ。こいつのために」
こいつ?
そういわれて苦笑いを浮かべたのは、言うまでもなく真咲君だった。
「お父さんも死んじゃって、博物館もなくなっちゃったとはいえまさかもらってくるとは思わなかったなあ。兄さんって本当物好きだね」
「お前にだけは言われたくない」
「どういうことですか……?」
「実は僕、生まれつき足が悪いんです」
衝撃が走った。
まさか、そんなことが実際にあるなんて。
彼は自分の足を触りながら、困ったように笑った。
「お父さんの影響か、僕宇宙とかが大好きで。小さい頃から宇宙飛行士になりたかったんです。自分の足で歩くことができないのは、分かってるのに」
「だからこいつに星だけでも見せてやりたい、そう思って喫茶店にあの名前を付けたんだ」
ルナティックハウス。
フランス語でルナといえば月。
おいてあるプラネタリウムの機械。
この二つは神宮さんからの、真咲君へのプレゼントみたいなものなんだ。
私、何も知らなかった。
だから神宮さんの家には、星や宇宙に関するたくさんの本が置いてあるんだ。
なんて、感動するような話なんだろう。
「だ~も~辛気くせぇ。そんな顔すんなよ、らしくねぇ」
「だ、だって……」
「だからあんま話したくなかったんだ、気使わせたくなかったし」
神宮さん……
「話してくれて、ありがとうございました。神宮さん」
私の微笑みに、神宮さんはふっと笑う。
そのかっこよさに思わず顔をそらす。
「あの、僕の勘なんですけど……。水瀬さんって兄さんの彼女さんですか?」
!?
「おまっ、変なこと聞いてんじゃねぇよ!」
「あっ、その反応的に当たり? 兄さんが女の子紹介するなんて、もしやと思ったんだ~♪」
うう……恥ずかしさで死にそう……
「いつから付き合ってるんですか? 兄さんのどこが好きなんですか?」
「え、えっと~……バレンタインデー……から?」
「だからやめろっつってんだろ! 水瀬も答えなくていい!」
怒ったように怒鳴り散らす、神宮さんの顔は少し赤くなっていた。
はうっ、かわいい!
貴重なでれ部分を拝ませていただきやす♪
「ったく……真咲……お前ってやつは、似なくていいとこまで母さんそっくりだな」
「だって兄さん、今まで友達しか紹介しなかったでしょ~? たまにはいいじゃん、かわいい彼女さんなんだし」
意地悪そうに笑う真咲君が、とてつもなく狩屋に似ていた。
こうしてみると、二人は本当に仲がいいんだなと実感する。
新たな神宮さんの一面を知ったみたいで、ほんの少しだけ嬉しくなった。
「んじゃ、またな真咲」
「お大事に」
「またね~兄さん。如月さんも、また来てくださ~い」
真咲君に見送られ、私達は病院を出る。
知らなかったな、神宮さんにあんな過去があったなんて。
色々あったというのに彼は何も文句言わずにこなすなんて、大人だな。
ますます惚れちゃった、てへ☆
「悪かったな、話してやれなくて」
「いえ……神宮さんのことわかっただけで、私嬉しいです」
「変わった奴だな、お前」
「もしかして初詣の時のお願いって、真咲君のことですか?」
「まあな。あいつもあきらめてねぇし、俺も可能性にかけようと思ったんだよ」
だからあんな念入りに……。
本当うらやましいな、こんな風に思ってくれるお兄さんがいて。
私も神宮さんみたいなお兄さんがほしかったなあ。
「そういえば千鶴さんに、いつも話聞いてるよ~と言われましたが、何話してるんですか?」
神宮さんの顔が一気にひきつる。
焦っているような表情で、私に言った。
「べ、別に何でもいいだろうが!」
「え~気になります~」
「うるせぇな。仕事してくれる真面目な奴って話だ!」
本当かなあ。
怪しむ私に、神宮さんは思い出したように口を開いた。
「そーだ。お前、三月十五日暇か?」
「三月って……まだ二月ですよ?」
「細かいことはいいから答えろ」
「多分暇だと思います。私常時暇人なので」
ん? 待てよ。
三月十五日といえば、私の書いているキャラクターの誕生日じゃないか!
前言撤回! お祝い小説かかないと!
急いで訂正しようとした、その時!
「その日、ホワイトデーの次の日だろ? 当日は仕事あるし、バレンタインのお返しにどっか行かないか。二人で」
大変ですよ、みなさん! 私デートのお誘いをされちゃいました!
水瀬如月、今年は波乱な年になりそうです!
(つづく!!)
ここで明かされる、神宮さんの秘密なわけですが
母強し、とはこのことですね。
弟の真咲君は年齢的には如月とそんな変わんないんじゃないかと
思っています。無論、母親似なのはいうまでもなく。
次回、大ピンチに現る救世主とは!?




