全然知らないなあって……
ついに念願の交際を果たした如月。
しかし、彼女は問題にきづくことに・・・
「ふんふんふ~ん♪ ふふふん~♪」
携帯から流れる歌を口ずさみながら、私は家を掃除していた。
神宮さんと付き合い、数日が過ぎた。
付き合ったからといって特に変わったことはない。
しいて言えば、家まで送ってくれるようになったことかな。
それに私を見る目が心なしか優しく見えるんだよね。
もうそれがたまんないのなんの!
「きーちゃん、うるさい。へたくそな歌を歌わないでよ」
……ってごらあ! そこのバカ弟! 人が歌ってるのを遮るんじゃないよ!
布団にゴロゴロしながら、弟である睦月はつぶやいた。
「せっかく僕も聞いてるのに、きーちゃんのせいで台無し~」
「あんたには言われたくないんだけど」
「僕は聞くのが好きなの~」
はあ、これだからかわいくない。
大体カラオケ行ったことないくせに、私の歌のうまさがわかんないんだよ。
それに、歌詞を全部覚えてない睦月にだけは言われたくない!
「これ、きーちゃんの? お母さんがおきっぱにするなって」
「え~どれ~?」
「投げるよ~えいっ」
こらこら! 物を始末にしない!
まったく誰に似たんだ、この人は。(多分百パーセント私のせいなんだろうけど)
睦月が私に投げ渡したのは、一冊の本だった。
この本は……うげっ、神宮さんから借りた本じゃん!
しかも、まだ全部読んでないし!
ていうか貸してくれたの、去年の夏じゃなかったっけ!?
貸してくれた……といえば……
教科書の山をあさくり、一冊のノートを探り出す。
それは、名前に金城明王と書かれた数学要点まとめノートだ。
金城明王。
夏休みに行ったときに気になったっきり、すっかり忘れていた。
考えてみれば、私神宮さんのこと何にも知らないんだ……。
そんなんで彼女として見てもらえるのか?
こんなんじゃ……私……
そんな私の横で、携帯のバイブが鳴る。
着信には、神宮さんの文字があった。
『もしもし。ちょっといいか?』
「はい……」
『なんだ、ずいぶん元気ねぇな……』
「私、神宮さんのこと全然知らないなあって……」
私が言うと、神宮さんははあ? と辛気臭い返事を返した。
「去年借りっぱなしだったノートを見て、思ったんです。なんで名字が違うのかなあって。神宮さんのこと知らないくせに彼女になろうなんて……さしでがましいですよね、私」
『……水瀬』
はっと我に返り、私は慌てて訂正した。
「あっ、すみません! 私、その!」
『そこまで考えてるとは思わなかった。そうだよな、なんも話してねぇもんな』
神宮さんの笑っているような、泣いているかのようにも聞こえる声。
すると彼はよしと言って、私に
『これからあいてるか? 今からそっちに行く。全部、話してやる』
と言って、電話を切ったのだった。
数分後、神宮さんは私の家の前に現れた。
車の鍵を回しながら「乗れ」とだけ言って、運転席に座る。
神宮さんの車―黒いポルシェに乗せられながら、移動をは始めた。
「どこにいくんですか?」
私が聞いても、神宮さんは一言も発しなかった。
それ以上何も聞くことが出来なかったので、私も黙っていた。
窓から見える景色が、見たことないものへと変わる。
ただでさえ地域に疎い私はここがどこなのかさえ、わからなかった。
しばらくして、神宮さんは車を駐車場に止めた。
「ついたぞ、ここだ」
車を降り、改めてあたりを見渡す。
そこは病院だった。
看板に「金城医院」と書かれていて……
って、金城?
私の疑問にかかわらず、彼は病院の中に迷いもなく入っていく。
病院に入ってすぐ、ある看護師が神宮さんに話しかけた。
「あら、明王君。いらっしゃい」
「こんにちは。母はいますか」
「ちょうど休憩中だから、呼んできますね」
そういって出てきたの以前会ったことある人だった。
「あきちゃん、どうしたのこんな時間に。あら、あなたは従業員さんの……こんにちは」
なんとそれは、神宮さんの母・千鶴さんだったのだ!
「こ、こんにちは! 水瀬如月といいます!」
「まあ、あなたが水瀬ちゃん? いつもあきちゃんから話は聞いてるわ」
え? いつも?
私がきょとんとしていると、神宮さんはごほんとわざとらしい咳ばらいをした。
「母さん、あいつに会うついでに弁当作ったから届けに来た。ほれ」
「あら、ありがとう」
「あいつ、起きてるか?」
「ええ。ご飯時間だから、ちょうど食べてるんじゃないかしら」
「そっか、じゃあまたな」
神宮さんは千鶴さんにそう言って、行くぞと私に促した。
エレベーターで三階まで上がると、158と書かれた病室に訪れた。
「よぉ、きたぞ」
「あ、いらっしゃい! 久しぶりだねっ」
「元気そうだな、真咲」
そこにいたのは優しげな雰囲気を漂わせている、美青年だったのだ!
(つづく!!)
そういえばこうやってちゃんとした形で
弟が出てくるのは、
初めてかもしれませんね。
ちなみにきーちゃんと呼んでいるのは、
ニックネームのようなもので
お姉ちゃんと呼ばせたくないからです。
リアルでもそうなのですが、
今更呼んでも、きもちわ・・・
すみません、なんでもないです。
次回、第一幕からにおわせてきた
神宮さんの秘密に迫ります。




