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この前のことだが……

天衣・美宇と女子トークを踏まえながら

完成したチョコレートを手に

明王のもとへ!

そして今回、ついに奇跡が起きる!?

バレンタインデー当日。


「輝流さんに尾上さん、バレンタインのチョコです。いつもお世話になってます♪」


天衣さんがにっこり笑いながら、二人の男性に渡す。

その先にいるのは、もちろん輝流さんと尾上さんだ。


「ご丁寧に毎年どーも」


「あまちゃんのチョコ、いつもおいしいよ~ありがたくもらうね」


「いえいえ」


毎年あげてるんだ……天衣さん、鈍すぎ……。


「ちゃんと味わって食うんやで? 天衣のチョコは一年に一度しか味わえへんし」


「あれ? ミュウミュウからはないの?」


「うちは義理とかあげない主義でなあ。本命しか渡さへん!」


「へ~本命いるのか」


尾上さんがさりげなく気づいたその言葉に、美宇さんがぎくりとなる。

さすがに勘が鋭い輝流さんが、それに気付かないわけがない。


「え~ミュウミュウ、好きな人いるの? だれだれ? どんな人?」


「いいいるわけないやろ!」


「分かりやすいな、鈴木って」


「お前に言われたくないわあ!」


うわあ、見事にばれたな。

会話的に凪君のことは知らないみたいだけど、ばれるのも時間の問題だろうな。


「水瀬」


ドキッと心臓が跳ね上がる。

振り返ると、そこには神宮さんがいた。


「話があるんだが」


き、きた~~~~~~~~~! お約束のベタ展開!

どうする!? 呼び出し=告白の返事=断られる可能性大!

こんな私が告白して、オッケーされるわけがない!


「お前ら、ちょっと店頼む」


神宮さんはそういって休憩室に私を誘う。

しばらくすると、神宮さんは話しだそうとした。


「この前のことだが……」


「ちょっと待ってください! その前に渡したいものが!」


「渡したいもの?」


「バレンタインのチョコ、です。渡したかったので……」


断られるくらいなら、気持ちを伝えてからの方がいい。

神宮さんには私の気持ちを知ってもらうだけで、それだけで満足なんだから。


「それでは急用があるので、このへんで!」


「待て!」


走り刺そうとした直前、神宮さんは私の腕をつかんだ。


「話聞かずに逃げるのかよ」


「だ、だって……」


「……この前の告白、オッケーしてやってもいいぞ」


!?


え、今なんといいました? 聞き間違い? だって、ね? 普通に考えてありえないよね?


「神宮さん……? 今なんと……?」


「だから、付き合ってもいいっつってんだよ。恥ずかしいことを何度も言わせんな」


ま、ま、マジですかあああ!

夢だ、でなきゃこんなシチュエーションない!

嘘でしょ!? もうわけ分かんない!


「告白されて自分なりに考えたんだ。お前が俺を好きなように、俺もお前が好きなんだと思う。あいまいだが、これが俺の気持ちだ」


はわわわわ……


「これからもよろしくな、水瀬」


「……本当にいいんですか? 私で、いいんですか?」


「お前がいいんだよ、ったく」


こうして私は神宮さんと晴れて、付き合うことに成功した!


「よかったですね、如月さん」


「これくらいないと張り合いがなくて面白くないからなぁ~めでたいこっちゃ」


いやあ、それほどでも~~~!

水瀬如月。まさに、ハッピーエンドだぜ!


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

「よかったね~チューン。あまちゃんからチョコもらえて~」


のんびりとした口調で、輝流が言う。

彼らの手には、天衣が作ったチョコが握られていた。

キレイにラッピングされたのを眺めながら、魁皇ははあっとため息をついた。


「ただの義理チョコだろうが。毎年もらってるし、嬉しくねぇよ」


「ま~たそんなこと言って~なんだかんだ言って喜んでるくせに」


「うるせぇ」


「尾上さ~ん、輝流さ~ん」


呼び止められた声に、二人は振り向く。

喫茶店の方から走ってやってきたのは、如月だった。


「はあ……はあ……よかった、間に合った」


「にがっちゃんじゃん。どしたの、そんな慌てて」


「お二人に渡したいものがあったので……これなんですけど」


如月はそういって、二人の手にあるものを渡す。

それは天然石のついたミサンガだった。


「水瀬、なんでミサンガなんか……」


「この前手伝ってくれたお礼です。尾上さんには天衣さんとうまくいくように、恋愛運がアップするやつを」


「余計なおせっかいを……」


「ねぇねぇ、オレの何運?」


「輝流さんは~……仕事をしてほしいので仕事運を」


「ひっどい!」


「お二人のおかげで私、神宮さんと付き合うことができました!」


それを聞いた輝流の顔から、一瞬にして笑顔が消える。

魁皇は、一番にそれが分かった。

だが輝流はパッと笑顔に変え、笑ってみせた。


「へ、へ~。にがっちゃん、王様と付き合うの? よかったね~」


「はい! あ、私そろそろ帰ります! お疲れ様でした~!」


そういいながら、小走りに去っていく如月。

笑顔で小さく手を振る輝流。

魁皇は彼を見ながら、呆れたような顔を浮かべた。


「輝流。水瀬のためとはいえ、これでよかったのか?」


「いいんだよ、にがっちゃんが嬉しそうなら。笑顔で祝福しなきゃ。……そう思ってたのに」


輝流の目から一粒の水が落ちる。

彼の中で隠していた本音が、涙とともにこぼれる。


「泣かないって決めたのに……オレ最低だ……ちくしょう……」


ぼろぼろとこぼれる涙を止めることができず、ただ延々と泣いてしまう。

そんな彼を優しく抱きしめるかのように、魁皇が支える。


「お前は最低な奴なんかじゃねぇよ」


「チューン……」


「俺が保証する」


優しい魁皇の口調が、輝流の心を揺さぶる。

彼は糸がぷつりと切れたように、魁皇の胸の中で泣き続けた。

〝好きだよ、にがっちゃん。たとえこの思いが、届かなかったとしても〟


(つづく・・・)

ついにここまできましたよ、みなさん。

あの如月がやりましたよ。

しかしながらハッピーエンド、なのに

素直に喜べないのは私だけじゃないはず。

本編ではこんな扱いを受けていますが、

昨日8日は輝流の誕生日でしたので

別作品にて書き下ろし小説をあげています。

みなさんも悲恋のヒロインを

影ながら祝福してあげてください、なんて。


次回、彼の核心に迫る!


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