おめでとうございます!
魁皇と輝流の協力を得て、誕生日プレゼントを
かうことに成功した如月。
そしてついに、二月十日を迎える!!
二月十日、決戦の日当日。
その日私は、そわそわしっぱなしだった。
どうやって告白しようか、どのタイミングでプレゼントを渡すか。
考えていたせいか仕事が手につかず、神宮さんに少し怒られることが多かった。
ダメだなあ、私。
そんな思っている中従業員のみんなが動き出したのは、閉店の一時間前だった。
「マスターさん! お誕生日おめでとうございます!」
「これはうちらからの祝いや。たんと食ってええで!」
二人が笑顔で差し出したのは、ワンホールのケーキだった。
さすが天衣さん、お手の物だな。
美宇さんも一緒に作ったんだろうな。味はあんまり期待しないでおこう。
「わざわざありがとな。家に持って帰って食べさせてもらうよ」
「今回は自信作やで~隠し味を入れといたんや♪」
「え? 隠し味って美宇ちゃん、まさか……」
「味はよくないことはわかってるから安心しな」
神宮さんは呆れ顔で、ため息をつく。
そんな彼に今度は輝流さんと尾上さんが話しかけた。
「んじゃ、オレ達からも♪ 王様! 二十四歳、おめでとう!」
「年齢は余計だ。へぇ、お前らはコーヒーときたか」
「俺と輝流と二人一つずつっす。どっちが作ったか、当ててみてくっさい」
尾上さんが二つのコーヒーを、神宮さんに渡す。
何だか私まで緊張してきて、ごくりと唾をのんだ。
すると神宮さんは香りをかいだだけで、すぐに‥‥
「右が滝本で、左が尾上だな?」
「あったり~♪ さすが王様、においでわかっちゃうんだね~」
「これくらいわかるよ」
す、すげぇ! さすがルナティックハウスのマスター! 尊敬する限りだよ!
とか何とか言ってる場合じゃない! 私もやらなきゃ!
「神宮さん! ちょっとお話が……」
勢いで言ったせいか、彼は顔をしかめる。
すると気を利かせたのか、輝流さんが
「じゃあオレら先帰るね~お疲れ~」
と言って、みんな一緒に帰ってしまった。
私の横を通り過ぎる美宇さんや、天衣さんが笑い返してくれて‥‥や
「んで? なんだ?」
「あの……えっと……その……」
おちつけ、私。やればできる。
あんなにたくさんの人に力を貸してくれたんだから!
勇気を出せば、未来だって変えられる!
「こっ、これ! 誕生日おめでとうございます!!!」
包装紙で綺麗に包まれたプレゼントを、ゆっくり渡す。
私は顔を真っ赤にさせずにはいられなかった。
「これ……プレゼントか? お前まで、ありがとな。中身みてもいいか?」
「は、はい……」
ごそごそと袋を開けると、彼は感嘆の声を上げた。
「マグカップにコーヒー豆じゃねぇか。しかも、俺が気に入ってる品種……やるな、水瀬。ちょうど切らしてたんだ」
え? まさかの当たり引いた?
私のくじ運ってすごいわあ。
「あ、それからこれも……」
そういってずっとポケットに入れていたものを渡す。
それは天然石をコーティングした、青と紫のミサンガだ。
「水瀬、お前……」
「サッカーをやってたと聞いたので、ピンときたんです。願いが叶うように天然石もつけてみました。神宮さん、念入りに初詣でお願いしてたみたいだから」
「まさかとは思うが、手作りか?」
「恥ずかしながら、不器用なのもので。昨日は徹夜だったので、その分迷惑をおかけしました。それで、あの……」
心臓がどっくんどっくん脈打つ。
私ははあっと息を吐き、勇気を出していった。
「私、バイト始めた頃から神宮さんのことが好きでした! 友達からでもいいので、付き合ってください!」
い、言えたああああああ!
ありがとう、従業員のみなさん! ありがとう、応援してくれた皆さん!
「……ありがとな、水瀬」
はっと顔をあげると、神宮さんは私に微笑んだ。
「お前の気持ちは受け取った。だがもう少し、時間をくれないか?」
「……分かり、ました……」
私の恋は、まだ始まったばかりだ!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ただいま」
「おかえり、あきちゃん。仕事お疲れ様。先にお風呂、入ってきていいわよ」
母・千鶴に言われ、明王は浅くうなずく。
家に帰りつくと彼はすぐ、お風呂へと入ってった。
彼の脳裏にはどうしても振り払えない、あの事が思い浮かんでいた。
『私、バイトはじめたころから神宮さんのことが好きでした! 友達からでもいいので、付き合ってください!』
従業員如月からの、告白。
今まで告白など、たくさんの女子からされてきていた。
なのに彼女からの告白だけは、戸惑いを隠しせざるをおえなかった。
熱を帯びてゆく頬、抑えきれない胸の鼓動……
「目の前ちらついてんじゃねぇよ……くそ……」
そういいながら、風呂の水に顔を付ける。
付き合う。
それがどういうことなのか、自分にはよく分らない。
告白されたとはいえ付き合ったこともないし、恋愛経験も浅はかなものだ。
だったはず、なのに……
何もかも、あの時からだ。
如月とともにいった、クリスマスでのお出かけ。
自分と瓜二つなキャラクターへの表情、観覧車内で見せた彼女の寝顔姿……
この甘ったるい動機はやはり、好きということなのか……?
風呂から上がるとテーブルの上には、ケーキや豪華な料理がずらりと並んであった。
「出来たわよ。誕生日おめでとう、あきちゃん」
「母さん。祝ってくれるのは嬉しいんだが、二十四にもなるとさすがに恥ずかしいというか……」
「いいじゃない、我が子の誕生日なんだから」
母はそういいながら、何かに気付いたように明王に聞いた。
「あきちゃん、その箱は?」
「ああ。従業員からもらったんだ。コップとか豆だから、家でも使えるだろ」
「なるほど。それであきちゃん、嬉しそうなんだ」
びっくりして、明王は顔を上げる。
そんな彼とは逆ににこやかに、母は笑っていた。
「だってあきちゃん、すごく優しい顔してたから。何かいいことあったのかな~って」
「べ、別にそんなんじゃねぇよ」
「好きな人でもできた?」
「うるせぇな、さっさと食うぞ!」
はいはいと苦笑いする母を見ることができず、彼は顔をそらす。
戸惑いと嬉しさが募る中、彼の頬は赤くなるばかりだった……
(つづく・・・)
やっとここまで来たか、って感じですね。
ちなみに私は告白なんて、一度もしたことがないです。
やってみたいもんですよねえ。
次回、二月と言えばあのイベント、ですよね!




