第3話:お国のおはなし。
むかしむかしあるところに、貴族のお屋敷がありました。
そこには優しい女の人と、少し厳しいおばあちゃんと、それからお国の王様がいらっしゃいました。
ある日、女の人と王様の間に、可愛い小さな女の子が生まれました。
名を「幸」といいます。
名前の通り、幸は幸せに、明るく元気な子に育っていきました。
しかし、そんな平和な日常も束の間。
ある年の冬、幸のお母さんも、幸のお父さんも、幸のおばあちゃんも。
みんなみんな、死んでいってしまいました。
お母さんは病気で。
おばあちゃんは老衰。
お父さんは自害なさいました。
幸のまわりには、つかいの男以外、誰も、誰も、いなくなってしまいました。
やがてその男も亡くなり、幸は本当に独りぼっち。
もう笑うこともできない。
話すこともできない。
とうとう幸は、何もできなくなってしまいました。
ただ毎日、生きていくだけ。
不思議と、何も食べなくても生きていけるようになりました。
そして、まだ幼かった幸には、みんなの死がそれほどショックだったのか、成長もしなくなってしまいました。
背も伸びない。
太らない。
大人になれない。
それからずーっと、火事でお屋敷が無くなっても、お国が戦争でボロボロになっても。
幸は生き続けました。
やがて平和になり、街には灯りも増え、身につける服までも変化をしていきました。
人の顔も、変わりました。
優しい人が、減りました。
けれど、たった1人だけ、心優しい少年がいました。
その人は、昔幸につかえていた男に、すごくよく似ていました。
不幸だけど、いつも笑ってて。
お人よしで。
幸はその人と、お友達になりたいと思いました。
だから一緒に、旅に出ました。
遠い遠い、あのお屋敷を目指して。