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華咲く頃  作者:
3/7

第2話:動き、発す。

「もう時は、完内なのね…」


そう呟くのは、中学生くらいだろうか。

セーラー服を着た、小柄な少女。透き通る様な緑色の目は、どこか遠くを見つめている。


「母さま、今も貴女は、黄泉の国より私を見守っていてくれているのでしょうか?」


その少女の母親は、きっともう他界しているのだろう。

若くして母親を亡くす。何とも残酷な話だ。


「父さまも、おばあさまも…みんな、みんな…」


少女は涙を流さない。

この都会、人混みの中で涙を流すことなど許されない。

そう思っているようにも見えた。プライドが傷つく、とでも思っているのだろうか。


『君、大丈夫?』


1人の少年が、声をかけた。


「顔色悪いよ?病院に行った方が…「私の肌が白いのは元々だ。」


少年の心配をよそに、少女は話し出す。


「あれからもう、幾千の時が経っただろうか。

心も身体も白くくぐもり、年もとらぬまま、私は何処へ歩を進めれば良いのだろうか。」


「君、何を言って…?」


少年が問いかける。


「お前、何か困っていることはないか?」


「…は?」


「例えば、そう…愛しい人が、何年も前から帰って来ない、とか。」


確かに、恋とは違うかも知れないが、僕には昔から仲の良い『久瀬ユウキ』という少女が居た。

しかし、僕に一言残したまま、どこかへ姿を消してしまったのだ。

彼女が言っているのは、その事なのだろうか。

もしそうだとしたら、何故その事を知っているのだろうか。一体、この子は…?


「私の名はナナミサチ。」


聞いてもいないうちに、彼女は自分の名を名乗りはじめた。


「お前の名は?」


「織田、瑞樹だけど…」


何故か反射的に、まだ名前しか知らない少女に、名を名乗ってしまった。


「ミズキ、お前は今、私と同じような状況にある。」


「…?」


「お前ももう、気づいているのだろう?

数年前かた、自分の成長が逆再生されはじめているのを。

私もそれと同じようなものだ。数千年前、境安時代より、成長が止まってしまっている。

つまり、『不老不死』ということだな。」


その通りだった。

僕が26歳の時からずっと、僕の成長は逆再生され続けている。

今はもう、過去1番嫌な時を過ごした、17歳という年齢になってしまっていた。


「お前は、この現象が起こっている理由を知っているか?」


「いや、知らないけど…何となく、思っていることなら。」


「何だ?」


「うーん…でも、本当に何となくだから…」


「いいから言え!」


彼女の…サチに表情の変化が訪れるのを、僕ははじめて目にした。


「あ、うん。分かったよ。

僕には、幼なじみがいたんだ。それもさっき君に質問された「何年も前から帰ってこない」女の子。

ユウキとは、小さい頃からずっと一緒にいて、すごく仲が良かったんだ。

だけど、僕は明るくて人気者のユウキとは違って、地味で弱気な、いじめられやすい性格だったんだ。まぁそれは、今でも変わっていないんだけどね、ははっ。」


僕が話しながら苦笑しようと、サチの表情は一切変わらず、ただ僕の話を真剣に聞いていた。

それに応えようと、僕も真剣に話をはじめる。


「そのこともあって、僕は小学校高学年にあがった頃から、ずっといじめられていた。それは中学校、高校も一緒で、ユウキはそれでもいつも僕と一緒にいてくれた。

だけど、責任を感じたのか知らないけれど、17歳の時、ユウキは突然僕の前から姿を消してしまったんだ。


『瑞樹、ごめんね…瑞樹ッ』


僕の胸に飛び込んできて、そう行ったかと思うと、ユウキは走ってどこかに行ってしまったんだ。

それから、もう僕の前にユウキの姿が現れることは、2度となくなった。


ユウキが居なくなってからも、僕のいじめは続いた。

今度は本当に友達がいなくなって、僕はいつも1人だった。大学に進学してもいじめは続いて…そこでも僕は、耐え続けた。

耐えたというよりも、慣れた、というのが正しいかな?

もう僕にとって、『いじめ』は生活の1部のようなものになっていたしね。

そうやって大学も無事に卒業して、普通の会社に就職したんだけど、そこでもいじめは続いた。

社会人になってまでもこんなことをする人がいるのかと、僕はすごくガッカリしたよ。

だけどそんな事を思ったって、いじめが止まるわけでもなかったから、僕は仕事をこなしつつ、いじめも受け続けた。


そして就職してから2年後、26歳の時。

成長が逆再生する現象が起こりはじめたんだ。

成長が逆再生するのは不定期で、いつの間にか身長が縮んでいたり、顔が幼くなっていたり…。

それで、今に至る、というわけなんだ。」


こんなに長く喋ったのは、久しぶりだった。

ユウキがいなくなってから、僕には家族以外、話す相手もいなかったから。


「…なるほど。大体のことは分かった。」


「それで、僕が言いたいのは「『ユウキ』という女と、今お前に起こっている『成長逆再生』の現象、その2つに繋がりがあるかもしれない、ということだろう?」


「う、うん…」


「そのユウキという女に、兄弟はいたか?」


「いや、多分居なかったと思うけど…」


「それは、本当か?」


「う、うん、多分。」


サチはしばらく考えてから、こう言った。


「ミズキ、私について来い。」


「は?」


「ユウキという女を、捜しにいく。」


「さ、探しにいくって言ったって…一体どうするつもり?」


「それは、分からない」


「じゃあどうやって!」


「ただ、あちらの方向にいるということだけは、分かる。」


そう言ってサチは、北の方向を指差した。


サチは、何も言わずに歩きだす。


それにつられるようにして、僕も歩き出す。


ユウキは見つかるのだろうか。

そして僕の成長逆再生は止まるのだろうか。

そして、ナナミサチは、一体どのような少女なのだろうか。


動き、発す。



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