本当は君の名前を知っていました
唐突に始まります。お前ら今日初めて話すんだよな。っていうツッコミは無しの方向でおねがいします。
君に恋をしました。
本が好きじゃなくて、君が好きで図書室に行っていました。
話しかける勇気がなくて、いつも寝たふりをして、君を見ていました。
「ねぇ君、名前なんていうの?」
「毛野です。毛野美華」
「毛野さんか、オレは国見柊っていうんだけどさ、もし良かったらオレに本を紹介してよ」
本当は君の名前を知っていました。ただ君の名前を呼ぶ口実が欲しくて、話すきかっけが欲しくて、君の名前を聞きました。
「良いですけど...。国見くん本を読むんですね。意外です。」
「まぁね...てか敬語じゃなくていいよ。同じ学年でしょ。」
「うっ....つい。 あはは」
そう言って恥ずかしそうに笑う君が好きです。そして何も言えない自分が嫌いです。
「国見くんはどんな本を読むの?図書室ではいつも寝ているでしょ?」
「あぁ、そうだった。本は部活関係の本ばっかりってか、それくらいしか読まない...かな?」
「ふふふっやっぱりね。でも、専門用語とか多そうだもんね。弓道」
「あれ?なんで毛野さんオレが入っている部活知ってるの?」
「国見くんよく朝会で表彰されているでしょ。」
「そうだっけ」
「そうだよ、有名人でしょ。弓道部の国見柊って言ったら。」
驚いた。確かに表彰はされるけど、君はそういうのには無関心だと思っていたから。きっとどれだけこがれても、君は見向きもしないだろうと思っていたから。
「照れるな、でも意外だな、毛野さんは本にしか興味がないと思ってた。」
「私が運動オンチで、トロくて、頭でっかちだから?」
「頭でっかちって、どんだけ自信がないの?毛野さんは本をたくさん読んでいて、たくさんの知識がある。それって博識ってことじゃないの?」
オレは何を言っているんだろう。
「国見くんは優しいね。」
僕は優しくありません。優しいのは君ほうです。
「優しいのは毛野さんのほうだよ」
「えっ...はっ本の紹介をしなきゃ!えっと...厚い本や純文学にはなれてなさそうだし、短編かライトノベルがいいかな短編は短くて読みやすいし、ライトノベルは内容がやさしいから」
「お任せするよ」
「えっと。せめてジャンルを絞ってくれると助かるかな」
「あぁ、そっかごめん。んじゃあ、切ない系の恋愛系で」
「意外とロマンチストなんだね。私もそのジャンルは大好きだけど」
「人の事言えないじゃないか」
「あはは、そうだね」
本当は君が恋愛小説が好きなのを知っていました。
君がよく手にとっている小説家は本を読まない俺でも知っているくらい有名な恋愛小説家だから。
初めてオレが君を図書室で見かけたとき、薄く頬を赤らめ、大切そうに愛おしそうに本をめくり、読んでいる姿を見て君を好きになったから。見惚れて立ち尽くす程綺麗でした。
「じゃぁ甲乙さんの寂しい周波数なんてどうかな?」
「面白い?」
「んと、中・高生に人気の作家さんで私は面白いと思うよ。」
「じゃあ、これにしようかな。お願いします。」
「はい、確かに受け取りました。ちょっと待ってね。手続きするから」
「そう言えば毛野さん以外の図書委員って見たことないけどなんで?」
「うーん。なんでだろうね。みんな幽霊になっちゃったのかな。」
「何それ変なのはははっ」
「じゃぁはい本。期限までにちゃんと返してね」
「ありがとう」
「じゃあ休み時間終わるから、またね国見くん。読み終わったら感想聞かせてね。」
「もちろん。またね、毛野さん。」 『またね』と言う言葉がこんなにも嬉しく幸せで贅沢な言葉だということに初めて気がつきました。
きっとオレはこの本を今日中に読んで、明日またここに来るのだろう。
『また』君に会うために。
ツッコミは無しの方向でお願い致します。