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trivisa_03  作者: 致死量
6/6

安いスーツ

 加賀は再生が終わったのを確認し、登録したばかりの近藤の電話番号へ電話をかける。


「あー……ん゛ん゛っ、あー、あー。大変ですっ、……違うな。大変ですっ!」


 コール中に咳払いを数回行う。十回ほどコールが鳴った後、寝起きだろうか、普段より数段低い掠れた声で応答される。


『…………………………………………………はい、近藤』

「リーダーっ!!すみません朝早くから!た、大変ですっ!!はやくっ!」

『……落ち着け、どうした加賀』


 加賀の尋常でない慌てぶりに眠気も醒めたのだろう。冷静に聞き返される。


「ト、トリヴィシャが動画を投稿しましたっ!」

『なんだと?!』

「と、とりあえずメッセージにURL貼っときます」

『……三途を緊急招集する。お前も来い。六時には全員で集まれるように』

「はっ、はい!!」


 返事をした途端プツリと通話を切れた携帯をソファの上に投げ、早速出かける準備をする。

 ---そういえば安いスーツ、昨日着たやつしかねえわ。

 ただの緊急招集にクラシコイタリアのスーツでばっちり決めていくのも不自然だろう。それに、働き始めて日も経っていないのに金の出処を探られても困る。


 ---良乃みたいに金持ちの養子とかいう設定俺もつけちゃおっかな〜〜〜。

 なんて呑気なことを考えながら、加賀は三途の元へ向かう前に紅葉の所へ寄ってスーツを借りることにしたようだ。

 黒いスキニーパンツにグレーのパーカーを合わせただけのラフな格好で支度を済ませ、ソファに投げた携帯を拾いパンツのポケットへと仕舞う。

 それともうひとつ、黒いほうのスマートフォンも手に持ち、「烏骨鶏うこっけい」と登録された電話番号に電話をする。


『おっはー、動画みた?』

「おうみたみた。早速招集かかったわ。今から出るとこ」


 近藤とは違いワンコールで繋がった電話をしながら、加賀は鞄と車のキーを持って外へ出る。オートロックなので、扉を閉めればがちゃんと重い音がする。


『朝早くからご苦労っすね〜〜〜』

「おうもっと労ってくれ」

『却下』

「んだよ。あ、今から紅葉ん所寄るから」

『は?なんで?いいけど俺居ないよ?』

「は、逆になんで?仕事?」

『そうそう。もう出かける』

「客に来させればいいじゃん」

『他人を家にあげたくなーいしー』


 車のロックを解除し、エンジンをかける。助手席に鞄を置いてスマートフォンの通話設定を「運転中通話モード」にして鞄に仕舞う。


「まあいいや、安いスーツあるよな?借りに行くから分かり易い所に出しといて」

『あるよー。客に報酬とは別にお礼として貰ったスーツがまさかの二セット五千円のやつでさ。さすがに俺もこんなん着ないし。別に構わないけど必要ならちゃんと買っとけよー』

「ぐらっちぇー。思ったより三途の皆さんのスーツが良い物じゃなかったの。完全にしくった」

『オーケーオーケー。入ったらすぐ分かるように置いとくから』

「どーもね」

『じゃ、精々いじめっ子が殺されることのないようお仕事頑張ってくださーい』

「俺じゃなくて三途のメンバーがな」

『やだな〜〜〜ちゃんとお手伝いしないと慎ちゃん怒られちゃうよ?』

「はいはい頑張る頑張る、じゃ」


通話終了オフ」と呟いて、音声認識でスマートフォンを操作しスリープ状態にする。

 十分程車を走らせ、アパートの駐車場に車を駐める。車をロックし、鶏のキーホルダーが付いた鍵束の一つを取り出し、アパートのドアへ差し込んだ。


 玄関の正面にある扉を開けると、目の前にハンガーにかかったスーツがあった。

 ---うわ安っぽ!テロテロじゃん!

 とりあえず満足のいく安っぽい(というか安い)スーツが用意されていたことに加賀は満足する。早速着替え、此処に来るまでに着ていた服はこの家の洗濯籠に突っ込んでおく。


「……慎二が俺の家に来る時は必ず着てた服を置いてくから、そろそろ置いてった服でクローゼットひとつ埋まるって紅葉が言ってたよ」


 洗面所にいる加賀の背後からいきなり声が聞こえて、パッと振り返る。


「っわー、ビビった。良乃かよ。居るなら居るって言えよ。てかなんでここに居るんだよ」

「午前休みだから暇なの。紅葉に慎二が来るから暇なら来たらって連絡きた」

「ほぉん。お前が休みなのも珍しいし暇だからって寝てないのも珍しい」

「なんだよ僕がいつも寝てるみたいに」

「や、その通りだろ」


 加賀に良乃と呼ばれた男はムス、と頬を膨らました。常にダルそうな顔をしているため、頬を膨らましても倦怠感がありありと見える。


「寝なくても良いのに好んで寝る良乃は不思議だよな」

「娯楽として嗜むんだよ。それに、僕の周りは人が多いから、起きっぱなしだと怪しまれる」

「次期社長の坊ちゃんは大変ですねえ」

「顔が筋肉痛にならないだけマシな環境だよ。慎二、時間ある?」


 加賀は左手の腕時計(これも、普段使っているような物ではなく安物の時計に変えてある)を確認する。

 四時五十二分。近藤に言われた集合時間にはまだ余裕がある。


「一時間弱はあるかな」

「じゃー時間までちょっと味見してって」

「……俺これから仕事なんだけど」

「解毒剤も用意してあるからさー」

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